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恋の忘れ形見②

白昼夢

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コイツ‥‥もしかしたら、ただの変態馬鹿と見せかけているだけかもしれない。

そう思うと、急に千鶴が恐くなった。



「‥‥はぁ~。」


すると突然、千鶴はウットリとした溜め息を漏らした。


「な、何よいきなり。」


「いや、幸せだなぁとね。」


「は?」



「ああ‥‥この煙が毎日、澪の肺に入り吐き出されるのだと思うと、興奮しますね。」


「ねぇ、ゴメン。
悪いけど、ほんっと気持ち悪いアンタ。」



いや、やっぱり変態だ。
私はそう確信すると、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

千鶴もそれに習うように同じく火を消そうと、私の手の上の灰皿に煙草を寄せた。


―その時だった。


突然、千鶴の横顔が目に焼き付いたかと思うと、次の瞬間、時間が止まったように目の前が真っ白になった。


脳内がトリップしたかのように、断片的な映像が凄い速さで次々と映し出される。





―病院の屋上

―病室

―心電図

―首を横に振る医者


そして‥‥


―哀しそうな顔をした、男の子。







「‥‥澪?」



―ハッ


私は小刻みに呼吸をすると、目の前の綺麗な顔をした男を呆然と見つめた。

時計が秒針を刻む音が、チクタクとやけに響く。


‥‥ここは私の家だ。リビング。ソファ。

そして隣に座る変態。


‥‥今の映像は何だったの?
白昼夢?

頭がおかしくなったんじゃないかと、私は自分が心配になり咄嗟に頭を抱えてしまった。


見覚えがある‥‥。
あれは、今朝学校で居眠りした時に見た夢と同じモノだ。

今度は屋上だけじゃなく、病室まで‥‥。



「何か一瞬、変でしたよ?大丈夫ですか?」


心配そうに顔をしかめた千鶴が、私のオデコに手を当ててきた。


「だ、大丈夫よ。触るなアホ!」



いや、大丈夫じゃないかも‥‥。


一体全体、何だったのよ。
今の映像‥‥!
 
 
 
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