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そしてカイルも無事に風呂に入り、ついでに伸びていた髪も整えられたのだろう。精悍な顔立ちがはっきり見えてなんとも言えない気持ちになる。
簡易的なシャツ、スラックススタイルであっても輝かんばかりの美形であれば特に問題は無いようだ。
奴隷商に居た時ですら飛び抜けて美しかった男だ。それは磨けばより光るに決まっている。
思わず惚けてしまっていると殿下の側近から声がかかり、慌てて報告に向かう。
「お疲れ様。予想以上の収穫だったんだって?」
満面の笑みで出迎えてくれたのは王太子殿下その人で、思わず固まってしまう。
堅苦しい礼とかいらないからさくっと報告してと促され、気の弱いいち部下としては淡々と報告をしていくしかなかった。
「で、彼と契約してきたわけだね。」
カイルに目を向けた彼は語りかけるように囁いた。
「この国の1人の王族として、奴隷制度を無くせない事も管理しきれて居ないことも不甲斐なく思っている。君には必要以上の苦しみを味まわせてしまったこと、大変申し訳なかった。」
簡単に頭を下げることは許されない立場の殿下が一部の人間しかいない環境とはいえ奴隷に謝罪する姿というのはなかなか見ることは出来ないだろう。
静かに2人のやり取りを見守る。
カイルが何も言わずに頷くのが見えた。
「…アイリス嬢、リーン殿。今回、2つの奴隷商の摘発の準備が整った。特に悪質とされる黒の枷の使用をしていた商館を押さえることが出来たのは非常に大きい。引き続き、この問題には注力していくので協力をたのむ。」
「「承知致しました。」」
もうひとつの部隊が動いていた別の奴隷商の方も無事に証拠を押さえることが出来たようだ。大きな1歩だろう。
「あぁ、アイリス嬢。君の登用はほぼ確定するだろうが、出る杭に噛みつきたいもの達が疼いているらしい。以前から伝えているが侍従や護衛をつけるなどはいい加減対策するんだな。できる限り1人にならないように。」
「…かしこまりました。検討いたします。」
「あぁそうだ、彼についてはどうするつもりだい?」
「…現状の契約上の所有者は私となっております。費用は今回の捜査の経費として処理されておりますが、彼が国の所有を望まないのであれば私の私財を使用することも可能でございます。許されるのであれば彼の望む形に落ち着けて頂けると幸いでございます。」
「まぁ、費用の件は奴隷商から回収するから気にしなくていいよ。」
殿下は私の言葉を聞き終えると、費用については訂正をいれ、そのままカイルへと目を向ける。
「君は、どうしたい?首輪は今すぐにでも外すことができる。しかし紋を消す事は出来ない。そうなるとどうしても本質的には奴隷的な立場は変わらなくなってしまう。仮という形で私の名を所有者の欄に入れて国で保護することも可能だが、君の望みは何かあるだろうか。生活の保証とか、身分証の発行とか、できる限りの事をさせてもらうよ。」
「…では、所有者はアイリスのままで。それ以外を受け入れる気はありません。あと、この件で彼女に金銭的負担が行かないようにしてください。それと保護は別に不要ですが、俺に仕事を。出来れば彼女の護衛とか。」
「ちょっと!カイル!?」
いや、何を言っちゃってるの!と慌てるも彼は欠片もこちらを見ない。
「そう。わかったよ。黒の枷に抵抗できるくらい強いんだから、近衛兵とかどうかなって思ったんだけど、残念だ。」
随分な物言いのカイルに対して殿下は特に気にした様子もなくからからと笑う。
「ではカイル、君の望み通りに。そして明日から彼女の護衛を頼むよ。今日中に何かしらの立場を用意しておくから。さて、アイリス嬢、リーン殿
、本当にご苦労さま。今日はもう帰っていいよ。」
「承知致しました。ありがとうございます。御前を失礼致します。」
「っ!ありがとうございます。失礼致します。」
1人呆気に取られている間にリーン様が退室の礼を取ってしまい慌てて後に続く。
一礼し、王太子殿下の執務室を後にする。
おなかいっぱいだ。もう暫くは近寄りたくない。
簡易的なシャツ、スラックススタイルであっても輝かんばかりの美形であれば特に問題は無いようだ。
奴隷商に居た時ですら飛び抜けて美しかった男だ。それは磨けばより光るに決まっている。
思わず惚けてしまっていると殿下の側近から声がかかり、慌てて報告に向かう。
「お疲れ様。予想以上の収穫だったんだって?」
満面の笑みで出迎えてくれたのは王太子殿下その人で、思わず固まってしまう。
堅苦しい礼とかいらないからさくっと報告してと促され、気の弱いいち部下としては淡々と報告をしていくしかなかった。
「で、彼と契約してきたわけだね。」
カイルに目を向けた彼は語りかけるように囁いた。
「この国の1人の王族として、奴隷制度を無くせない事も管理しきれて居ないことも不甲斐なく思っている。君には必要以上の苦しみを味まわせてしまったこと、大変申し訳なかった。」
簡単に頭を下げることは許されない立場の殿下が一部の人間しかいない環境とはいえ奴隷に謝罪する姿というのはなかなか見ることは出来ないだろう。
静かに2人のやり取りを見守る。
カイルが何も言わずに頷くのが見えた。
「…アイリス嬢、リーン殿。今回、2つの奴隷商の摘発の準備が整った。特に悪質とされる黒の枷の使用をしていた商館を押さえることが出来たのは非常に大きい。引き続き、この問題には注力していくので協力をたのむ。」
「「承知致しました。」」
もうひとつの部隊が動いていた別の奴隷商の方も無事に証拠を押さえることが出来たようだ。大きな1歩だろう。
「あぁ、アイリス嬢。君の登用はほぼ確定するだろうが、出る杭に噛みつきたいもの達が疼いているらしい。以前から伝えているが侍従や護衛をつけるなどはいい加減対策するんだな。できる限り1人にならないように。」
「…かしこまりました。検討いたします。」
「あぁそうだ、彼についてはどうするつもりだい?」
「…現状の契約上の所有者は私となっております。費用は今回の捜査の経費として処理されておりますが、彼が国の所有を望まないのであれば私の私財を使用することも可能でございます。許されるのであれば彼の望む形に落ち着けて頂けると幸いでございます。」
「まぁ、費用の件は奴隷商から回収するから気にしなくていいよ。」
殿下は私の言葉を聞き終えると、費用については訂正をいれ、そのままカイルへと目を向ける。
「君は、どうしたい?首輪は今すぐにでも外すことができる。しかし紋を消す事は出来ない。そうなるとどうしても本質的には奴隷的な立場は変わらなくなってしまう。仮という形で私の名を所有者の欄に入れて国で保護することも可能だが、君の望みは何かあるだろうか。生活の保証とか、身分証の発行とか、できる限りの事をさせてもらうよ。」
「…では、所有者はアイリスのままで。それ以外を受け入れる気はありません。あと、この件で彼女に金銭的負担が行かないようにしてください。それと保護は別に不要ですが、俺に仕事を。出来れば彼女の護衛とか。」
「ちょっと!カイル!?」
いや、何を言っちゃってるの!と慌てるも彼は欠片もこちらを見ない。
「そう。わかったよ。黒の枷に抵抗できるくらい強いんだから、近衛兵とかどうかなって思ったんだけど、残念だ。」
随分な物言いのカイルに対して殿下は特に気にした様子もなくからからと笑う。
「ではカイル、君の望み通りに。そして明日から彼女の護衛を頼むよ。今日中に何かしらの立場を用意しておくから。さて、アイリス嬢、リーン殿
、本当にご苦労さま。今日はもう帰っていいよ。」
「承知致しました。ありがとうございます。御前を失礼致します。」
「っ!ありがとうございます。失礼致します。」
1人呆気に取られている間にリーン様が退室の礼を取ってしまい慌てて後に続く。
一礼し、王太子殿下の執務室を後にする。
おなかいっぱいだ。もう暫くは近寄りたくない。
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