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17.気づいた時には上手く吐き出せなくなっている
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くすぶるように淀んだ魔力がしっかりと循環するように触れた場所から魔力を流し込む。
触れた身体は思っていた以上に軽く、そして冷たかった。
落とさないよう、しっかりと抱え込み彼女の部屋へと急ぐ。
何となく、何となく元気がないように思えた。
その違和感を大切にすべきだったのだろう。
昨日はあんなにキラキラした表情で、あんなに楽しそうに魔術に触れていたのだから。
あの表情の翳りは見間違いなんかじゃなかったのだ。
少し疲れているのかな、くらいの気持ちで流してしまった自分を悔やむ。
あまりにもさくさく魔力操作を行うから、うっかり油断してしまった。
水の形を変えようとし始めてから彼女は眉間に皺を寄せ険しい表情になった。
このまま魔力を操っていては精神に負担がかかる。
危ないから辞めるように告げても、彼女に声が届くことはなかった。
恐ろしい程の集中力で、ただ仇を見るような追い詰められた瞳で手のひらの水を見つめる彼女に息を飲んだ。
昨日はあんなに楽しそうに笑っていたのに。
まだ魔力の扱いが完璧じゃない彼女が、追い詰められた様な尖った神経で魔術を行使しようとしている所に無理やり干渉するのは高い危険が伴う。
魔力を誤発してしまうだけなら自分が止められるだろうが、自分の体内で暴発してしまうのは非常に危険だ。
自らの意思で止めてもらうのが1番だが、声は届かず、視線は水から少しも逸らされることがない。
自分の判断ミスが招いた事象だ。何があっても彼女を守らねばならない。
無理なく干渉できる隙が一瞬でもあればそれを逃す訳にはいかない。
息を詰め、彼女の魔力の動きに意識を向ける。
水が不意に凹んだその瞬間、集中力の途切れを感じた。無理やり水の魔力の繋がりを切断する。
形を維持する力が無くなった水は重力に逆らうことなく落ちていった。
空っぽになった手をじーっと見つめる姿に酷い焦燥を感じる。
「うーん。僕とした事が、止め時を見誤りましたね。大丈夫ですか?目や頭に痛みは?」
動揺は魔力の乱れを産む。
この焦りをバレないように焦りが彼女に伝染しないように、なんてことは無いよ大丈夫だよと少し軽い口調で、状況を確認しようと声をかける。
意識をこちらに戻して欲しくて、視線を遮るように手を伸ばした。
その動きに釣られるようにこちらを向こうと動いた彼女にほっとしたのもつかの間、
表情の抜け落ちた彼女に呼吸が止まる。
初めて見るその顔に、とてつもない後悔を感じた。
今日はもう終わりと伝えてもゆるゆると首を振る彼女に泣きたくなる。
ダメだ、と改めて伝え、力の入っていない彼女の体を抱き上げる。
無抵抗な彼女の体に魔力を流すとあっという間に瞼を閉じた。
体調は問題ない、魔力も暴走している訳では無い。
彼女は心の機能が止まっている。追い詰めたのは、自分。
魔術を使うってなんか夢見たいです!使えるようになってみたいと笑っていた彼女の気分転換になるだろうと、王宮側は娯楽がてら魔術を教えようと言っていた。それを鵜呑みにして確認もせずに教えようとしたのが間違いだった。
ちゃんと話して、向き合うべきだった。
常に優しく微笑んでいて、全てを許すようなスタンスで居たから気づけなかった。
いや、気付こうとしていなかったのかもしれない。
違ったのだ、彼女は、この世界で生きるための力を求めていたのだ。
恐ろしい程の集中力を見せていた時は恐怖、そして上手く出来ず絶望。
感情も無くした彼女は希望が無くなった死にゆく兵士たちと同じ瞳だった。
自分たちが気づかない間に彼女はあんなにも追い詰められていた。
急ぐ必要はない、ゆっくり楽しめば良い、出来なくても問題ない。君の事はちゃんと守るから。
魔術が使えなくてもなんの問題もないと、もっときちんと伝えるべきだったのだ。
不安はないか、不満はないか、怖いことはないか。あんなに軽かったんだ、もしかしたら食も細くなっているかもしれない。
本当ならちゃんと文句を言わせてあげるべきだったのだ。
吐き出せずに溜まった不安、不満、恐怖がゆっくりと彼女を蝕んでいたんだろう。
優秀だな、なんて呑気な自分が愚かしい。
沢山の"こうするべきだった"が浮かんでは消えていく。
今更だけど、ちゃんと話を聞くから。
だから目を覚ましたら色々話をしよう。
彼女をベッドに横たえ、繋いだ手に力を込めた。
くすぶるように淀んだ魔力がしっかりと循環するように触れた場所から魔力を流し込む。
触れた身体は思っていた以上に軽く、そして冷たかった。
落とさないよう、しっかりと抱え込み彼女の部屋へと急ぐ。
何となく、何となく元気がないように思えた。
その違和感を大切にすべきだったのだろう。
昨日はあんなにキラキラした表情で、あんなに楽しそうに魔術に触れていたのだから。
あの表情の翳りは見間違いなんかじゃなかったのだ。
少し疲れているのかな、くらいの気持ちで流してしまった自分を悔やむ。
あまりにもさくさく魔力操作を行うから、うっかり油断してしまった。
水の形を変えようとし始めてから彼女は眉間に皺を寄せ険しい表情になった。
このまま魔力を操っていては精神に負担がかかる。
危ないから辞めるように告げても、彼女に声が届くことはなかった。
恐ろしい程の集中力で、ただ仇を見るような追い詰められた瞳で手のひらの水を見つめる彼女に息を飲んだ。
昨日はあんなに楽しそうに笑っていたのに。
まだ魔力の扱いが完璧じゃない彼女が、追い詰められた様な尖った神経で魔術を行使しようとしている所に無理やり干渉するのは高い危険が伴う。
魔力を誤発してしまうだけなら自分が止められるだろうが、自分の体内で暴発してしまうのは非常に危険だ。
自らの意思で止めてもらうのが1番だが、声は届かず、視線は水から少しも逸らされることがない。
自分の判断ミスが招いた事象だ。何があっても彼女を守らねばならない。
無理なく干渉できる隙が一瞬でもあればそれを逃す訳にはいかない。
息を詰め、彼女の魔力の動きに意識を向ける。
水が不意に凹んだその瞬間、集中力の途切れを感じた。無理やり水の魔力の繋がりを切断する。
形を維持する力が無くなった水は重力に逆らうことなく落ちていった。
空っぽになった手をじーっと見つめる姿に酷い焦燥を感じる。
「うーん。僕とした事が、止め時を見誤りましたね。大丈夫ですか?目や頭に痛みは?」
動揺は魔力の乱れを産む。
この焦りをバレないように焦りが彼女に伝染しないように、なんてことは無いよ大丈夫だよと少し軽い口調で、状況を確認しようと声をかける。
意識をこちらに戻して欲しくて、視線を遮るように手を伸ばした。
その動きに釣られるようにこちらを向こうと動いた彼女にほっとしたのもつかの間、
表情の抜け落ちた彼女に呼吸が止まる。
初めて見るその顔に、とてつもない後悔を感じた。
今日はもう終わりと伝えてもゆるゆると首を振る彼女に泣きたくなる。
ダメだ、と改めて伝え、力の入っていない彼女の体を抱き上げる。
無抵抗な彼女の体に魔力を流すとあっという間に瞼を閉じた。
体調は問題ない、魔力も暴走している訳では無い。
彼女は心の機能が止まっている。追い詰めたのは、自分。
魔術を使うってなんか夢見たいです!使えるようになってみたいと笑っていた彼女の気分転換になるだろうと、王宮側は娯楽がてら魔術を教えようと言っていた。それを鵜呑みにして確認もせずに教えようとしたのが間違いだった。
ちゃんと話して、向き合うべきだった。
常に優しく微笑んでいて、全てを許すようなスタンスで居たから気づけなかった。
いや、気付こうとしていなかったのかもしれない。
違ったのだ、彼女は、この世界で生きるための力を求めていたのだ。
恐ろしい程の集中力を見せていた時は恐怖、そして上手く出来ず絶望。
感情も無くした彼女は希望が無くなった死にゆく兵士たちと同じ瞳だった。
自分たちが気づかない間に彼女はあんなにも追い詰められていた。
急ぐ必要はない、ゆっくり楽しめば良い、出来なくても問題ない。君の事はちゃんと守るから。
魔術が使えなくてもなんの問題もないと、もっときちんと伝えるべきだったのだ。
不安はないか、不満はないか、怖いことはないか。あんなに軽かったんだ、もしかしたら食も細くなっているかもしれない。
本当ならちゃんと文句を言わせてあげるべきだったのだ。
吐き出せずに溜まった不安、不満、恐怖がゆっくりと彼女を蝕んでいたんだろう。
優秀だな、なんて呑気な自分が愚かしい。
沢山の"こうするべきだった"が浮かんでは消えていく。
今更だけど、ちゃんと話を聞くから。
だから目を覚ましたら色々話をしよう。
彼女をベッドに横たえ、繋いだ手に力を込めた。
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