結局の所、同じこと

りすい

文字の大きさ
上 下
6 / 10

6.

しおりを挟む
そしてカイルも無事に風呂に入り、ついでに伸びていた髪も整えられたのだろう。精悍な顔立ちがはっきり見えてなんとも言えない気持ちになる。
簡易的なシャツ、スラックススタイルであっても輝かんばかりの美形であれば特に問題は無いようだ。
奴隷商に居た時ですら飛び抜けて美しかった男だ。それは磨けばより光るに決まっている。
思わず惚けてしまっていると殿下の側近から声がかかり、慌てて報告に向かう。

「お疲れ様。予想以上の収穫だったんだって?」
満面の笑みで出迎えてくれたのは王太子殿下その人で、思わず固まってしまう。
堅苦しい礼とかいらないからさくっと報告してと促され、気の弱いいち部下としては淡々と報告をしていくしかなかった。

「で、彼と契約してきたわけだね。」

カイルに目を向けた彼は語りかけるように囁いた。
「この国の1人の王族として、奴隷制度を無くせない事も管理しきれて居ないことも不甲斐なく思っている。君には必要以上の苦しみを味まわせてしまったこと、大変申し訳なかった。」

簡単に頭を下げることは許されない立場の殿下が一部の人間しかいない環境とはいえ奴隷に謝罪する姿というのはなかなか見ることは出来ないだろう。

静かに2人のやり取りを見守る。
カイルが何も言わずに頷くのが見えた。

「…アイリス嬢、リーン殿。今回、2つの奴隷商の摘発の準備が整った。特に悪質とされる黒の枷の使用をしていた商館を押さえることが出来たのは非常に大きい。引き続き、この問題には注力していくので協力をたのむ。」

「「承知致しました。」」

もうひとつの部隊が動いていた別の奴隷商の方も無事に証拠を押さえることが出来たようだ。大きな1歩だろう。

「あぁ、アイリス嬢。君の登用はほぼ確定するだろうが、出る杭に噛みつきたいもの達が疼いているらしい。以前から伝えているが侍従や護衛をつけるなどはいい加減対策するんだな。できる限り1人にならないように。」

「…かしこまりました。検討いたします。」

「あぁそうだ、彼についてはどうするつもりだい?」

「…現状の契約上の所有者は私となっております。費用は今回の捜査の経費として処理されておりますが、彼が国の所有を望まないのであれば私の私財を使用することも可能でございます。許されるのであれば彼の望む形に落ち着けて頂けると幸いでございます。」

「まぁ、費用の件は奴隷商から回収するから気にしなくていいよ。」

殿下は私の言葉を聞き終えると、費用については訂正をいれ、そのままカイルへと目を向ける。

「君は、どうしたい?首輪は今すぐにでも外すことができる。しかし紋を消す事は出来ない。そうなるとどうしても本質的には奴隷的な立場は変わらなくなってしまう。仮という形で私の名を所有者の欄に入れて国で保護することも可能だが、君の望みは何かあるだろうか。生活の保証とか、身分証の発行とか、できる限りの事をさせてもらうよ。」

「…では、所有者はアイリスのままで。それ以外を受け入れる気はありません。あと、この件で彼女に金銭的負担が行かないようにしてください。それと保護は別に不要ですが、俺に仕事を。出来れば彼女の護衛とか。」

「ちょっと!カイル!?」
いや、何を言っちゃってるの!と慌てるも彼は欠片もこちらを見ない。

「そう。わかったよ。黒の枷に抵抗できるくらい強いんだから、近衛兵とかどうかなって思ったんだけど、残念だ。」

随分な物言いのカイルに対して殿下は特に気にした様子もなくからからと笑う。

「ではカイル、君の望み通りに。そして明日から彼女の護衛を頼むよ。今日中に何かしらの立場を用意しておくから。さて、アイリス嬢、リーン殿
、本当にご苦労さま。今日はもう帰っていいよ。」

「承知致しました。ありがとうございます。御前を失礼致します。」

「っ!ありがとうございます。失礼致します。」

1人呆気に取られている間にリーン様が退室の礼を取ってしまい慌てて後に続く。

一礼し、王太子殿下の執務室を後にする。
おなかいっぱいだ。もう暫くは近寄りたくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

伯爵令嬢の苦悩

夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。 婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

それは立派な『不正行為』だ!

恋愛
宮廷治癒師を目指すオリビア・ガーディナー。宮廷騎士団を目指す幼馴染ノエル・スコフィールドと試験前に少々ナーバスな気分になっていたところに、男たちに囲まれたエミリー・ハイドがやってくる。多人数をあっという間に治す治癒能力を持っている彼女を男たちは褒めたたえるが、オリビアは複雑な気分で……。 ※小説家になろう、pixiv、カクヨムにも同じものを投稿しています。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

処理中です...