上 下
66 / 399
恋のライバル

消えた葵くん

しおりを挟む



葵くんは、人の痛いところをオブラートに包まずに言ってくる。
その露骨な嫌味たらしい物言いはまるで小さな子供の口喧嘩を聞いているかのようで、私は思わず制裁してしまった。


「‥‥‥‥。」


葵くんは私の言葉を受けると黙り込み、眉間に皺を寄せながら口を真一文字にしてギュッと閉じ出した。


「いや、あのね?
葵くんは悪くないのよ、全然!
‥‥でも、ちょっと言い過ぎかなぁ~と‥‥。」


あーあ。何やってんだろ、私。
ここで口の聞き方に対して説教するなんて、千鶴との口論を口実にしてるだけだ。
本当は、自分が言われた時に注意すべきだったのに。

私はそう思いを巡らせると、明らかに怒っている葵くんの顔をおそるおそる覗き込む。

すると葵くんはその視線をかわすように顔を背けて立ち上がり、玄関に向かって無言で歩き出した。


「‥‥え、ちょっと!」


それを引き止めようと葵くんの華奢な腕を掴んだが、その手は彼によってすぐに振り落とされる。


「‥‥るさい。」


「え?」


震えた声が小さすぎて聞き取れず、私がもう一度言ってくれという意味を含めたマヌケな返答を返すと、葵くんは間を空けずに再び同じ言葉を放った。



「うるさいよ!‥‥俺が出て行けばいいんでしょ!」



―バタン!!



ヒステリックに叫ばれた大きな声が壁を反響したかと思うと、それに続いて玄関のドアが乱暴に閉められた。

私は呆気に取られたまま行き場の無い手を見つめ、たった今起こった出来事を脳細胞の少ない頭で懸命に整理をした。


‥‥よく分からないけど、すごく怒らせてしまったのは確かだ。



「はぁ、やっと消えてくれました。」


背後から千鶴のあからさまに安堵した声が聞えたが、そんなのお構いなしで私は困惑したまま口を開けっぱなしにした。


「全く、盛りのついた中学生は嫌ですね。とんだ泥棒猫ですよ。」


元を正せば、コイツが葵くんに大人気なく言い返していたのが原因だ。

眉をひそませながらそう思い、ドアの方を見つめたまま私は立ち尽くした。
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...