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第17話 個人的な婚約契約書

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 とりあえず、一着外出着を作った。

 試着の際に改めて持ってきてもらった完成品を調整してもらっただけなので、一から作るものよりも短期間で届いた。

 モリンガ男爵夫人との契約の結果だけを言えば作ってもらう服はタダになった。そして同じようなデザインの服をモリンガ男爵夫人の店で売った時は売り上げの一割が私に支払われる契約に落ち着いた。

 服も公爵家の金で作ったものではないので所有権は私にある。婚約破棄した後に持って出られるのでとても助かる。

 急ぎ外出着を作ってもらったのは理由がある。そして予想通り、王宮から手紙が届いた。

「王宮への招待状、ですか」

 一応、婚約者に報告する義務があることは理解している。メイド長へ話がある旨を伝え、取り次いでもらって執務室へやってきた。

 本当に跡取りらしく、次期公爵として一部公爵の仕事をしているようだ。

「はい。王妃様とは交流があり、リリアン様の教育係兼お話し相手として、婚約破棄の以前からお話を頂いておりました。リリアン様の心労が目に見えるので、できるだけ早くに一度登城するようにとのことです」

 婚約破棄の原因である少女に呼ばれていると聞くと、何とも不穏だが、元々聖女を見つけるためのおまじないとして婚約した身だ。偶然だったとしても、因果を感じてしまう。むしろ、リリアン様には申し訳なさすら感じている。

「もし、快く思っていないのでしたら、私からマリウス王太子に話をすることはできますが」

「王太子と?」

「これでも、マリウス王太子の側近としても働いていますから」

 酒場で会った時、なんとなく見たことがある気がしていたが、王太子の後ろにいたモブだったのか。

「いえ、リリアン様も心配ですから、私もできるだけ早くにお会いしに行きたいと考えていました」

「わかりました。日取りは調整します」

 了承を得られた。城関係の仕事もしているならば、調整は任せてしまえる。

「それと、全く別の話ですが。婚約中は一応婚約者として内部の仕事は手伝いますが、何かすることはありますか?」

 公爵領となればかなり広い。その管理の仕事となれば膨大だ。だが、一度も手伝いを命じられていない。婚約期間は生活費を負担する代わりにタダで労働力を得られる期間でもある。そして能力の査定機関だ。いくら婚約破棄するとはいえ、仕事がなくて、かなり暇だった。

「……リラ殿は、ただ楽しい事だけをして過ごしていただければそれでいいのですが」

「無能だとお考えでしたら、シーモア卿の手伝いで公爵家から出て仕事をしてくることをお許しください。何もしていないと本当に馬鹿になってしまいそうなので」

 シーモア卿には手紙で事の顛末を送っている。婚約者がいる身で、元婚約者と頻繁に手紙のやり取りをするのはよろしくない。シーモア卿からは、同情と、法的な相談は割引価格で引き受けるとあった。ちなみに今回の婚約について相談に行った際も、シーモア卿は公爵家へきっちり請求している。

 準男爵になってからは、手伝いをしていくらか給与をもらっていたのだが、実家への誘拐と婚約でいけなくなっている。仕事に来なくなることは想定内なので気にするなということと、金に困ったら雇ってやるとも書かれていた。

 シーモア卿はこれまでの婚約者の中で、一番お世話になっているし信頼している。

「……流石に、屋敷の外で働かれるは……特に、男性の下でというのは互いによくないでしょうから、何かこちらの仕事を手伝っていただくようにします」

「わかりました。それと、レオン様と私個人の婚約契約書を作成したいのですが」

 ちょうど侍女などもいないので話しておく。

「そうですね。その必要は感じていました」

「ざっと、こちらの要望を書いたものは用意しています。レオン様からのご希望もあるでしょうから、作成をお願いします。あ、その内容には、確実に愛人など他に恋人を作ることに関しては免責を求めないと書くことをお勧めします」

「は?」

「今は、理解できなくとも、許可を取っていたことをいずれ納得できますから」

 頭が痛いのか頭を抱えている。

「自分は、リラ殿に対して好意を持って婚約を申し込んでいるのです。無論家格の違いでリラ殿が苦労するだろうことはわかっています。それからも守っていくつもりです」

「はい。そういうことになっていますが、いずれわかります」

 全員婚約者がクズだったわけではない。何人かはクズとカスだったが、善良なものもいたのだ。

 ちゃんと婚約者として受け入れようとしてくれた人もいたが、真実の愛と貴族間の契約、それも男爵家との契約では勝ち目がない。

 相手が公爵家では男爵家の娘と準男爵の爵位、どちらも吹けば消えるような低い地位だ。

 むしろここまで気を使ってくれているのだから、かわいい女性と運命の出会いを経てかわいい子供たちに囲まれて暮らしてもらいたい。

「わかっていないのは、あなたです」

 ため息をつかれてしまった。

 そもそも、貴族向けにずっと猫を被っていたならばまだしも、彼には宿のレストランでなかなかの粗相をかましている。それでも助けてくれるとは、余程人がいいのだろう。そんなのでは公爵としてやっていけないのではと心配になる。


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