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第197話 王族と聖女様
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「ソレイユ家は、王族の傍系ですよね」
おっぱじめようとレオンに手刀を落として、突っ込みを入れる。
正式に結婚したら、毒のこともあって強く出てこなかったメイド長と執事が態度を変えてきた。ソレイユ家の歴史を学べと言ってきたのだ。それは、至ってまともな態度の変化と言えるだろう。
決して嫁いびりではない。社交の場で恥をかかれてはいけないからと執事のおじい様が書かれたというソレイユ家の歴史大全なる本を贈られたのだ。いびりではないが、鈍器のような本を渡された時は、ちょっと引いた。
まだ第一章しか読んでいないが、そこで書かれていたのは初代聖女様と国王の子孫で王位を継がなかった息子が今の公爵家になったという。なので他の貴族と違い、公爵家だけは直系の男家系しか許されないという。
「なので、もしレオンと聖女様がいたしたとしても、聖女様のお力は、理論上はなくなりませんよ」
それについては王族の血を守るための言い訳説が濃厚だと思っている。ただ、リリアン様と王太子殿下は確かに運命の相手だということは事実だ。
「聖女様がレオンに一目惚れしていたら、王になれたかもしれませんね」
可能性に気づいて口走ると頬を抓られた。
「確かに、王族の血は流れていますが……」
「あと、いつ従兄の人が戻ってくるかわからないような場所で、悲惨な状態を目撃されたくはないです。時と場所を弁えてください」
「はい……」
叱ってからもう一度抱きしめて、背中を二度叩いてから体を離した。
「上に行きますよ。階段はあまり好きではないんです。ほら、手を繋いであげますから」
黒い石の影響が残っていたのか、レオンは私が他の男に走りそうだと勘違いすると不安定になるようだ。
手を差し出すと、怖かった表情が少し和らいだ。
手を取ると、人差し指の指輪に口づけを落とした後、指を絡めて握られた。
こういうところ、殴ってやりたいと思う。
「いっそ、リラが聖女で王家の血を引く俺と出会って恋に落ちるという話だったらよかったのに……」
「王太子とリリアン様は、花びらが舞いそうな出会いだったそうですが……。すみません、私はいつが初対面かも覚えていないです」
リリアン様も王太子も、互いを見た瞬間にときめきの鐘が鳴ったそうだが、私はレオンを王太子の側近AかBくらいの記憶だった。
「俺も、リラのことは綺麗な人とは思っていましたが、一目惚れではなかったですね。今では、最悪閉じ込めてしまいたいと思うくらいに愛していますが」
レオンの親指が、撫でるように私の指をさする。童貞の分際で、一々動作がいやらしい。味を占めたら他の女性にも手を出すのではと心配になってしまう。
「閉じ込めるときは、庭付きの一戸建てにしてください。日光浴をしないと体に悪いです。後、お酒とそれに合う食事は欠かさずにお願いします」
「閉じ込められることに随分と前向きですね」
ちょっと呆れられている。
「まあ……実際魔力暴走で幽閉の危機も………ありました、し」
「座りましょう」
言われて、階段に腰掛けた。
息が上がる。
「書類仕事の方が多かったので……体力が」
こんな状況だからザクロから運動を課されてしまったのか。因みに王妃様とリリアン様も運動させられている。
「最近は運動をしていると聞きましたよ」
「婚約先の家によっては、肉体労働もありましたから。それに比べれば可愛いものですが、目的なく運動するために体を動かすのはどうも……」
野菜を作るためとか、荷物の運搬は結果があるが、運動はただ体力をつけるためだけだ。時間の無駄に思えてしまう。
「さて、歩きます」
少し休憩してから、手を放して階段を上ることに専念する。色気よりも楽さを優先した。
「レオンは……立派な筋肉ですが忙しいのに、鍛錬を?」
今日まじまじとレオンの裸を見たが、腹筋が割れていた。
「……俺の魔法は殺傷力が高すぎます。それなら、剣術で対抗した方がまだ手加減ができますから、時間を作って剣技の訓練をしているんです」
失態を思い出してレオンが微妙な咳払いをした後、そう言った。
私の魔法であれば、息を止めさせるか息の根を止めさせるか選べる。レオンの魔法を攻撃に使う場合、一番優しくて一部熱傷、それも服に燃え移ると更に大変な熱傷。さらに本気で燃やすと炭か灰だ。
熱を使うにしても、結局は大怪我になる。
「長剣で切りつける方が……軽傷とは」
そういえば、宿の食事処にやってきたレオンを見て、大層な長剣を持っていると思った。
あれは彼なりの優しさだったのか。もし平民が喧嘩を吹っかけてきたら、魔法ではなく腕力で黙らせるという。
「一緒に運動をしますか? リラは、筋トレよりも剣術などのほうが、多分好きだと思いますよ」
「……考えて置きます」
幼少期から訓練しているだろうレオンからしたら、微笑ましいものだろう。なんとなく、それはそれで癪だ。
ふと、もう少しで地上に着けるところで気づいた。
私にもしもリリアン様のような呪いがあるなら、王族以外と契りを交わせば済む話ではと……。
流石に、それを言ったら本当に監禁されそうなので、口を噤んでおいた。
リリアン様と違い私は聖女ではない。少なくともこの国の聖女はリリアン様だけだ。他の国にも聖女伝説はあるが、そちらの聖女とこちらの王族は関係ない。
聖女でないのに監禁されても困る。
おっぱじめようとレオンに手刀を落として、突っ込みを入れる。
正式に結婚したら、毒のこともあって強く出てこなかったメイド長と執事が態度を変えてきた。ソレイユ家の歴史を学べと言ってきたのだ。それは、至ってまともな態度の変化と言えるだろう。
決して嫁いびりではない。社交の場で恥をかかれてはいけないからと執事のおじい様が書かれたというソレイユ家の歴史大全なる本を贈られたのだ。いびりではないが、鈍器のような本を渡された時は、ちょっと引いた。
まだ第一章しか読んでいないが、そこで書かれていたのは初代聖女様と国王の子孫で王位を継がなかった息子が今の公爵家になったという。なので他の貴族と違い、公爵家だけは直系の男家系しか許されないという。
「なので、もしレオンと聖女様がいたしたとしても、聖女様のお力は、理論上はなくなりませんよ」
それについては王族の血を守るための言い訳説が濃厚だと思っている。ただ、リリアン様と王太子殿下は確かに運命の相手だということは事実だ。
「聖女様がレオンに一目惚れしていたら、王になれたかもしれませんね」
可能性に気づいて口走ると頬を抓られた。
「確かに、王族の血は流れていますが……」
「あと、いつ従兄の人が戻ってくるかわからないような場所で、悲惨な状態を目撃されたくはないです。時と場所を弁えてください」
「はい……」
叱ってからもう一度抱きしめて、背中を二度叩いてから体を離した。
「上に行きますよ。階段はあまり好きではないんです。ほら、手を繋いであげますから」
黒い石の影響が残っていたのか、レオンは私が他の男に走りそうだと勘違いすると不安定になるようだ。
手を差し出すと、怖かった表情が少し和らいだ。
手を取ると、人差し指の指輪に口づけを落とした後、指を絡めて握られた。
こういうところ、殴ってやりたいと思う。
「いっそ、リラが聖女で王家の血を引く俺と出会って恋に落ちるという話だったらよかったのに……」
「王太子とリリアン様は、花びらが舞いそうな出会いだったそうですが……。すみません、私はいつが初対面かも覚えていないです」
リリアン様も王太子も、互いを見た瞬間にときめきの鐘が鳴ったそうだが、私はレオンを王太子の側近AかBくらいの記憶だった。
「俺も、リラのことは綺麗な人とは思っていましたが、一目惚れではなかったですね。今では、最悪閉じ込めてしまいたいと思うくらいに愛していますが」
レオンの親指が、撫でるように私の指をさする。童貞の分際で、一々動作がいやらしい。味を占めたら他の女性にも手を出すのではと心配になってしまう。
「閉じ込めるときは、庭付きの一戸建てにしてください。日光浴をしないと体に悪いです。後、お酒とそれに合う食事は欠かさずにお願いします」
「閉じ込められることに随分と前向きですね」
ちょっと呆れられている。
「まあ……実際魔力暴走で幽閉の危機も………ありました、し」
「座りましょう」
言われて、階段に腰掛けた。
息が上がる。
「書類仕事の方が多かったので……体力が」
こんな状況だからザクロから運動を課されてしまったのか。因みに王妃様とリリアン様も運動させられている。
「最近は運動をしていると聞きましたよ」
「婚約先の家によっては、肉体労働もありましたから。それに比べれば可愛いものですが、目的なく運動するために体を動かすのはどうも……」
野菜を作るためとか、荷物の運搬は結果があるが、運動はただ体力をつけるためだけだ。時間の無駄に思えてしまう。
「さて、歩きます」
少し休憩してから、手を放して階段を上ることに専念する。色気よりも楽さを優先した。
「レオンは……立派な筋肉ですが忙しいのに、鍛錬を?」
今日まじまじとレオンの裸を見たが、腹筋が割れていた。
「……俺の魔法は殺傷力が高すぎます。それなら、剣術で対抗した方がまだ手加減ができますから、時間を作って剣技の訓練をしているんです」
失態を思い出してレオンが微妙な咳払いをした後、そう言った。
私の魔法であれば、息を止めさせるか息の根を止めさせるか選べる。レオンの魔法を攻撃に使う場合、一番優しくて一部熱傷、それも服に燃え移ると更に大変な熱傷。さらに本気で燃やすと炭か灰だ。
熱を使うにしても、結局は大怪我になる。
「長剣で切りつける方が……軽傷とは」
そういえば、宿の食事処にやってきたレオンを見て、大層な長剣を持っていると思った。
あれは彼なりの優しさだったのか。もし平民が喧嘩を吹っかけてきたら、魔法ではなく腕力で黙らせるという。
「一緒に運動をしますか? リラは、筋トレよりも剣術などのほうが、多分好きだと思いますよ」
「……考えて置きます」
幼少期から訓練しているだろうレオンからしたら、微笑ましいものだろう。なんとなく、それはそれで癪だ。
ふと、もう少しで地上に着けるところで気づいた。
私にもしもリリアン様のような呪いがあるなら、王族以外と契りを交わせば済む話ではと……。
流石に、それを言ったら本当に監禁されそうなので、口を噤んでおいた。
リリアン様と違い私は聖女ではない。少なくともこの国の聖女はリリアン様だけだ。他の国にも聖女伝説はあるが、そちらの聖女とこちらの王族は関係ない。
聖女でないのに監禁されても困る。
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