結局の所、同じこと

りすい

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カイルの言葉に怒ったんじゃないの?それでも私を潰そうとするのかとか一生懸命に思考をそらそうとして、体の震えに気づいた。
人から向けられた殺気に呼吸が浅くなる。
嫌味を言う人は沢山いたが、可愛いものだった。
彼は今、私を殺そうとしている。
血走った目が怖いのに反らすことも出来ない。

急に視界からガーランドが消えた。

いつの間にかカイルが私を守るように前に移動していたらしい。

真っ赤な目が怖かったのに目の前の背中に、小さな背中が重なって見えた瞬間、身体から力が抜けた。

昔から変わらない、私を守る背中。

体が弱くて、気も小さくて、人に脅えていて、幼い頃の私はいつも周りの子供達にいじめられていた。
たまたまその現場に居合わせたカイルは私にお前は下僕だと宣言をしたかと思えば、振り返って虐めていた子達を返り討ちにしていった。
いじめっ子たちは不服だったのだろう。なんでお前がそいつを庇うんだと聞かれた彼は、なんの躊躇いもなくこう切り返したのだ。

「俺の下僕なんだから俺のものだ。俺のものを俺が守って何が悪い!」

私から見えるのは彼の背中だけ。
私を嘲笑っていた彼らの視線はひとつも見えない。
ほっとして小さな背中に抱きついて泣いた。

そこからその彼の背中に守られていたのは3年ほど。
急に現れなくなった彼に捨てられたと思った私は再発したいじめに一人で立ち向かった。
強くならねばと震える足で踏ん張った。
彼を頼りすぎたから嫌われたと思ったのだ。

彼が現れなくなった理由を知ったのはそこから5年。13歳になった年だった。
幼馴染の彼の家は没落してしまったから会えなくなったが、どうやら冒険者として活躍しているらしいと教わった。
3つ年上の彼はその時点で16歳。
あんなに助けて貰ったのに、私は何一つ返すこともなく何も知らずに呑気に過ごしていた事が悔しくて仕方がなかった。

そこから4年後、彼はSランクの冒険者として頑張っていると噂が届いた。

負けられないと思った。
今は一人でちゃんと立っているよと伝えたかった。
他の女性たちの前で胸を張って、しっかりした背中を見せているよと。
先陣を切って皆の希望に成ろうとしてるんだよって。
私がいるから大丈夫って誰かに思って貰えるように、自分の力でなんとかするんだって。
きっと彼はどんな状況でも真っ直ぐ前を見て立っているんだろうなって、勝手に想像して勝手に見習っていた。

ここまで、頑張って来たのに。
それなりに胸を張れるようになったとおもったのに。

なのに、今私は結局元の弱虫だ。
守られて、縮こまって、情けない。
一人で立てる、頑張っている虐められない私なんてものはただのメッキだ。
簡単に剥がれてしまった。

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