将来を夢見たってろくなことにならない

今井舞馬

文字の大きさ
上 下
1 / 1

将来を夢見たってろくなことにならない

しおりを挟む
儚い命だった。流れるように時は過ぎて、私の生涯は幕を閉じた。理不尽で、不条理で、それでもこの命が誰かの役に立っていたのだとしたら、何も悔いはない。
 
 私は施設生まれ、施設育ちの世間知らずな女の子。たくさんの仲間に囲まれて幸せな日々を過ごしています。
  何一つ不自由なことはなく、友達と共にする時間はとても充実していて楽しいものだ。
  しかし、大人になると私たちは施設を出ていかなければいけないのです。
  私はそんなのイヤだ。いつまでもみんなと楽しく暮らしていきたかった。
  そんな心とは裏腹に、体は日に日に成長していきました。
  年上の子たちが、どんどん外の世界に旅立っていきます。そんな景色を眺めていると、私も少しずつ外の世界に興味がわくようになっていました。
  外の世界はどんな広さなんだろう、どんな景色なんだろう、どんな匂いがして、どんな生き物がいるんだろう。
  大人になったら全部わかるのかな?知りたい。この目で確かめてみたい。大人になるのが待ち遠しい。早く大人になりたいなぁ。
  いつしか私はそんな期待に胸を膨らませるようになっていました。
  ……文字通り最近だんだん胸が膨らんできました。ムム。恥ずかしい……。大人になっていく証なのかな?少し重くて疲れます。
 
 瞬く間に時は流れ、ついに私もその日がやってきました。施設に別れを告げる日です。
  大人になったほかの子たちと一緒に育った施設から外の世界に羽ばたきます。
  名残惜しそうに、育ててくれたおじさんが手を振ってくれました。
 
 と、ふいに、意識が……。
 
 ……あれ?ここはどこだろう。意識が朦朧として視界がぼやけます。
  あたりを見渡すとほかのみんなは眠っています。
  生まれてからずっと施設で生活していたからか、目の前にあるものが何なのかさえ、私には理解できません。
  何やら騒々しい音がします。おっきな何かがガチョン、ガチョンと動いています。
  きゃっ、ちょっと、そんな乱暴しないでよっ!デリカシーないなぁ、プンプン。えっ?どこ触ってっ、嫌ぁ。
  軽々と私の体は持ち上げられ、(お姫様抱っこというやつだろうか)何やら台に乗せられた。
  ガゴン、という音とともに周りの景色が流れ始めます。何これスゴイ。
  それにしても、一体ここはどこなんでしょう。いまだに分かりません。
 「ねえ、いったいここはどこなのですー?」
  私の前に乗せられている幼なじみのジョン君に尋ねてみます。
 「知るもんか、大人になるための場所なんじゃないのか?」
  う~ん。物知りのジョン君でもわからないみたいです。お手上げだ。
その時。
  嫌ぁ、と悲鳴が聞こえました。
  前方を覗き込むと、色気たっぷり自慢のマチルダさんではありませんか!
  剥かれるもの剥かれて素っ裸で、目のやり場に困ります……って!そうじゃなくて。
  何で裸にされているんですか、非道いです。
  あ、意地っ張りなレイ君も、温和なミレイナさんも、みんな生まれたままの姿にされてしまっています。
  どうして?これも大人になるには必要なことなんでしょうか?
  みんな嫌がっているのに。
  私の番が来ました。あっ、あああ。
  尊厳も誇りも一緒に、乱暴に脱がされていきます。
  そんな私の屈辱も知らずに「大人になる場所」はどんどん私たちを運んでいきます。
  あっ!前方のみんなが、今度は逆さに吊られ始めました。足をすくわれ、どんどん宙吊りになっていきます。
  頭を下にして、プラプラとぶら下がって、その先には長いトンネルのようなものが見えてきています。
  流れは緩やかなカーブを描き、お友達がトンネルを通過していく様子が、はっきりと見えるようになりました。
  そして、そして、先頭の子がトンネルをくぐりました。
  スパァンという音がしました。続いてどんどんみんながトンネルに入っていきます。
  スパァンスパァンスパァン。一定のリズムを刻んでいきます。
  なんだかとてもいやらしい音……。
  そしてトンネルを潜り抜けてきた私の仲間たちは、  ――頭がありませんでした。誰が誰だかもう区別がつきません。みんなおんなじ感じに見えます。
 
 何で頭がないんだろう。大人には頭部は必要ないのかな? 大人になる証? そうだよね、うん、きっとそうだ。
 
 って、いやいや、そんな訳あるか。みんなもう動いてないじゃないですか。
  え?てことはもう   ―――――――死んでる?
  ええ!?ウソ、だって、えっ、何それいやだいやだ私あれ大人になってそれでそれで外の世界でいっぱいあのなんかいろいろその楽しいこと?してそれでそれでうんえっとえっと
  逃げなきゃ? 逃げなきゃ!? 逃げなきゃ!! あるぇー?変だなぁ、体が思うように動かないや。
  ああうあうやばいやばいえっちょまっウソウソウソなんであれトンネルくぐるだけであんなに血が出てっああああ。
  待って待って、一回ストップ。ウェイウェイウェイ、説明無いの?あの、ちょっと説明   あれ?嘘!?嘘嘘足っ足吊らないでよエッチエッチエッチ!
  きゃっ、やだやだ、頭に血が上るんですが!?
 
 私の世界がぐるんと反転します。
  私は逆さで吊られたまま運ばれていきます。
  ……なあんだそうか。頭に血が上るなら、頭をとっちゃえばいいんだ。そういうことかぁ。ホッ。
 
 ―――――――なあんて。
 
 本当はわかってるんです。私ここで死ぬんですよね?短い命だったなぁ。しょうがないや。ぜんぶ神様が決めたことです。もうこの世に未練なんて、なんてっ……嘘。やっぱりいやだよ、まだ、死にたくないよぅ。もっと生きていたいよぉ。まだまだやり残したこといっぱいあるんだからぁっ。ズズッ。やめて、殺さないでぇうっうっ。
 でも……、殺されなきゃいけないってことは私の命は有意義に使われるってことなんですよね?きっと誰かの役に立つんですよね?私の命でほかの誰かが救われるのだとしたら、―――――――それならちょっとだけ、本当にちょっとだけ、私の命を差し上げても、いいかなぁって、気もするのでスパァン。
 

 某国、某所。
 「ママー、この肉なに?不味いよぉ~」
 「あら、ごめんなさい。マー君鶏肉苦手だったわね。いいわ、もう捨てちゃいましょう」
 「ママー、黒毛和牛~」
 「はいはい、マー君の好きな黒毛和牛でちゅよ~」
  ドサッ。ドサッ。乱雑にゴミ箱へと放り込まれたそれは、無機質な音を立てて沈黙した。
 
                                  完
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...