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恋の忘れ形見③
何かが胃の中で弾けた
しおりを挟む「‥‥みお?」
眼前で堂々と立っている男は私の名前を呼ぶと、幻を見るかのように目をギュッと細めた。
聞き慣れた、声だった。
―嘘でしょ?
「ミオちゃーん、ゴメンねぇ。
今お客さんが急に来ちゃって!
でも、そのまま居てくれてもいいのよ?」
「‥‥‥‥。」
研究室と廊下の境界線を挟んだ、私と男。
それを見て不思議そうに首を傾げる雨宮先生。
私と男を交互に見て『どうしたの?』と、何度も声をかけてきた。
そう言うのも、無理はない。
だって、私とこの男はお互い目を見開いて、衝撃に打ちのめされた顔をしているんだから。
―カシャーン!!
携帯が手から滑り落ちて、
蛍光灯の光が反射しているピカピカの廊下に叩き付けられた。
閑静な廊下に響き渡ったその破壊音と共に、心が真っ暗になった。
「‥‥何でココにいんの?」
それはこっちが聞きたいよ。
―克哉
「え?何?知り合いだったの?」
大きな目をキョロキョロさせた先生が、克哉の腕にペッタリと張り付いて言った。
―ああ、そうなんだ
酷く、打ちのめされた気分だった。
「ミオちゃーん!おーい!」
ブンブンと私の眼前で手を振る彼女が、
今は殺してしまいたいほどに憎らしくて。
そして、最後にこの目で見たあの日と
全く変わりない彼を、前髪の隙間から覗き見た。
短い茶髪。
やんちゃな瞳。
への字口。
そして‥‥私がプレゼントした、2連ピアスが左耳で光っている。
ブワッと何かが胃の中で弾けた。
私は床で寝ている携帯を拾うと静かに立ち上がり、ドアの横にある表札に視線をずらした。
―ああ、そうだったんだ
それに気付いた時には、自分を笑うしかなくて。
私はそのままエレベーターの方へと、何食わぬ顔で歩き出した。
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