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恋のライバル

耳打ちに心臓が…

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―ヒソヒソ


「あのですね‥‥。」


「うん。」


千鶴のゴツゴツとした大きい手が耳に当たると、密かに心臓が揺らめいた。
それに加えて、千鶴が口を動かすと微弱に吐息が鼓膜をくすぐり、背筋に電流が走った。


―フゥッ


歳を答えると見せかけた千鶴は突然、ソワソワする私の鼓膜めがけて息を吹きかけてきた。


「ぎゃぁぁあああ!!」


その結果、私は左耳を押さえ付けながら悶絶してしまった。

認めたくないけど‥‥
千鶴の『耳にフー』は、常人のソレより数倍の破壊力を持つわ。


「どうしたの!?」


葵くんは心配したのか驚いたのか、目を見開いて私の側に駆け付けてきた。


「大丈夫よ‥‥葵くん。
ビックリしただけだから。」


「そうです。恋人がイチャイチャしているというのに、邪魔するのではありませんよ少年。」


千鶴は艶やかな肌を光らせるとそう言った。
今の行為に、相当満足したのだろう。


「イチャイチャじゃねぇだろコラ。」


「フッ‥‥あれだけ喘いでおきながら今更照れなくても、ね。」


クスクスと千鶴は笑う。


「喘ぎ声じゃなくて叫び声だ!
このクソオヤジ!」


―ガチィン!


「がはッ!」


私は千鶴の下顎めがけてアッパーを喰らわせた。

良い子は真似してはいけません。
千鶴だからこそ無傷で済む暴力なのです。

‥‥ていうか、何で毎回傷がものの数分で治るのかしら。

千鶴はその衝撃を受け、華麗に宙に舞い、フローリングの床に堕天使のごとく堕ちていった。
その光景、何故かスローモーションに映る。


「す、すげぇ‥‥。
微塵のためらいも無く入れただろ今‥‥。相当そのオッサンのことが嫌いなんだな。」


葵くんは驚いて言った。


「え、ま、まぁね!」


その真面目な問いに対し、私は何も考えず咄嗟にそう答える。

葵くんは驚嘆しながらも、私を見つめる眼差しは心なしか輝いていた。
 

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