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第9章 孤立する北

151:第二波(3)

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「〇×$$□△ $$〇%□ ××△#@〇 □+ △▽△%〇!」
「□△%…」

 先発隊からの報告を聞いた西の族長は、悔しそうに唸り声を上げた。

 $$〇%□の川を渡る前に、人族に見つかってしまった。あの川は意外と流れが速く、渡るのに犠牲が伴うため、できれば見つかる前に渡河しておきたかったのだが、それは叶わなかったか。人族の手強さを知る西の族長は、敵前での渡河を躊躇する。

 止むを得まい。かなり遠回りだが、もう一つの場所から渡河しよう。この辺りの地形に詳しい西の族長はそう決断し、先発隊に対し、そのまま対岸の人族を挑発し続けるよう指示する。

 やがて西の族長が率いる本隊は北西へと進路を変え、再び森の中へと消えて行った。



 ***

 イザークが急使を走らせてから10日後。待望の救援が、ヨナの川に到着した。

「オズワルド、全軍連れてきたのか!?」

 イザークは、少数の供を連れたオズワルドに歩み寄ると、硬い握手を交わしながら驚きの声を上げる。

「ああ、フリッツ様の計らいだ。今は森の陰に伏せてある。相手が2,000となると、こちらも出し惜しみしていられないからな」

 そう答えると、オズワルドは川向うに居並ぶハヌマーンの群れを眺める。

「結局、襲ってこなかったのか」
「ああ、奴らにしては随分と慎重だが、今回は助かった。なし崩しに戦闘が始まってしまっていたら、第2だけでは抑えきれないからな」

 オズワルドは、ハヌマーンの群れからイザークへと視線を戻すと、笑みを浮かべて第2大隊を労わった。

「何にせよ、ご苦労だった。もうすぐ日が暮れる。今晩は我々に任せ、第2は後方に下がってゆっくりと休んでくれ。明日、決着をつけよう」
「わかった。オズワルド、助かる」

 こうして刻一刻と暗がりの増す中で、対岸のハヌマーンに悟られないよう第2大隊と救援軍の一部の入れ替わりが行われ、第2大隊が後方へと下がる。4人の大隊長はその夜一堂に会し、明日の決戦に向け、協議を重ねて行った。



 ***

 翌朝。

「〇□××%!? ×□\\〇□ △△@% □〇!」
「×〇#& □〇%&&!」

 ハヌマーンの先発隊の面々は、対岸を訝し気に眺める。

 対岸に陣取ったまま10日もの間動きのなかった人族達が、急に慌ただしく動き回っていた。よく見ると、何やら片づけをしているようだ。

「×〇〇□&& □△%$$!」

 何人かの仲間が人族に対し臆病者と囃し立てるが、人族は気にもせず片づけを続けている。やがて、片付けの終わった人族達は、四つ足の動物の背に乗ると、次々にハヌマーン達に背を向け立ち去って行った。

「□△▽ #@@□%%%…」

 残されたハヌマーン達は、対岸をつぶさに眺める。$$〇%□の川は西から東へと横切るように流れ、対岸はなだらかな草原が広がり、その奥には森が茂っていた。対岸の草原は、そのまま南西方向へと伸びており、人族達はその草原を通って森の中へと消え、今では影も形も見えない。

「▽○○×$%% &&□〇」
「×##+〇 &〇 □×$$?」
「〇△ **×□%%」

 ハヌマーン達は互いの顔を見合わせ、言葉を交わす。族長には対岸から人族を挑発しろと言われたが、その人族がいなくなってしまった。これは、渡っても良いんじゃないか?

 やがて先発隊の中から、勇気ある3人のハヌマーンが川へと飛び込み、対岸を目指した。川の流れが速い上に元々ハヌマーンは泳ぎが得意ではなく、そのうちの1人がやがて川の中へと沈んで浮かんでこなくなったが、残りの2人は何とか泳ぎ切り、対岸へと這い上がった。2人は荒い息をつきながら、その場で辺りを見渡し、何も異常がない事を認めると先発隊に向かって手招きをする。

「〇×□□ &&□!」
「%%〇 #$!」
「%%〇 #$!」

 ハヌマーン達は次々に川へと飛び込み、何人もの犠牲を払いながら、対岸を目指して泳ぎ始めた。



「汝に命ずる。炎を纏いし球となり、巴を成せ。我に従って三条の弧を描き、彼の者を打ち据えよ」
「汝に命ずる。風を纏いし見えざる刃となり、巴を成せ。我に従って三陣に空を凪ぎ、彼の者を切り刻め」
「汝に命ずる。礫を束ねて岩となり、巴を成せ。我に従って三条の弧を描き、彼の者を打ち据えよ」
「汝に命ずる。氷を纏いし礫となり、巴を成せ。我に従って三条の弧を描き、彼の者を打ち据えよ」
「×〇□□!? %#$$△▽!」

 対岸へと渡ったハヌマーン達の数が500を超えた頃、突然森の中から複数の人族の声が聞こえ、ハヌマーン達は慌てふためく。

 直後、無数の魔法がハヌマーン達へと襲いかかり、川岸で体を休めていた何人ものハヌマーンが魔法の直撃を受け、のた打ち回った。

「今だ!全軍突入せよ!」
「「「おおおおお!」」」

 茂みの中に潜んでいたオズワルドが立ち上がり、短槍を構えてハヌマーンへと突入する。それに続く様に、次々に森の中から騎士達が飛び出し、河原へと突入して行った。

「〇×□! %%$▽△& ××$〇〇!」
「ハヌマーンめ!思い知るがいい!」
「×□□〇 %%&!」

 川岸は瞬く間に飛び散る血と肉で赤く染まり、数も少なく疲労したハヌマーン達が次々と斃れる。森の中からは次々と狼煙が上がり、森の奥に消えたはずの人族達が、次々に戻ってくる。

「×□##△$%〇&& ×〇〇□@#%%!」
「〇×□□ &&□!」
「%%〇 #$!」
「%%〇 #$!」

 未だ川の中にいるハヌマーン達は、対岸で繰り広げられる惨劇を見て怒りを露わにし、対岸に辿り着くや否や息も整わないうちに武器を構え、人族へと襲いかかる。未だ渡河を開始していないハヌマーン達も頭に血が上り、我先に川へと飛び込んで行く。

 オズワルド達、第1から第4の面々は、代わる代わる川岸へと突入し、川から這い上がったばかりのハヌマーン達を次々に血祭りにあげていった。



 ***

「〇×□〇\\& □〇%…」

 前方の森に煙が上がり、血の臭いを嗅いだ西の族長は、苦々し気に唸り声を上げる。先発隊の奴らめ、先走ったな。

 だが、族長はすぐに考えを改めた。いや、見方を変えれば、人族を拘束した上に絶妙のタイミングで戦いを仕掛けたとも言える。このまま我々が戦闘に突入すれば、相手を挟み撃ちにできる。

 人族より遥かに文明が遅れているものの、狩りの延長で原始的な兵法が理解できた西の族長は、ほくそ笑んだ。今こそ人族を血の海に沈め、東の奴らがつけた汚点を、人族の血で磨いて差し上げよう。

「%&&〇〇! △〇〇## ×〇$$ △▽$$! サーリア〇$ △×%%〇 △▽$$!」
「%%〇 #$!」
「%%〇 #$!」

 族長の掛け声に男達は雄叫びを上げ、西の部族の一群は、草原の向こうに見える人族の群れへと向かって、一斉に駆け出した。



 ***

「隊長!後方、ヨナ川上流よりハヌマーンが接近!その数、約6,000!」
「何だと!?」

 激戦の渦中から一旦後退し、戦況を見守っていたオズワルドは、後方から飛び込んで来た凶報に、青ざめた。

 川べりの戦いは人族の圧倒的な優勢となり、ハヌマーン達が次々に斬り倒されていた。しかし未だハヌマーン達は、渡河中も含めると1,000近く健在で、しかも頭に血が上ったハヌマーン達は、死地を顧みる事なく、次々に川岸へと這い上がってくる。現在は主に第1第4が川岸に張り付いて激戦を繰り広げており、オズワルドは手駒が使えない。

「イザーク!」
「どうする、オズワルド!?」

 オズワルドは後ろを向き、第2大隊長の名を呼ぶ。そのイザークの顔色も、オズワルドと変わらぬほど青ざめている。

「イザーク!第2第3を連れて急速後退!退路を確保しろ!私も第1第4を取り纏め、すぐに引き返す!」
「わかった!急いでくれ!第2、反転するぞ!」

 オズワルドの指示を受けたイザークは、馬に飛び乗り、急速後退を開始した。



 イザークとウォルターが率いる第2第3の両大隊は、南西に伸びる草原を一目散に駆けていた。

 イザーク達が目指す先には、森に囲まれた草原が三叉路を形成しており、ハーデンブルグへと抜ける南東と、西方の二方向に、草原が続いていた。報告では、ハヌマーン6,000がその西方に伸びる草原を通って、こちらに向かって来ているという。

「くそっ!急げ!急げ!」

 イザークとウォルターは、焦燥を露わにして、馬に鞭を入れる。ハヌマーンに三叉路を抑えられたら、包囲が完成してしまう。仮に川岸の戦いに勝利しても、南から押し寄せる3倍近い敵と、袋小路で戦わなければならないのだ。一時的にでも三叉路を確保しないと、撤退する事さえできなくなる。

 やがて二人の目の先に、三叉路が見えて来た。三叉路にはサムエルが気を利かせたのだろうか、第4大隊の1個中隊が陣取って退路を確保していたが、草原を覆い尽くすほどのハヌマーンの群れを前に、勢いに呑まれたかの様に立ち竦んでいた。ハヌマーンの群れは、今まさにその中隊に襲いかからんと、押し寄せてくる。もうどんなに馬に鞭を入れても、イザーク達は間に合わない。

「駄目だ!そこの中隊、後退しろ!」



 そして、第2第3の騎士1,200は、その光景を目にする。



 突如、中隊の目の前に黒い靄が立ち昇り、たちまち数十本の長大な黒槍を形成する。槍は青炎と白煙を吹き上げ、その凶悪な尖端をハヌマーンへと向ける。

 そして、その黒槍を鎖で繋げるかのように数百もの石礫が浮き上がり、橙と黒の斑模様を描き、輝き始めた。

 馬を駆けながら呆然とする騎士の前で、局面は一気に静から動へと移った。一列に並んだ黒槍が突然騎士達の目から消え去り、後には無数の白い壁が出現する。白い壁は中隊へと押し寄せ、無数の騎馬が驚き、棹立ちになって暴れる馬も見える。

 そして、中隊目掛けて走る第2第3の騎士達に轟音と衝撃波が襲いかかった。

「うわぁ!」
「どうどう!」

 騎士達は慌てて馬を宥め、落馬を免れようと馬にしがみ付く。制御に失敗した騎士の中には仲間と衝突する者もおり、イザークとウォルターは麾下の収拾に奔走した。

「な、何が起こったんだ!?」

 何とか麾下の混乱を収めたイザークが顔を上げて前方を見渡し、そして絶句する。

 中隊に襲いかかろうとしていた、草原を覆い尽くすほどのハヌマーンの群れ。その前半部が薙ぎ倒され、赤一色に染まっていた。そして、後半部も無数の溝が走り、茶一色であるはずのハヌマーンの群れを、赤と茶色の縞模様に染め上げていた。

「〇×□※※! $$$%%%!」
「□○○△ ▽〇#$!」
「&&&&&&&&&&□□%&&&〇&!」

 多くのハヌマーンが薙ぎ倒され、すでに少数派と化している立ったままのハヌマーンも狼狽し、目の前の中隊に目もくれず、頭を掻きむしり、散り散りになって我先に逃げだそうとしている。

「…だ、第2第3!ハヌマーンへ突撃!突撃しろ!」
「「「…お、おおおおおおお!」」」

 呆然自失に陥りかけていたイザークとウォルターは、慌てて意識を切り替え、麾下に突撃を指示ずる。中隊の前に躍り出た第2第3は、次々に赤い絨毯へ飛び込み、混乱するハヌマーンに剣を振り下ろし、槍を突き刺していった。



「〇□%%!? □××〇&&&!?」
「□××△! △△〇%%!」
「あ…」

 イザークが気づいた時には、すでに辺りには立っているハヌマーンは一人もいなかった。森の中や草原の向こうから、狼狽したハヌマーンの叫び声だけが聞こえてくる。

「おい、イザーク。…俺達、勝ったのか?」

 荒れた息を整えながら近寄って来たウォルターが、イザークに問いかけた。それに対しイザークは唇を噛み、ただ首を横に振る。

「…俺にはわからんよ。わかるのは、彼女だけだろう」

 そう答えたイザークはウォルターに背を向け、後ろへと向き直る。

 そのイザークの視線は、1台の馬車と、1個中隊の騎士達が形成する物々しい円陣に阻まれ、求める少女の姿を窺い知る事は、できなかった。
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