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恋の忘れ形見③
言わないと、分からないでしょう?
しおりを挟む「‥‥澪、顔を上げて下さい。」
驚くほどに穏やかな声で、千鶴は私の耳元で呼びかける。
それに対して、ただ首を横に振ることしか出来なかった。
「いいから、ほら‥‥。」
グイッと顎を優しく持ち上げられれば、露になる私の悲惨な泣き顔。
「や‥‥っ。」
乱暴に頭を振って、その手から逃れた。
そしてまた、胸に顔を埋める。
そんな自分を誰か殴ってほしい。
「やっぱり‥‥。
何があったんですか。
言わないと、分からないでしょう?」
ナデナデと、頭を覆う大きな手。
「うっさい‥‥。」
声が千鶴のワイシャツに吸収されて、こもってしまう。
「そうですか‥‥。」
「うん‥‥。」
どれだけの時間が垂れ流しになったか、分からない。
ただ
ブツ切れになった頭の中の数々の線を、
繋ぎ合わせる気力さえも無かったのは、確かだ。
千鶴は相変わらず私の背中を
仔猫にそうするように、ゆるゆると撫でている。
いやらしさなどまるで感じられない、慈悲の手付きだ。
けれどその手の規則的な動きは、突然止まる。
千鶴が発した言葉によって、
停止した。
「‥‥‥‥澪。
僕は、分かっていましたよ。
貴女がずっと、他の誰かを見ていたことくらい。
そんなこと、造作なく見抜けた。」
背筋が、サビ付いたように奇妙に固まった。
体中が、嫌な感じにザワザワとした悪寒でいっぱいになる。
言わないでほしい。
出来れば、極力、一生、
聞きたくない‥‥。
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