上 下
114 / 225

第114話 二日酔い

しおりを挟む

 交渉の結果に、裕福な公爵家の令息たるレオンが引いていた。どの程度の品質を用意してくるかはわからないが、額を想像してちょっと気分が悪くなった。

 一つか二つは私に下賜されてもいいだろう。そうなれば、一気に貯蓄が増える。

 その前祝いに翌日は朝から酒盛りをした。おかげで翌日久しぶりに二日酔いになった。

 二日酔いになるほど酒は飲まないのだが、地酒が合わなかったようだ。

 おかげで昨日はレオンの膝枕で昼寝をしてしまった。それを企んだのはザクロだ。リラ様はそのように介抱をしてくださったのでと言って、飲み過ぎて気持ち悪くなったところに、レオンをどこからか連れてきた。

 頭が痛む中、朝食はパン粥が用意され、レオンからはあまり飲み過ぎないようにと注意された。注意しながらも嬉しそうな顔をしているので殴ってやりたい。

「リラ殿の言うように、昨日の内に招待状が届きました。本来今日にでもこいという話でしたが、リラ殿の体調不良を理由に延期を要請しています。明後日には出向こうかと考えていますが、体調は大丈夫ですか?」

「……二日酔い的な意味では、大丈夫だと思います。いつもはあんなに飲まないのですけど……」

 ザクロが昨日のお詫びとお礼にと、色々なお酒を少しずつ用意してくれた。出されたつまみも多様で、チープさを残しつつも大変に美味しかった。

 ザクロも屋敷からは出られないからと、付きっ切りでお酌をしてくれたのだ。その所為で自分ではなくザクロのペースで飲まされた。

「……ザクロの陰謀」

 はっとして給仕をしているザクロを横目で見る。

「まあ、リラ殿が喜んでくれるようにと、色々と考えていたようではあります」

 なるほど、だが、昨日の記憶はあまりない。

 お酒はレオン用に用意されたものということになっている。私は二日酔いではなく原因不明の体調不良と言うことにしている。

 次の日には体調は戻り、更に翌日、要塞城へレオン達と共に向かった。

 迎えの馬車が、以前よりも豪華になり、付き添いの警護が三倍くらいに増えていた。それに対して、ザクロたちはむしろ警戒している。

 どこかの牢屋に連れていかれることもなく、無事に城に着くと、ずらりと出迎えがあった。

「……随分厚遇のようですねぇ」

 まあ敵として認識されているわけではないようなので、良かったと思っていると、レオンは微妙な顔をしている。

 案内されたのは謁見の間でも晩餐に使った場所でもなく、中庭の庭園だ。今回は晩餐ではなく昼食での招待となったそうだ。私の体調を加味して、夜は避けたようだ。

「お待ちしていたリラ・ライラック。それにブルームバレー国大使たち」

 今回は後からではなく先に待っていたこの国の国王が席を立ち言う。前回は、私はおまけだったのだが、今回レオンは名前すら呼ばれない。婚約者を立てるべき立場としてこういうのは止めて欲しい。

「……ご招待ありがとうございます殿下。ご招待いただいていたというのに、日を待っていただき申し訳ありませんでした」

「俺のことはジェイドと。敬称も不要だ」

「いえ、立場を考えればそのような不敬はできません」

 席を勧められた場所は目の前だが、微笑んだまま一つ隣に座る。特に咎められはしなかった。代わりにそこにはレオンが座った。

 一度レオンの方を見てから話を続ける。

「今回は、報酬としての魔法石についてと今後のブルームバレー国との友好関係についてでよろしいでしょうか? それに関してはレオン様にお任せしておりますので」

「それもある。先にその件を済ませてしまうか」

 言うと、指で指示を出すと、侍従が箱を持ってきた。

 私の斜め前に置かれる。その時、テーブルの上の花瓶に飾られた花にライラックの花も混じっていると気づいた。季節が違うのにどこから探してきたのか。

 そんなことを考えていると、侍従が箱を開いた。

「リラは触らないように。全て魔法石だからな」

 箱の中に並べられた宝石は、全てクッションの敷かれたケースに入れられている。

「全てAからS等級の魔法石だ。要望の魔法石の種類が分からなかったからな。一通りの物は揃えている。流石に品質と一定以上の大きさで全てをすぐに揃えることはできなかったが、ひとまず、渡せる分を用意させた」

「……本当に、購入費も不要ということですか?」

 レオンが魔法石を見て引いている。

 色々な色の中に無色透明の物も混ざっている。これが目的の魔法石ならば今回の目的は最低限達成できたことになる。

「それだけのことをリラは成した。それに見合う品質の物が準備出来次第残りも引き渡そう」

 ちゃんと支払いをしてくれるのはありがたい。口約束なのでなかったことにされるかもしれないと心配していたくらいだ。

「国交についてだが、リラを窓口とするのであれば同盟でも友好関係でも結んでやっていい」

 大抵隣国とは微妙な関係になるが、ルビアナ国とは直接国境を接していない。友好関係は築きやすい国だ。そして、国というのは貴族令嬢のお茶会のように、表面上は仲良くしなければならないし、情報交換の相手としても必要だ。それはある程度多い方がいい。

「私は、ただの準男爵ですから流石にそのような大役は行えませんわ」

 指名を受けたが、なぜそんな面倒をしなければならないのか。

 貴族令嬢の茶会だって面倒なのに。

「ただ、会合の場に出席してくれるだけでいい。リラとのつながりを少しでも保ちたい」

 じっと見られ背筋に何か寒いものが走る。魔力的ではなく生理的なものだ。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...