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恋の忘れ形見

お尻を撫で回す変態

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暖かい千鶴の腕の中。
私の胸がじんわりと熱くなる。



「‥‥ん?」


―モソモソ


千鶴の懐に大人しく収まっていると、何だかお尻に違和感を感じた。



「澪‥‥柔らかいですね。」


悦に入った千鶴は、耳元で怪しくそう囁いた。

この密着した状態をイイことに、ヤツは私のお尻を撫で回していたのだ。



「‥‥貴様ぁ~‥‥。」


額に青筋を浮かべる私をよそに、千鶴は変態丸出しで嬉々としている。


「何ですか?」


「‥‥何ですか?じゃねーわよ!このクソ野郎!!」


―バッチーン!!


「ぶっ!!」


茹で上がった顔で千鶴の顔に平手打ちをすると、突き抜けるような爽快な音が響いた。

あまりにも強くひっぱたいたので、その勢いでヤツはソファに倒れる。


「も~っ‥‥馬鹿馬鹿馬鹿!
普通、こんな話してる最中に尻触るか!?このドアホッ!!」


「だってすぐ傍に美味しそう‥‥
ゲフゲフッ‥‥愛しい澪の体があるんですから、当然手が伸びるでしょう?」


「今、美味しそうって言っただろヘンタイ。」


「心外な。言ってませんよ。」


先ほど平手打ちを喰らった真っ赤な頬を片手でさすりながら、千鶴は何故か堂々とした態度で居直る。


「いやいやいや、言ったわよ!
私が幻聴を聞いたとでも?
つーか、何だその『人でなし』と言いたげな非難の目は!」


「フッ、幻聴だなんて‥‥。
澪、どんな完璧な人間だって聞き間違えくらいするものですよ。
僕がそんな卑猥なことを言うはずが無いじゃないですか。」


「いーや、言いましたっ。」


「言ってませんてば。」


首を左右に振りながら『やれやれ』という表情をする千鶴と、鼻息を荒くしてそれに反論する私の言い争いが部屋に響いた。



「アンタ、馬鹿な上に頑固よね。絶対に言った!」


「言ってません。澪、いい加減にしないと怒りますよ?」


「‥‥なっ!逆ギレ!?
往生際が悪いわね、言ったったら言ったのー!!」



「‥‥ええ、言いましたよ!
澪の体が美味しそうだからいけないんじゃないですか!」


コイツ‥‥!

千鶴が突然手の平を返したかのように開き直ったので、私は怒りを通り越して呆れた。
 
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