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恋の忘れ形見
泣き虫
しおりを挟む「よく、分かりませんね。」
その冷めた返答を聞くと、私は思わず頭に血を昇らせた。
他人から称賛されるようなエリートに、『理解できない』と小馬鹿にされたような気がしてならなかったからだ。
「こんなことを言ったら澪は怒るかもしれませんけど‥‥。
僕は、凪さんのことなんか興味ありません。」
「‥‥え?」
「最初から、澪しか見ていないんですよ。
だから比較するも何も、そんなの仕様が無いんです。」
―その言葉は、産まれた時からずっと欲しかったモノだった。
まさか、目の前の人物からそんな言葉が贈られるとは、夢にも思わなかったのだ。
私は目を丸くすると、驚きの表情で千鶴を見つめた。
「それに過程がどうであろうと、その結果は澪が思うほど悲観するものでは無いと思いますよ。」
ゆっくりと端正な顔をこちらに向けてそう言った後、千鶴は私の頭を撫でた。
「僕の祖母があんなに澪のことを褒めていたんです。
それだけで十分じゃないですか?
利用者の声、それが正当な評価だと思うんです。
‥‥笑顔は、優しさが無ければ仮面のように見えるものですから。
澪の笑顔は本物ですよ。
天職じゃないですか。」
「‥‥‥‥っ。」
何で、そんなことを言ってくれるんだろう。
何で、私なんかを認めてくれるんだろう。
色んな疑問が頭を駆け巡った。
―だけど、そんな理屈がどうでも良くなるくらい
千鶴がくれた言葉が、
嬉しかった。
「もう、泣かないで下さいよ。
僕が泣かせたみたいじゃないですか。」
千鶴は力無く笑いながらそう言った。
―『泣くな』
それは、かつて克哉に投げられた冷たい言葉とは正反対のモノだった。
同じ意味の言葉だったのに、何故か暖かくなった。
感極まって涙をこぼした私を、笑いながら千鶴は優しく抱きとめた。
「本当に澪は泣き虫なんですね。
‥‥可愛い。」
「‥‥うるさいわね‥‥可愛くなんかないわよ、ばーか。」
ばーか。
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