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恋の忘れ形見
普段の凪がまるで分からない
しおりを挟む噂で聞く程度には知っていたが、物凄く綺麗な人だ。
雨宮先生というこの女性は、誰もが振り返るほどの美人な先生。
幼児教育学科の担当教諭だということもあり、お目にかかるのは初めてだった。
多分、凪のフリをしてこの講義を受けていなかったら、面識すら無かっただろう。
ブロンズ像みたいに透き通った綺麗な肌で、ツヤツヤの長い髪をなびかせている。
教師という職業にそぐわない美貌の持ち主だ。
そう‥‥例えるなら、女優かモデルがドラマの女教師の役をやっているみたいな光景。
「‥‥はい、では前回の続きで305ページから始めます。」
鈴の音のような雨宮先生の声を聞きながら、私はそんな馬鹿な妄想をしていた。
「‥‥凪ぃ?アンタ何してんのよ?やっぱ今日変だよ!」
するとカスミが私の耳元で驚きの声を上げた。
「‥‥え?」
私はあたふたしながら開きかけた教科書を閉じる。
どうやらクラスメイトの反応を見る限り、我が妹は講義中に勉強しないらしい。教科書すら机の上に出さない始末だ。
ていうか、単位どうこうの話じゃないだろ‥‥。
講義を真面目に聴かないってことは、テストだって危ういってことよ?
テストで及第点取れなかったら卒業は無理なんだし。
親に高い授業料払ってもらって何やってんだか‥‥情けない。
そんな風に片割れについて頭を抱えていると、カスミが密着してきて再び口を開いた。
「‥‥何で雨宮のこと、ジ~ッと見てたのさ?」
マリン系の香水の匂いが鼻をくすぐる。
「‥‥え、あ、いや、その~。
ハーフだっけ?雨宮って。」
笑顔を装いながら、さりげなくカスミに雨宮先生についての質問を投げかけてみた。
見たところ‥‥先生は純粋な日本人ではない顔立ちだ。
何でこんな田舎の短大の教師なんかやっているんだろう、という疑問を自ずと抱かせるような人なのだ。
「‥‥ちょっと病院行ったら?
アンタ、雨宮のこと毛嫌いしてたじゃん!
何で今更そんなこと聞くワケ?」
毛嫌い?
どうやら凪は、この先生が嫌いらしい。
「いや、何とな~くねっ。」
私は冷や汗を垂らすと、カスミの目を反らしながら言った。
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