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第77話 出発

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 レオンが屋敷から長期間離れるということで、レオンの両親たちが戻ってきた。私たちが立つ頃には三人とも公爵領に向かうそうだ。

 冬でもレオンは首都の屋敷にいることが多いらしいのでその間に行うべき仕事はある程度済ませなければならず、私も手伝うことになる。

 シダーアトラス公爵家で苦労したおかげで領地管理や手伝いはできる。むしろ、レオンの前に婚約した公爵は碌に仕事ができずこちらが教える羽目になった。今回はまだ跡を継いでいないというのに仕事ができるの大変よい。

 レオンは領地管理以外にも別に事業の仕事があったが、そちらは婚約者では手伝えない機密が多いということで何をしているのかは知らない。代わりに公爵夫人たちが引き受けていた。

 本格的に雪が積もりだしたころ、出発の日になった。早朝の見送りをした後、公爵様たちも領地に向かうとのことだ。

「リラお嬢様。お気をつけて行ってきてください」

 クララが屋敷の前で見送りをしてくれる。

「戻った時に、どれだけ成長したか楽しみにしているわ。でも、あまり無理はしないように」

「はいっ」

 クララは公爵夫人たちが教育をすることになった。連れて行かなければクララの安全が確保できない状況ならば連れていくが、厳しい顔つきでこちらを見ている公爵様と、微笑ましくこちらを見ている公爵夫人たちを見れば、クララが害されるとは考えにくい。ならば安全な場で教育の機会を得る方がいいだろう。

「リラさん、宝石の類は預けています。まさか……贈ったものと認識してくれていなかったとは思いませんでした」

「ルビアナ国は宝石の国ですから、上質なものを身に着けることは欠かせませんわ。飛行船で向かうので、あまり多くは持っていけませんけど、衣装に合わせておきましたから。メイドがいいようにしてくれるでしょう」

 公爵夫人たちがいう。

 以前、二人は宝石商を呼んで色々と注文をしてくれた。ほとんどの管理をメイド長に任せたのは、婚約破棄後に数が合わないと賠償を求められたら困るからだ。クララにあげる予定のものくらいは買い取れると計算したが、大きいものはとても買い取れない。

「その、無くした場合にお支払いができません」

 貧乏くさいと言われようと、私の金銭感覚は庶民基準なのだ。無理に見栄を張って破産するよりもいい。

 第二夫人が封を差し出した。

「レオンから聞いています。これは写しですけれど、全て贈ったもので返却は求めない誓約書ですから、誰かにあげても売り払っても、リラさんの自由ですよ」

「………催促をするつもりはありませんでしたが……うまく使えるように気を付けます」

 宝石を買う時、婦人たちは値段を一切聞かず、宝石商も値段を言わなかった。多分、これだけでレオンと婚約破棄をしたときの慰謝料の額を超える。これが、公爵夫人と跡取りの財力の違いか……。

「リラさん」

 第一夫人が扇で口元を隠したままこちらを見る。

「レオンさんは公爵家の跡取りです。婚約者を相応に飾ることができないのはあなたではなく彼の恥、そして相手から格下に見られる原因となります。高が物、失くそうと、壊そうと構いません。特にルビアナ宝国は宝石産業が活発ですから、それらを付けていかないということは相手国を尊重していないと言っているようなものです」

「はい」

「まだ婚約の段階でしかありませんが、将来公爵夫人となれば、あなた自身が夫の価値を高める存在にならなければなりません」

 第一夫人がそういうのを、公爵がじっと見ていた。

 第二夫人もそれを見ている。なんというか、事情を聴くと、二人から愛されているという点で、公爵家のトップは第一夫人なのだろうと納得する。

「あちらでもいくつか購入してくるといいでしょう。レオンさんが贈り物をし損ねているのは聞いています。公爵夫人として、そういうものを受け取ってあげることも覚えなければなりませんから」

「……わかりました」

 物を買ってと強請るのではなく、あなたがそんなに贈りたいというならば受け取ってあげましょうという態度は、私では見習える気がしない。強請るのも無理そうだが。

 第二夫人がすっと前に出た。

「経由地でミモザさんに会うでしょうから、届け物もお願いします。あまりたくさんは持っていけないのが残念ですけど」

 飛行船は重量制限があるので、荷造りも大変だった。何せ冬服なのでかさばるのだ。

「レオン。もし、あちらで問題があれば、ミモザを連れて帰りなさい。娘の家族を養う程度の余裕はある」

 公爵様が厳しい面持ちで言う。あまりいい立場ではないとは聞いているが、嫁いだ娘だけでなく、家族ごと連れてこいと言うところは中々に豪胆だ。

「わかっています。そろそろ出発しますよ。朝一番には出発しなければなりませんから」

 レオンが時間を気にして別れの挨拶を打ち切った。
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