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恋の忘れ形見
カスミ違い
しおりを挟むカスミは自分の長い爪を見た後、ゆっくりと口を開く。
―言わないで
―聞きたくない
「てーか聞いて?
この前もヒロトったらさぁ!」
―『ヒロト』
今、ヒロトって言った‥‥?
その名前が耳に入ったのを脳内で確認すると、体中の力という力が一気に抜けた。
―ゴトン‥‥
線が切れたかのようにして机に頭を落とすと、安堵の溜め息が自然に口から漏れる。
‥‥良かった。
ひとりで馬鹿みたいに、嫌な想像してただけだったのだ。
隣で驚いた顔をしているカスミが、急にイイ人に思えてきた。
私って‥‥一体‥‥。
「‥‥もう、何なのさぁ~?
今日のアンタ、やっぱ意味不明だしっ。」
机に頭をこすり付ける私を見下ろすと、カスミは盛大な溜め息をついた。
「ゴメンゴメン‥‥熱、上がってきたみたいでさ。」
胃の痛みはやがて治まった。
「‥‥はい、それでは‥‥え~、また来週ここから始めます。」
その鈴の音のような声を聞き、私は慌てて顔を黒板に向ける。
既に雨宮先生が教室から出て行こうとしているのが目に入った。
すなわち、それは‥‥講義終了ということ。
―キーンコーン
ミッション終了のチャイムが頭の中でクルクルと鳴り響く。
それと同時に、もう2度と凪の代わりなんかゴメンだと心に誓った。
「それじゃ私はこれで~!」
手をヒラヒラさせると、私は颯爽とカスミに別れを告げる。
「ちょっとー!
合コン行かないのー!?」
「ゴメン、具合悪いから行かな~い!」
誰が行くか!
ていうか凪のヤツ、彼氏いるのに合コン?
総大くんが気の毒だわ‥‥。
そんなことを思案しながらドアを開けると、廊下が何やら騒がしいことに気付く。
キャーキャーと黄色い声であふれている。
女子の大群が何かを取り囲んで興奮している様子が、ハッキリと分かった。
前にもこんなことが、あったような‥‥。
ドアを閉めると、嫌な予感が私の脳裏をよぎった。
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