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恋のライバル
公衆の面前でラブソングを歌う変態
しおりを挟む安堵してケーキを口にほうばっていると、周囲の女子が突然騒ぎ出した。
な、何か嫌な予感‥‥。
私はフォークをくわえたまま、おそるおそる黄色い声がする方へと顔を向けた。
「あ‥‥。」
冷や汗がたらりと私の額を伝った。
私達の2つ向こうの席で、数人の女子に黄色い声で騒がれながら、千鶴は小さな1人用ソファを拝借していた。
な、何をする気だろうか。
頼むから面倒事はよしてくれよ?
私は5メートルほど離れた席を、ヒヤヒヤとした視線で見守った。
「では少々お借りしますね。」
千鶴が女子達に笑顔を向けてそう言うと、キャーキャーという熱っぽい声が更に大きくなった。
「はい!ど、どうぞ!」
女子の1人がゆでダコみたいに顔を真っ赤にさせながら、まるで好きなアイドルに街で偶然出くわしたような反応をした。
「うわぁ~、千鶴さんモテモテだねぇ。」
加奈子は目をパチクリさせながら感心している。
私はその加奈子の言葉に返事もできずに口を開けっぱなしにし、嫌な予感で胸をいっぱいにした。
「澪~!」
千鶴は爽やかに笑顔を振りまきながら私に向かって手を振り、小さなソファをズルズルと引きずって来た。
「‥‥く、来るな。」
他人のフリをしようと試み、私はケーキが乗せられた皿を一生懸命見つめたが、それは既に遅かったようだ。
「誰あの人!アンタ知ってる!?」
「ちょ、待って!どこの人よ!?」
「あの子の彼氏~?」
周りの女子が私と千鶴を見て囁いている。
非難なのか、好奇なのか、判断しにくい声だ。
ていうかすごい注目だよ。喫茶店中の視線が千鶴に釘付けだ。ただでさえ黙ってても目立つ男が、ソファ引きずって手を振りゃあ余計に目立つわよね‥‥。
千鶴は私と加奈子の席の手前にソファを置いた。
そしてなんと‥‥その上に乗った。
華麗な身のこなしと共に黄色い声が一層大きくなる。
「なっ‥‥。」
元から身長の高い千鶴がそのソファに上ると、頭部の位置が更に高くなった。
仕立ての良いスーツを身にまとう千鶴は、ネクタイを整えながら色っぽい咳払いをした。
「澪、A評価おめでとうございます。お祝いに僕から貴女へ歌を贈ります。」
そんな‥‥ここは式場かよ。
「あ‥‥え‥‥。」
私は驚愕した。開いた口は塞がらず、逃げることも止めることもできなかった。
わざわざ用意したソファは、なんとお立ち台に使用する目的だったのだ。
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