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第114話 二日酔い
しおりを挟む交渉の結果に、裕福な公爵家の令息たるレオンが引いていた。どの程度の品質を用意してくるかはわからないが、額を想像してちょっと気分が悪くなった。
一つか二つは私に下賜されてもいいだろう。そうなれば、一気に貯蓄が増える。
その前祝いに翌日は朝から酒盛りをした。おかげで翌日久しぶりに二日酔いになった。
二日酔いになるほど酒は飲まないのだが、地酒が合わなかったようだ。
おかげで昨日はレオンの膝枕で昼寝をしてしまった。それを企んだのはザクロだ。リラ様はそのように介抱をしてくださったのでと言って、飲み過ぎて気持ち悪くなったところに、レオンをどこからか連れてきた。
頭が痛む中、朝食はパン粥が用意され、レオンからはあまり飲み過ぎないようにと注意された。注意しながらも嬉しそうな顔をしているので殴ってやりたい。
「リラ殿の言うように、昨日の内に招待状が届きました。本来今日にでもこいという話でしたが、リラ殿の体調不良を理由に延期を要請しています。明後日には出向こうかと考えていますが、体調は大丈夫ですか?」
「……二日酔い的な意味では、大丈夫だと思います。いつもはあんなに飲まないのですけど……」
ザクロが昨日のお詫びとお礼にと、色々なお酒を少しずつ用意してくれた。出されたつまみも多様で、チープさを残しつつも大変に美味しかった。
ザクロも屋敷からは出られないからと、付きっ切りでお酌をしてくれたのだ。その所為で自分ではなくザクロのペースで飲まされた。
「……ザクロの陰謀」
はっとして給仕をしているザクロを横目で見る。
「まあ、リラ殿が喜んでくれるようにと、色々と考えていたようではあります」
なるほど、だが、昨日の記憶はあまりない。
お酒はレオン用に用意されたものということになっている。私は二日酔いではなく原因不明の体調不良と言うことにしている。
次の日には体調は戻り、更に翌日、要塞城へレオン達と共に向かった。
迎えの馬車が、以前よりも豪華になり、付き添いの警護が三倍くらいに増えていた。それに対して、ザクロたちはむしろ警戒している。
どこかの牢屋に連れていかれることもなく、無事に城に着くと、ずらりと出迎えがあった。
「……随分厚遇のようですねぇ」
まあ敵として認識されているわけではないようなので、良かったと思っていると、レオンは微妙な顔をしている。
案内されたのは謁見の間でも晩餐に使った場所でもなく、中庭の庭園だ。今回は晩餐ではなく昼食での招待となったそうだ。私の体調を加味して、夜は避けたようだ。
「お待ちしていたリラ・ライラック。それにブルームバレー国大使たち」
今回は後からではなく先に待っていたこの国の国王が席を立ち言う。前回は、私はおまけだったのだが、今回レオンは名前すら呼ばれない。婚約者を立てるべき立場としてこういうのは止めて欲しい。
「……ご招待ありがとうございます殿下。ご招待いただいていたというのに、日を待っていただき申し訳ありませんでした」
「俺のことはジェイドと。敬称も不要だ」
「いえ、立場を考えればそのような不敬はできません」
席を勧められた場所は目の前だが、微笑んだまま一つ隣に座る。特に咎められはしなかった。代わりにそこにはレオンが座った。
一度レオンの方を見てから話を続ける。
「今回は、報酬としての魔法石についてと今後のブルームバレー国との友好関係についてでよろしいでしょうか? それに関してはレオン様にお任せしておりますので」
「それもある。先にその件を済ませてしまうか」
言うと、指で指示を出すと、侍従が箱を持ってきた。
私の斜め前に置かれる。その時、テーブルの上の花瓶に飾られた花にライラックの花も混じっていると気づいた。季節が違うのにどこから探してきたのか。
そんなことを考えていると、侍従が箱を開いた。
「リラは触らないように。全て魔法石だからな」
箱の中に並べられた宝石は、全てクッションの敷かれたケースに入れられている。
「全てAからS等級の魔法石だ。要望の魔法石の種類が分からなかったからな。一通りの物は揃えている。流石に品質と一定以上の大きさで全てをすぐに揃えることはできなかったが、ひとまず、渡せる分を用意させた」
「……本当に、購入費も不要ということですか?」
レオンが魔法石を見て引いている。
色々な色の中に無色透明の物も混ざっている。これが目的の魔法石ならば今回の目的は最低限達成できたことになる。
「それだけのことをリラは成した。それに見合う品質の物が準備出来次第残りも引き渡そう」
ちゃんと支払いをしてくれるのはありがたい。口約束なのでなかったことにされるかもしれないと心配していたくらいだ。
「国交についてだが、リラを窓口とするのであれば同盟でも友好関係でも結んでやっていい」
大抵隣国とは微妙な関係になるが、ルビアナ国とは直接国境を接していない。友好関係は築きやすい国だ。そして、国というのは貴族令嬢のお茶会のように、表面上は仲良くしなければならないし、情報交換の相手としても必要だ。それはある程度多い方がいい。
「私は、ただの準男爵ですから流石にそのような大役は行えませんわ」
指名を受けたが、なぜそんな面倒をしなければならないのか。
貴族令嬢の茶会だって面倒なのに。
「ただ、会合の場に出席してくれるだけでいい。リラとのつながりを少しでも保ちたい」
じっと見られ背筋に何か寒いものが走る。魔力的ではなく生理的なものだ。
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