結局の所、同じこと

りすい

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今日のところは彼は騎士団で預かるよと、リーン様がカイルを連れて行ってくれた。

私は王宮の女子寮に住んでいるので連れて帰る訳にもいかず、助かった。

翌朝、出勤した私を出迎えたのは同じ制服を身にまとったカイルだった。

対外的には、良いとこのお坊ちゃんを侍従見習いとして育てるために私の部下として雇用した事になっているらしい。
私の所属部署は殿下のお気に入りだけなので、カイルの情報も全て適切に伝わっているらしい。
彼らは皆優秀なので何かあればすぐにサポートしてくれるだろう。ありがたい限りだ。

ちなみに今は、カイルを連れて王宮内の案内をしている。

「昨日はゆっくり休めた?困ってることとかない?」

「あぁ。有難いことに久しぶりにゆっくり休めたよ。困るって言っても、アイリスとの関係をリーンにひたすら聞かれたくらいかな。」

「関係って言っても幼馴染ってくらいでしょうに…」

「それじゃ納得しなかったんだよ、だから色々聞かせてやっただけ。」
ははっと笑う姿は昔と変わらない。
なんだか懐かしくてつられて笑ってしまった。
何を言ったのか気になるが、多分この感じは教えてくれる気はないだろう。

「呑気に笑っていいご身分ですね。」

鋭く冷たく響いた声に思わず足が止まる。
振り向いた先にいたのはガーランドという男だった。

「それは、奴隷に対しての言葉ですか?それとも彼女に対して?」

カイルの事情は私の部署の人間と殿下以外には秘匿されているから本来であれば知るはずもない。
しかしあまりの侮蔑を含んだ声に警戒したのか、言外に意味を多分に含ませてカイルは言葉を返した。

違うよ、彼はカイルに言ったのではない。
私に言ったのだ。同じ宰相補佐候補の私に。

おそらく彼は隠された情報も全てではないにしろ手に入れているのだろう。
成果を上げようとしている私の足を引っ張りたいのは分かりきっている。

「もちろん、そこの女に対してですよ。あなたもよくそんな女と共にいられますね。貴方はそいつに救われたとお思いかもしれませんが、そうではありません。とんでもない女狐に使い倒される前にお逃げになった方がいい。」

毎度毎度嫌味ったらしく絡まれるが、別に彼に何かをした事はない。
ただ、真面目に仕事をしていただけだ。
たまたま、ひとつしかないポストを競っているだけで。

それだけで散々な言われようである。
最初はすれ違う度に舌打ちをされるだけだったが…

「特に不便を感じていませんので、問題ありませんよ。お気遣いありがとうございます。」

「時に貴方は殿下に目をかけて貰っているとか。剣の腕も確かだと聞いています。」

「そうでしたか。」

「えぇ。ですから貴方には別の道を提示して差し上げようと思いまして。」

「…。」

「私の侍従になりませんか?私は今後宰相補佐になります。貴方に苦労をさせてきた者たちに復讐をすることも出来ます。殿下に貴方を売り込むことも私ならできます。私のような根っからの文官気質の人間には武芸に長けた人間がそばに居ると仕事がしやすいのですよ。どうせなら殿下の覚えのいい、力のある者がいい。せっかく貴方は力があるのに、その女の元では発揮できないままおわってしまいますよ。」

ガーランドの言うことも分かる。
騎士を文官として縛り付ける訳にもいかないから思うようにいかないが、武芸に長けた部下が居れば取れる策の幅だって広がる。

言いたいことは分かるが、なぜいつも嫌味ったらしくしか言えないのかこの男は。
自分自慢だけなら良いがなぜ私を悪く言う必要があるのか。

ため息をつき、立ち止まった渡り廊下の外の花壇を眺め、時が過ぎるのをまつ。
私の護衛だ何だって言うのもカイルの要望を殿下が通しただけだ。
カイルが望むならガーランドの元に行く許可も下りるだろう。
私は別に彼の判断に口を出せる立場ではないのだから、静かにしておこうと思っただけなのが…
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