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第54話 アルフレッド・ライラックの言い分

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 母から渡された香はいつもリラにはよく効いた。

 大抵の婚約者はリラが帰郷することを拒否することはなかった。勝手に婚約をした伯爵家も、同伴ではあったがライラック男爵領へリラを戻した。

 だが、レオン・ソレイユはリラとの婚約書を、権力を使い都合よく変更しただけでなく。里帰りの約束まで反故にした。

 リラもリラだ。

 これまで、どれだけ手間をかけてやってきたと思っているのか。

「見張りは付けています。そちらを教育に使っていただいても構いませんとのことです。ただし、しっかりと瑕疵をつけ、連れ帰るのは正式な婚約破棄後にお願いいたします。情けをお掛けになるようでしたら、こちらで処理をしますが……」

 どこかの下男がリラを運び入れ、拘束を済ました後に言う。

「情け? はっ、雇い主には妹の躾けはしっかり行うので、ご安心をとお伝えください。そちらも、お約束は忘れぬようにと」

 そう返すと、下男は軽く会釈をして部屋を出た。念のために外から鍵がかけられた。

「ふっ」

 鼻を鳴らし、無様な妹を見下ろす。

 無駄に魔力がある義母妹は、母上の教育である程度の言うことは聞くが、最近は随分と生意気になった。

 首には罪人に使用する魔法封じがつけられ、手足は四方のベッドの足に括られている。他家で生活した所為で妙なところが擦れてしまった。家長に粛々と従うべきだと言うのに、最近は反抗することを覚えだしている。

 何度となく婚約先から返品される妹のために新しい嫁ぎ先を探す兄などそういない。

 不思議なことに、その都度相手の家からは多額の慰謝料の支払いがあった。リラが余程の秘密を知ったのかと思ったが、調べると相手の家の問題が解決してしまい、リラが不要になり返されていた。

 最初は跡取りがいない貴族に子を産める若い女として婚約を取り付けていたが、次第に婚約破棄時の違約金を目的に探すようになった。

 あれはあれでいい商売だったが、そろそろ歳が厳しい。婚約者以外、使用人として雇った場合でも同様に幸運があるかはわからない。その実験をする前に、これには一つの役割を与えることにした。

 昔、酔った父上が言っていたのだ。

 俺とリラに血の繋がりはないと。

 平民だろうと、あの水を溜める魔法はライラック領には有益だ。ふざけた額の料金を吹っかけてきたため、他で頼もうとしたが業者にはそんなことをできる貴族がいるのかと笑われた。あのバカにした顔は忘れないだろう。

 父上は自然に溜まりもしない貯水池に多額の投資をし、馬鹿だと思っていた。水源としてリラを利用できると教えたというのに十五になると婚約先へ送り出した。

 血が繋がらないならば、もっといい使い方があった。だが、父が亡くなってからも、リラが婚約破棄されて得られる金は必要だった。だから、これまでは使わなかったが、こうも反抗的になるならばもういい。

「こんなことで手間を取らせやがって」

 一向に起きないリラの頬を叩く。文句も言わず、睨み返しもしない。昔のように、泣かないのでは物足りない。

「……」

 着ている服は、切り裂くには勿体ない上等なものだ。だが、手足の縄をほどいたときに目が覚めても厄介だろう。

 抵抗ができない状況で嬲ってこそ、面白いと言うものだが、意識がない状況のまま終わらせるのもつまらないか。

 だが、起きた時に立場を理解させておいた方がいいだろう。もったいないが、十分な融資の予定がある。護身用に携帯しているナイフを使い、服を割いていく。

 目的のためには必要な事とは言え、痩せたみすぼらしい女を相手をしなければならない自分も災難だ。だが、これの子であれば魔法適正が高い可能性がある。将来妻を迎えた時、適正のある子ができなかったときのためにも予備として作っておく必要はある。

「……?」

 裂いた服から見えたのは艶のある肌だった。自分の知るリラは、薄汚れて、貧相な餓鬼だった。だが、今は王宮と公爵家で磨かれたのか、まるで高級娼婦のような肌をしている。

 無意識に唾を飲みこんでいた。

 同時に、貯水池の水が減り、苦労するなか優雅に過ごしていたのかと怒りが湧く。

「不義の子の分際で……」

 こいつがいたせいで、母上は苦労してきた。父も違うならば、これの母親は愛妾どころかどこかの娼婦だったのだろう。

 公爵家の跡取り息子はこちらが提案すると随分と簡単に婚約書にサインした世間知らずだった。王妃殿下からの推薦だったから安心していたが、世間知らずは婚約時の作法すら守らない馬鹿だった。

 既に手つきの可能性は高いか。あの準男爵家にいた時点で生娘ではいられなかったろう。

 ひとり目の子は闇市に流して、しっかりと管理した状態で二人目から男爵家の子とすればいい。

 父のように、血の繋がりのないものを男爵家に入れるようなヘマはしない。


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