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しおりを挟むなぜ、こんなところに?
この国では珍しい黒髪も碧色の瞳も、意志の強そうなその表情も昔のまま少しも変わらないのに、綺麗な顔に不釣り合いな首輪に着いた鎖がその存在を主張するかのようにシャラりと音を立てた。
首に着いている禍々しい首輪は、奴隷の証。
その色は、
ーーーー黒。
「私に攻撃を仕掛けるなんて、何を考えているの!!そいつを今すぐ切り捨てなさい!他のと色が違うと思っていたけど、その首輪は不良品なのかしら、力の制御すらまともに出来ていないものを連れてきたの!?」
続く怒声に意識を強制的に戻される。
扉が外されてしまった部屋の入口で従業員に囲まれている女が顔を真っ赤にして叫び続けている。
「少し触っただけじゃない!!!!!攻撃を仕掛けてくるなんて何考えているの!!!」
「契約前だ、不躾に触られて黙っている筋合いなどない。」
騒ぐ女を睨めつけ、床に座ったまま返答する彼に瞠目する。
黒の枷がつけられていても瞳には強い意思が宿っているし、あれだけ女が騒いでいるのだ攻撃を仕掛けたのは間違いないのだろう。
枷に抵抗するだけの力があるなんて…
おそらく廊下で女に攻撃を仕掛け、客に施されていた攻撃を返すカウンター魔法に弾かれて私のいる部屋まで飛ばされたという事だろう。
ここまで吹っ飛ぶなんてどれだけの力で抵抗しようとしたのか…
未だに今すぐあいつを処分しろ!と騒ぎ立てる女にむけ、気がついたら声を発していた。
「その男、いらないのなら私が買いますわ。おいくらでお買いになりましたの?1.5倍でいかがかしら。」
部屋にいた全ての人間の瞳が私に集まる。
少しの間の後、
「首輪をつけていても攻撃を仕掛けてくるんですのよ?首輪と契約紋の強化をしなきゃいけないとなると、主側にも魔力が必要になりますわ。それとも被虐趣味がおありなのかしら?」
先程まで喚いていた女が、馬鹿にしたように鼻で笑いながら言葉を返してくる。
騒ぐのを辞めた女の身のこなしはそれなりのもの。もしかしたら高位貴族なのかもしれない。
奴隷商にいる私がただの令嬢じゃない可能性を考えて大人しくなったのだろう。
「まさか。私が誰かに膝を着くように見えまして?魔力で抑えつければ良いだけなのであれば何も困らないわ。有り余っていおりますの。強い男が膝を着く姿はなかなかにそそられるものがあるでしょう?」
「見た目は気に入っていたのだけれど、私は魔術が得意ではないのよ。自分の命を危険に晒す気はないわ。貴方にお譲りしますわ。ただし、そうね。私の代わりにしっかり躾てちょうだい。プライドの高い男が悔しそうにしているのは好きだもの。貴方とはお友達になれそうね」
にっこり美しく微笑む彼女は美しく、優しげな表情をしている。場所がここでなければうっかり騙されてしまいそうだ。
「魔術は得意ですの。色々な使い方がございましてよ。」
目元を細めて笑みの形をつくる。
優雅に口元を扇で隠すが、口に浮かぶのは嫌悪。
友達なんて、死んでもお断りよ。
彼女は私の返答に勝手に何を想像したのかご満悦で去っていった。
チラリと副長を見る。
こちらを見た彼はしっかりと頷き返してくる。
どうやら彼女が何者か見当がついてるらしい。
「で、では、こちらの男をご購入されるということで、よろしいですかな…?」
オーナーの男は汗を拭きながら言葉を発する。
この状況下で無理やり流れを戻すその精神力に少しばかり感動してしまった。
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