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恋のライバル
イライラする。
しおりを挟む「止めてくれない?その溜め息。すっごくイライラする。」
「あ、ゴメン。ついいつもの癖でさ‥‥。」
その言葉を受けると、胸が無意識に痛んだ。
『イライラ』
‥‥自分の溜め息は、他人を苛立たせていたんだ。
そう情けなく思いながら突っ立っている私をよそに、葵くんは続けて何かを呟いた。
「ウチの母親と一緒だよ。
人の顔見ては溜め息ばっかりついてさ‥‥。
何なんだよ、もう‥‥
‥‥何なんだよ‥‥っ。」
ポツリポツリと断続的に紡がれた小さな言葉が、冷たい大気に寂しく溶けていった。
そしてそれを聞きながら、胸に重い鉛が落ちてきたような感覚を覚える。
何て言葉をかけていいのか全然分からない。
「消えて。」
「‥‥え‥‥。」
「消えてってば。早く。」
戸惑う私に投げかけられた言葉は、寂しいほどに冷たいものだった。
「‥‥うん。」
そう一言だけ残すと回れ右をして、ついさっき飛び出したドアに足を運んだ。
嘘みたいに緊迫した空気を背中でビリビリ感じながら、私は無言で葵くんの前から去った。
―ガチャ‥‥
ドアの開閉音が空しく響くと、どう表したら良いか分からない寂しさが込み上げてくる。
「‥‥はぁー‥‥。」
嫌なヤツ、私。
見知らぬ子を勝手に家に上げて?
しかも傷に塩を塗るような真似をして?
そしてまた、あのクソ寒い外に出して‥‥。
ホント、何やってんだろ。
1番の馬鹿は千鶴なんかじゃなくて、私だ。
人のことを馬鹿馬鹿言って、自分を棚に上げてんじゃん。
ていうか、ホント‥‥情けない。
葵くんに対する罪悪感よりも、羞恥心に近い自責の念が私の中で渦巻いた。
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