135 / 399
恋の忘れ形見③
玄関先で
しおりを挟む―ガチャ‥‥
自宅のドアを開ければ、視界にスーツの長い足が早々に入ってきた。
「お帰りなさい澪。
‥‥どうしたんですか?」
そして早々に、私の心情を察したようだ。
胸の中がグチャグチャで、今にも破れてしまいそうだ。
「‥‥‥‥。」
ヤバイ‥‥声が出ない。
電話で『そこにいて』なんて言ったくせに‥‥。
妹と自分のブーツが並べられた玄関口で、ただ立つことしか出来なかった。
どうしてだろう、1歩も動けない。
動いてしまえば、
何か一言でも喋ってしまえば、
全部が崩れ落ちてしまいそうだ。
「澪、鞄はどうしたんです?
上着も着ないで‥‥寒かったでしょう。」
すると千鶴は自分のスーツの上着を脱ぎ、素早く私の肩にそれをかけてきた。
あの日の、デートの時のように。
フワリと、千鶴の匂いが鼻孔をくすぐる。
目頭が熱くなる。
ドップリと、真っ赤な心臓が弾ける。
―ギュウッ
「澪‥‥?」
ほぼ脊髄反射だった。
私は、すぐ目の前にあった千鶴の体を抱き締めていた。
顔を胸に埋めるようにして、
スッポリと千鶴の中に収まった。
そうすれば、
顔を見られなくて済む。
喋らなくて済む。
「どうしたというんですか。」
聞き慣れた『やれやれ』という声を頭上で聞きながら、私は千鶴の意外にもガッシリした体に頭を押し付けた。
千鶴は‥‥
千鶴も、当たり前のように私の体を包み、抱き寄せてきた。
ずっと、何も考えずに
何もせずに、
この馬鹿な変態の胸に、情けなくも体を預けていたかった。
ただ、それだけだった。
なのに、私が体を寄せ付けているその本人が、それを許さなかったのだ。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる