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恋の忘れ形見②
僕の澪に触らないで下さい。
しおりを挟む「あ、オッサンだ。」
葵くんは千鶴を見付けると、わざとに珍しいモノを発見したかのような顔をした。
それに対しコタツの外に顔だけ覗かせている千鶴は、私の下で不機嫌そうに言い返す。
「なんれふか、おっひゃんひゃないろなんろいっはらわかふんれふか。」
「いや、何て言ってるか分かんねーよ。」
ぷっ、と小馬鹿にしたように笑いながら葵くんは千鶴を見下した。
「ホントにねぇ。何て言ってるか分かんないわよね~!」
私も笑いながら千鶴イジメに加担する。
そんな私達の会話を見上げマヌケにも真横に広がった口をした千鶴は、黙って何かを思案している。
「‥‥‥‥。」
眉ひとつ動かさない千鶴は私の太股を掴んでいた手をゴソゴソと動かすと、それを奥の方に移動させた。
「おい、尻触ったら頬を引き千切るわよ。」
その先の行動を読んだ私は、ヤツに尻を触らせまいと威嚇する。
そうするとピタリと手が止まった。
‥‥全く。
―ゴソゴソ
「‥‥あら?」
すると千鶴は私の手をすり抜け、イモ虫のようにコタツの反対側へとほふく前進して行った。
そして毛布をめくり自ら出てくると、ようやく私達の前に姿を現したのだった。
「何なんですか、また懲りもせず僕の澪の家に上がってくるなんて。」
おいおい、やっと出てくるなりそんな堂々と。
ていうか仁王立ちしてそんな偉そうな台詞吐いてもカッコ付かないわよ。
何せ、さっきまで引っ張られていた頬が真っ赤に腫れてるからね。
あと、コタツの中から這って出てきたスーツ姿の御曹司なんて絵にならない。
そう頭の中であらかたツッコミを済ませると、葵くんが私の背後から冷ややかな目で千鶴を見つめていることに気付いた。
ヤバ‥‥。
また怒っちゃったかなぁ。
私はハラハラしながら不敵な笑みを浮かべる両者を交互に見つめた。
「だって、澪が入っていいよって言ったんだもん。」
べーっと舌を出すと、葵くんは私の肩を後ろから掴んで勝ち誇ったように言った。
「僕の澪に触らないで下さい。
あと、呼び捨てなんて馴れ馴れしいですよ少年。」
千鶴は葵くんを睨みながらコタツの向こうでムッとした顔をしている。
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