上 下
101 / 225

第101話 二番目の婚約者 後

しおりを挟む

 あの家にと言ったが、私はあの商家は結構気に入っていた。馬車馬のように働かされたが、それだけの給料が出ていた。まあ、しっかり働いたので、あまり働かない息子よりも評価されてしまい、それがストレスになっていたのもわかっている。

 こちらではちゃんと働いているようなので、私では改心させる技量が足りなかった。ならばいい相手を見つけて婿入りしたともいえる。

 その現嫁は、ずらりとテーブルに宝石を並べた。

「公爵夫人二人と、レオン様の妹君への贈り物、あまり高価過ぎないものですね」

 こちらの要望を再確認する顔は、もう顔を青くして謝罪している姿はない。仕事に切り替えたのだろう。

「ええ、公爵夫人たちは自身で好きな宝石を買えますから、値段よりもこちらの特産の珍しい宝石がいいです」

 色々と見せてもらった結果、公爵夫人の二人には青紫の揃いのイヤリングにする。それぞれ紫と青の瞳なので、その間くらいの濃い色のものだ。同じ原石を分けて作られたものなので色味がよく似ている。金色の不純物が混じっているが、夜空の星のようで綺麗だった。

「正直に申し上げて、石としては二流品ですが、美しさだけで言えば透明度の高いものにも負けていないと思っております」

 若女将が言うように、宝石は純度の高いものの方が高いが、二人が選んだものを身につけているのを想像すると似合っていると思うので購入を決めた。

 レオンの妹へは、腕輪を買う。ネックレスやイヤリングは子供が幼いと危ないかもしれない。貴族の場合、育児は全て乳母に任せることもあるし、できるだけ一緒にいる人もいる。

 にこやかにほほ笑んで値段交渉をすると、ほぼ原価で購入ができたので、本当の意味で、これで手打ちにしよう。

「こちらが、レオン様からご依頼いただいていた魔法石になります」

 お茶が出され一息ついてから新しい宝石箱を持ってきた。

「大変に失礼ですが、魔力が強い方が持つと効果が発生してしまうことがございますので、近づかれないようにお願いをしております」

 並べられたものは七つほどで、最後に無色透明の宝石が置かれる。それだけはガラスのケースに入れられていた。

「こちらが、新しい鉱脈で見つかった魔法石になります。特徴としては、一切の魔法特性がない事、ただ純粋な魔力のみを吸収します」

「話には聞いていましたが……魔力のみですか」

 レオンが実物を見てわずかに眉を顰めた。

 リリアン様に見せてもらったのは、白濁したものだったが、元は透明だったということか。

「属性が出ないというのはそれだけ珍しいことですか?」

 魔法石は大きくわけて二種類。属性別にさらに分かれる。一般常識くらいは知っているが、専門的なことまでは知らない。

「そうですね……一般的な使用ですとあまり使用用途がないですが、魔法の基礎研究には革命が起こるかもしれません」

 高尚な研究は素人が聞いてもわからないだろう。

 リリアン様の聖力は特殊魔法に分類される。それらは魔法石にはないものだ。聖女様がどのような魔法を使っているのかはわからないが、もし魔力から特殊であれば、それが何かの役に立つのかもしれない。

「ソレイユ公爵家は魔法の研究にも熱心だと伺っております。今回は国の命令もあるでしょうが、公爵家のためにもお越しになられたと伺っております」

 聖女様のお力が保存できるかもしれないからというのを隠すためにも、ソレイユ家の子息を出向かせたのか。

 他国にとって聖女がいない方が都合がいいのだ。聖女様が不在でもしばらくは問題なくなるかもしれないということは、知られるのを避けなければならない。

「これ以外の魔法石も輸出が禁じられ、国内の魔法石には元々保証書番号がついていましたから、定期的な確認がされています。国内での売買はできますが、所有者の変更手続きが必要になりました」

「聞いてはいましたが、かなり厳しいですね」

「はい。許可なく販売した場合、今後商売ができなくなる可能性もあります。国外の方に売る場合は、国の機関を通しての販売になるため、個別の審査の手数料もかかります」

 国によっても違うのだろうが、法律関係は本当に面倒くさい。商売関係の申請も多少は学んでいる。規則が必要なのはわかる。守らせるために罰金がかせられ、信用にもかかわるのでしなければならないが、面倒くさいのだ。

「ちなみにこれを購入できるとなったらいくらほどですか?」

 めまいがするような額が提示され、それを真剣な顔で悩むのを見て、レオンは生粋の金持ちだと妙に実感した。私が結構頑張って買った夫人たちへの贈り物などゴミのようではないか……。

「これ以上のサイズはありませんか?」

「審査に通られた場合、ご対応はできるかと」

 名言は避け、そもそも資格を取れと言う。


 世の中は、庶民の感覚では理解できない高額取引があるらしい。それこそ、財政難のシダーアトラス公爵の散財が可愛く見えてしまう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~

サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...