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恋の忘れ形見③
先生の名前
しおりを挟む「ちょっとー!?どうしたのー!」
可憐な先生の声が、背中に突き刺さる。
今はもう、それが痛々しくて。
まるで槍が背中に突き刺さったかのようだった。
「澪!どうしたんですか!?」
ぶら下がった手の中の携帯から、千鶴の張り上げた声が響いてくる。
いきなり落ちてきた衝撃音に、私の身を案じたのだろう。
大丈夫だよ。
別に、たまたま携帯を落としただけだから。
ゴメンね?ビックリさせて。
「ちょっと‥‥そこにいて。」
驚くほど冷静な声で、携帯の向こうの千鶴に言った。
「はい。それより大丈夫ですか?先ほど、すごい音がしたんですが‥‥まさか倒れてなどいないですよね?」
ハラハラとした心配声が耳に染みる。
「うん、ちょっと手を滑らせちゃった。」
『気を付けて下さいね?』と、それに返す千鶴の声を遠くに聞きながら、私は帰る。
ただひたすら
千鶴が待つ家に帰った。
先ほど見た文字を、目に焼き付けたまま。
それを払うようにして、無理矢理頭のど真ん中に千鶴の顔を置いた。
―嘘だ
『お姉は雨宮のこと、よく知らないから』
ホントだね、凪。
私、全然知らなかったよ先生のこと。
先生の下の名前すら、知らなかった。
先生の名前って、
『雨宮 香澄』
って言うんだね。
―カスミ
蘇る、真っ黒いキモチ。
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