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第200話 誘拐計画ベリーソースを添えて

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 既に、リラ・ライラックはレオン・ソレイユと同じ部屋にいる。

 夜間に侵入し誘拐することは難しい。

 ターゲットが移動する際は、基本的にレオン・ソレイユが同行する徹底ぶりである。

 炎魔法の使い手である以上、下手な襲撃もできない。

 屋敷よりも警備が手薄と思われていた研究所だが、得体の知れない罠が張られていた。判明したのは我々とは別の組織がそれに引っかかってくれたおかげだ。

 複数の依頼主が複数の裏組織にリラ・ライラックの誘拐、または暗殺の依頼をしている。

 前触れなく飛行船で国外へ行ってしまい、準備不足で国外で襲うチャンスを逃してしまった。

 一部の組織は独自の経路で海賊に依頼して飛行船を襲わせたようだが、沈没させられたと聞く。

 崩落事故を誘発させ、邪魔になるレオン・ソレイユを暗殺し、その隙をついて誘拐する予定を立てたものもいたそようだが、噂では関係者は悪魔を見たと引退したらしい。詳しいことはわかっていない。

 炎魔法で、どう解決したかは知らないが、ソレイユ家の炎魔法は各国で警戒している。

 証拠も残らない方法で、燃やしたというのか……。

「い、いらっしゃいませー」

 移動中も就寝中も難しいならば、立ち寄る店に店員として潜入することにした。

 公爵家ご用達となれば怪しいものの就職は難しい。と思っていたが、結構あっさりと仕事にありつけた。

「ブルストとエールをお願いします」

 席に着いたターゲットのリラ・ライラックがきらきらとしたいい笑顔で注文をする。

「こちらも同じもので」

 向かいに変わった公爵令息も当たり前の顔でそう注文した。

「か、かしこまりましたぁ。エールは先にお持ちしますか?」

「ブルストと一緒でお願いします」

 きりっと返される。

 今は準男爵の商人のような恰好をしているが、食事処で明らかに浮いている。

 まだ開店して間もない時間なので人は少ないが、明らかにそこだけ高級感が漂っていた。

「注文入りました。ブルストとエールふたつずつ、同時提供です」

 厨房に注文を通すと、料理長がやってきて、さっと客の顔を確認した。

「ようやっときやがったか……」

 準男爵や下級貴族向けの宿も併設している食事処で、平民が来るとすれば何かの記念日くらいの高級店だ。そこでブルストとエールしか頼まない客はある意味珍しい。だが、最近はやたらとブルストの出がいい。定期的に王宮に献上までしているらしいが、献上品を作るときは城から監視が入るので私はここには立ち入れない。そして、それが噂になってみんなブルストを頼むようになった。

「えっと……あのお客様が何か?」

「……元凶だ」

 小さく呟くと、厨房へ戻っていった。

 下位とはいえ貴族を相手にする商売だ。接客に採用さるときには言葉遣いや対応が出るかを重点的に確認された。

 だが、裏方の厨房はあまり重視されていないらしい。

 料理が出来たら皿に薬を盛る。なに、ちょっとトイレに行きたくなるだけの薬だ。そして、トイレに入ったところで誘拐する手はずを整えている。

 ここにターゲットが直接来るかは賭けでもあった。だが、ターゲットが目をかけている服装店は採用が厳しいし、仕事を始めてすぐに公爵家へ連れて行ってもらえるわけではない。

 賭けの一つには勝ったといっていい。

 料理がカウンターに置かれ、鉄板からはジュッとはじけるような音がしている。

 今だと懐に手を入れると、料理長が出てきた。ひゅっと声が漏れてしまった。薬はまだ盛れていない。

「それも持ってけ」

 指示されて、エールを両手に持たされる。料理長は器用に他の料理を持っている。

 ターゲットの席へやってくると、上級の、それも公爵家に対してぶっきらぼうに料理を置いていく。

 薬を盛ろうとしていた私だが、見ていてひやひやする。

「りょ、料理お持ちしましたぁ」

 なんとか取り繕おうとエールを置くが、腕を組んで仁王立ちする料理長は憮然とした表情でリラ・ライラックを見下ろしていた。

「いいか、嬢ちゃん」

 低くしゃがれた声で言う。

「うちはなぁ、ブルスト専門店じゃない」

「? はい」

 ターゲットは不快そうにするわけでもなく、きょとんとした顔で見上げている。

「旬物の料理にも自信がある。それはサービスだ」

 それだけ言うと、大股で戻っていった。

 説明を求めるようにこちらを見られるが、困る。

 確かに注文になかったベリーのケーキが置かれていた。

 本当に説明を求められても困る。こちらも千載一遇のチャンスを邪魔され、意味が分からないのだ。

「さ、サービスに、なりますぅ」

 それだけ言って、すすすと後ろに下がった。

 戻ってから、あまり話したことのない料理長に対して詰問をすると決める。

「祝いは言えましたか?」

 戻ると、若い店員が料理長に声をかけていた。

「………うっ」

 壁に頭を向けて肩を震わす大男と、それを慰めている店員。

 私は、何を見せられているのか……。

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