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恋のライバル

何を言われたのか知りませんけど、僕には関係ありません。

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そうしてイジケたようにしている私の冷えた体の上に、突然温かくて大きな重圧感が降りかかってきた。

千鶴はしゃがみ込んだ私を、包み込むように抱き締めてきた。


それはまるで、力を入れれば壊れてしまう脆い物を扱うような、優しい腕だった。



「‥‥っ!止めて!離せ!」



私は力の限りジタバタと暴れ、千鶴の腕を必死に叩いた。


バタバタという騒々しい足音が、玄関に響く。



「嫌ですよ。」


「うるさい馬鹿!調子に乗らないで!
離せってば、バカァ!!」



千鶴の腕力は見かけに寄らずにとても強く、私の馬鹿力をもってしても全然ビクともしなかった。

そして泣きながら暴れる自分とは正反対に、千鶴は至って冷静な声をしていた。



「また、馬鹿って2回言いました。」


「‥‥うるさい‥‥っ!」



噛み付くようにそう言い放ったのを最後に、ヤケになって子供みたいに暴れるのを止めた。

千鶴はやっと静止した私の肩に顔を乗せ、そして再び淡々と喋り始める。



「‥‥関係無いってこと、ないでしょう。
こんなに悲しそうにしているのに。違いますか?」



耳元に直接響いたその言葉は、いつもの甘ったるいモノとはまるで違った。
諭すようにズッシリと、のしかかるモノだったのだ。



「‥‥‥‥っ。」



私はふてくされながら歯を食いしばる。



「何を言われたのか知りませんけど、僕には関係ありませんし」



そう言われた時、不意に胸がズキズキとした。
千鶴の口からそんな冷たい言葉が出るとは、思いもしなかったからだ。

ていうか、さっき言ったことと矛盾してるよ‥‥。
『関係無いってこと、ないでしょう。』って言ったばっかりじゃん。



「ハァ‥‥?だから、関係無いなら離してってば‥‥。」


「だから嫌です。」


「何ソレ‥‥超ワガママ‥‥。」


「僕は我が儘ですよ?
知らなかったんですか。」



てっきり、『そう、僕は我が儘なんです!よくご存知で!』
‥‥とか言って、馬鹿みたいに明るく切り返してくるかと思ったのに‥‥。


いつもとは違う変態の様子に若干の違和感を覚えた私だった。

だけど、そうして千鶴の重みのある低い声を聞いている内に、何故か段々と落ち着いてきたのを感じた。
 
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