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第8章 引き裂かれた翼
132:ドミニクの最期
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「…き、貴様ら!これは一体、どういうつもりだ!?」
自分達を包囲する兵士達が一斉に剣を抜いたのを見て、ドミニクと彼の兵達は狼狽した。3,000の兵に囲まれたドミニクの兵は反射的に剣を抜くものの、腰が引けている。自分達の30倍もの敵に、完全包囲されてしまったのだ。戦意を喪失するのも、やむを得ない。
絶対的優勢の立場が突如絶体絶命へと変化し、理解が追い付かないドミニクの兵達に、兵に護られたダニエルの声が降り注ぐ。
「ドミニクに従う兵士達よ、剣を捨てて投降せよ!此度の陰謀は、ドミニク・ミュレー一人が仕組んだ謀だ!君達は上官に忠実に従っただけで、罪はない!投降し、私の指揮下に戻れば罪を問わない事を、ダニエル・ラチエール並びにリヒャルト殿下の名において、約束しよう!」
「ダニエル!貴様ぁ!」
ダニエルの投降を促す言葉を聞いたドミニクは怒声を上げるが、彼の兵士達はドミニクに同調しなかった。兵士達は次々に剣を捨て、両手を上げ始める。その最初の投降者が包囲者達に穏やかに迎え入れられるのと見届けると、その動きは瞬く間に広がり、やがてドミニクの周囲からは誰もいなくなった。
「おい!貴様ら!私を見捨てるのか!?」
投降する兵士達を連れ戻そうとドミニクが手を伸ばすが、反対側から近づいた兵士達によってドミニクは組み伏せられ、地面に跪いてしまう。恐怖と怒りで顔を歪めるドミニクに、リヒャルトとダニエルが近づいて来た。
「リヒャルト、ダニエル、貴様らぁ…!」
組み伏せられたまま、歯を剥き出しにして顔を上げるドミニクに対し、リヒャルトは冷たい視線を投げかけ、言い放つ。
「ドミニク・ミュレー。我々が抑留されている間、サンタ・デ・ロマハ駐留軍司令の地位を悪用し、盟友であるはずのセント=ヌーヴェルに対して征服者として振る舞い、新王に無理難題を吹っ掛けて私利私欲を満たしていた事が判明している。ましてや、それが露見するや否や我々に罪を被せ、逃れようとするその所業、断じて赦すわけにはいかん。私は西誅軍総司令として、貴様を断罪し、斬首に処す。ダニエル、刑の執行を頼む」
「畏まりました、殿下」
リヒャルトの宣言を聞いたダニエルは、リヒャルトに一礼し、剣を抜いてドミニクの首へと添える。
「何か言い残す事はあるか?ドミニク」
「貴様らぁ!この様な卑怯な真似をして、赦されると思っているのか!?地獄に落ちろ!ダニエルゥゥゥ!」
ドミニクの呪詛の言葉を聞いたダニエルは無表情のまま剣を振り下ろし、ドミニクの首が声とともに宙を舞った。
ダニエルが投降兵を取りまとめ、兵士達がドミニクの首を塩漬けにする作業を進める中、一人の男がリヒャルトの前に進み出て、膝をついた。
「殿下、無事にお戻りになられました事、このバルトルト・フォン・キルヒナー、心よりお慶び申し上げます。サンタ・デ・ロマハに駐留する兵37,000のうち、大草原からの帰還者19,000、並びにサンタ・デ・ロマハに残置したエーデルシュタイン軍10,000を、掌握しております。なお、ドミニク・ミュレーを油断させるためとは言え、殿下を貶める発言を繰り返しました事、この場を借りてお詫び申し上げます」
バルトルトから報告を受けたリヒャルトは、目に柔和な光を湛え、自ら腰を屈めてバルトルトを立ち上がらせる。
「バルトルト、難しい任務を良く全うしてくれた。お前のお陰で、私に起死回生の機会が訪れた。悪口の件も赦す。これからも苦難が続くであろうが、私の右腕となって、私を助けてくれ」
「勿体ないお言葉。このバルトルト、殿下の供であれば、地獄でも喜んで従いましょう」
リヒャルトの労いを受けたバルトルトは、感激のあまり、目に涙を浮かべながら笑みを浮かべていた。
バルトルト・フォン・キルヒナーは、王太子リヒャルトの「ご学友」であった。バルトルトは幼少の時よりリヒャルトとともに学び、鍛錬に励み、リヒャルトとの間に友誼と忠義を培っていた。
学業を終えたバルトルトは騎士になると同時にヴェルツブルグを離れ、主に地方中枢の守備隊の指揮官を歴任する。そのため、リヒャルトと会うのは年に数えるほどだったが、リヒャルトに対し頻繁に手紙を送り、任務地の報告と自身の忠誠を表していた。そのためバルトルトは、クリストフからリヒャルト一派と目されていた。
だからこそリヒャルトは大草原で降伏した後、自身の運命をバルトルトに託したのである。リヒャルトとバルトルトはこれまで一度も任務を共にした事はなく、北伐から西誅に至る軍事行動が初めてであった。しかしリヒャルトにとっては、今回の様な自分の制御が利かない事態を託すには、バルトルトをおいて他にいなかった。
そしてバルトルトは、リヒャルトの期待に見事に応える。リヒャルトから西誅軍の残兵19,000を託されたバルトルトは、サンタ・デ・ロマハに戻るとドミニクに取り入り、リヒャルトの悪口を並べ、ドミニクを油断させる。そして、ドミニクに本国へ帰還する事の危険性を並べて召還を拒否するように誘導し、兵をサンタ・デ・ロマハに留まらせた。さらにドミニクにセント=ヌーヴェル新王を強請るように唆し、撒き上げた金銭で兵を懐柔する。そうして自分の指揮下にある19,000名の兵を掌握したまま、密かにドミニク指揮下の兵18,000のうち、エーデルシュタイン軍10,000の取り込みを進めたのである。その間ドミニクは、バルトルトの進言に乗り、エーデルシュタイン及びカラディナ本国からの召還命令に対する防波堤と、セント=ヌーヴェル新王の強請に終始する。
ロザリアの第5月、リヒャルトから待望の情報を受け取ったバルトルトは、行動に移す。リヒャルトの解放がロザリアの第6月1日である事を知ったバルトルトは、第5月の下旬に偽の任務を作り、500名程の兵を率いてサンタ・デ・ロマハを出立する。そして第6月1日、指定された場所でコネロのエルフ300名に護衛されたリヒャルト一行と再会したのである。
コネロのエルフ達と別れたリヒャルト達とバルトルトは、第6月15日の「解放日」に向け、最終協議を行う。ドミニク一派を速やかに取り除いて全軍を掌握するために、ドミニクを釣り出し、その場で斬る事で一致した。解放日当日はリヒャルト自身が餌となってドミニクを誘き出し、バルトルト率いる兵が、ドミニクを逃がさない網を張る。
そして「解放日」当日、リヒャルト達の策は思い描いた通りに働き、ドミニク・ミュレーは捕らえられ、大草原の露と消えた。
5日後、3,000の兵を率いてサンタ・デ・ロマハへと到着したリヒャルト達は、駐留軍の完全掌握に取り掛かった。
「カラディナの兵士達よ!サンタ・デ・ロマハ駐留軍司令ドミニク・ミュレーは、地位を悪用し、盟友であるセント=ヌーヴェルに対して征服者として振る舞い、新王を強請って私利私欲を満たした!そしてそれが露見するや否や、リヒャルト殿下を陥れ、罪を被せようと画策したのだ!よって私、ダニエル・ラチエールは、カラディナ軍司令として彼が重大な軍規違反を犯した事を咎め、軍規に則り斬首の刑とした!」
ダニエルは目の前に居並ぶカラディナの兵士に対し、壇上で声を張り上げ、ドミニクの罪を並び上げる。突然の事に、兵士達は不安そうな面持ちでお互いの顔を見合わせる。そんな兵士達の耳に、ダニエルの演説が続く。
「諸君!この件は、全てドミニク・ミュレーの一存で行われた企みであり、君達に罪はない。この件について君達に対し、一切の罪を問わない事を、このダニエル・ラチエール並びにリヒャルト殿下の名において、約束しよう!君達は、ロザリア様の威光を受け、悪辣なガリエルの企みを挫き、罠にかかったセント=ヌーヴェルとエルフを救い出した、英雄である!我々はこれから、西誅軍の盟主であるリヒャルト殿下をエーデルシュタインに送り届けた後、故国カラディナへと凱旋する!諸君!君達は英雄である!君達が、中原に平和を齎したのだ!胸を張って、盟友エーデルシュタインとともに、故国カラディナへと戻ろうではないか!」
「「「おおおおおおおっ!」」」
「「「万歳!カラディナ共和国、万歳!エーデルシュタイン王国、万歳!」」」
ダニエルの演説が終わるとともに、ダニエルの後ろに控える3,000の兵士達が諸手を上げ、万歳を唱和する。その熱気に中てられ、カラディナの駐留軍達にも次第に万歳の唱和が広がっていく。
「「「万歳!万歳!万歳!」」」
こうしてダニエルがカラディナ軍の掌握を進める間、リヒャルト達はセント=ヌーヴェル新王に参内していた。
「新王よ、私が不在の間、留守を預かるドミニク・ミュレーが貴国を蔑ろにして暴虐を働いた事を、お詫び申し上げる。そのドミニクは、すでにカラディナ軍規により誅され、断頭台の露と消えた。新王には、このドミニクの首をお納めいただきたい。私が戻ったからには軍規を正し、今後貴国に暴虐な振る舞いをしない事を、約束しよう。新王よ、エーデルシュタインとカラディナは、あなたの信頼に足る盟友だ。安心してくれたまえ」
「あ、ああ。ありがとう、リヒャルト殿」
新王がギュンターから差し出された、ドミニクの首の入った壺をおっかなびっくり受け取ると、リヒャルトは愛想よく笑顔を浮かべ、新王に手を差し伸べる。ドミニクは兵の引き留めと懐柔をするために新王から大量の金銭をせしめたわけだが、その支払いがドミニクの首一つで済むのだから、愛想が良くなるのも当然である。そしてドミニクは、カラディナ軍規に則って上官であるダニエルによって誅されている。見事に筋が通っており、何処にも非難する要素がない。
こうしてリヒャルトは、ロザリアの第6月の末、ギュンター、バルトルト、ダニエルの協力の下、西誅軍37,000の掌握に成功する。リヒャルトはその中からカラディナの兵士3,000を割いて引き続きサンタ・デ・ロマハの治安維持を指示すると、抑留生活を共にしたカラディナの幕僚を指揮官に任命した。後背を固めたリヒャルトはガリエルの第1月初頭、残りの34,000を率いて、サンタ・デ・ロマハを進発する。
この時すでに本国において王太子の座を剥奪されていたリヒャルトの、起死回生を託した戦いが始まろうとしていた。
自分達を包囲する兵士達が一斉に剣を抜いたのを見て、ドミニクと彼の兵達は狼狽した。3,000の兵に囲まれたドミニクの兵は反射的に剣を抜くものの、腰が引けている。自分達の30倍もの敵に、完全包囲されてしまったのだ。戦意を喪失するのも、やむを得ない。
絶対的優勢の立場が突如絶体絶命へと変化し、理解が追い付かないドミニクの兵達に、兵に護られたダニエルの声が降り注ぐ。
「ドミニクに従う兵士達よ、剣を捨てて投降せよ!此度の陰謀は、ドミニク・ミュレー一人が仕組んだ謀だ!君達は上官に忠実に従っただけで、罪はない!投降し、私の指揮下に戻れば罪を問わない事を、ダニエル・ラチエール並びにリヒャルト殿下の名において、約束しよう!」
「ダニエル!貴様ぁ!」
ダニエルの投降を促す言葉を聞いたドミニクは怒声を上げるが、彼の兵士達はドミニクに同調しなかった。兵士達は次々に剣を捨て、両手を上げ始める。その最初の投降者が包囲者達に穏やかに迎え入れられるのと見届けると、その動きは瞬く間に広がり、やがてドミニクの周囲からは誰もいなくなった。
「おい!貴様ら!私を見捨てるのか!?」
投降する兵士達を連れ戻そうとドミニクが手を伸ばすが、反対側から近づいた兵士達によってドミニクは組み伏せられ、地面に跪いてしまう。恐怖と怒りで顔を歪めるドミニクに、リヒャルトとダニエルが近づいて来た。
「リヒャルト、ダニエル、貴様らぁ…!」
組み伏せられたまま、歯を剥き出しにして顔を上げるドミニクに対し、リヒャルトは冷たい視線を投げかけ、言い放つ。
「ドミニク・ミュレー。我々が抑留されている間、サンタ・デ・ロマハ駐留軍司令の地位を悪用し、盟友であるはずのセント=ヌーヴェルに対して征服者として振る舞い、新王に無理難題を吹っ掛けて私利私欲を満たしていた事が判明している。ましてや、それが露見するや否や我々に罪を被せ、逃れようとするその所業、断じて赦すわけにはいかん。私は西誅軍総司令として、貴様を断罪し、斬首に処す。ダニエル、刑の執行を頼む」
「畏まりました、殿下」
リヒャルトの宣言を聞いたダニエルは、リヒャルトに一礼し、剣を抜いてドミニクの首へと添える。
「何か言い残す事はあるか?ドミニク」
「貴様らぁ!この様な卑怯な真似をして、赦されると思っているのか!?地獄に落ちろ!ダニエルゥゥゥ!」
ドミニクの呪詛の言葉を聞いたダニエルは無表情のまま剣を振り下ろし、ドミニクの首が声とともに宙を舞った。
ダニエルが投降兵を取りまとめ、兵士達がドミニクの首を塩漬けにする作業を進める中、一人の男がリヒャルトの前に進み出て、膝をついた。
「殿下、無事にお戻りになられました事、このバルトルト・フォン・キルヒナー、心よりお慶び申し上げます。サンタ・デ・ロマハに駐留する兵37,000のうち、大草原からの帰還者19,000、並びにサンタ・デ・ロマハに残置したエーデルシュタイン軍10,000を、掌握しております。なお、ドミニク・ミュレーを油断させるためとは言え、殿下を貶める発言を繰り返しました事、この場を借りてお詫び申し上げます」
バルトルトから報告を受けたリヒャルトは、目に柔和な光を湛え、自ら腰を屈めてバルトルトを立ち上がらせる。
「バルトルト、難しい任務を良く全うしてくれた。お前のお陰で、私に起死回生の機会が訪れた。悪口の件も赦す。これからも苦難が続くであろうが、私の右腕となって、私を助けてくれ」
「勿体ないお言葉。このバルトルト、殿下の供であれば、地獄でも喜んで従いましょう」
リヒャルトの労いを受けたバルトルトは、感激のあまり、目に涙を浮かべながら笑みを浮かべていた。
バルトルト・フォン・キルヒナーは、王太子リヒャルトの「ご学友」であった。バルトルトは幼少の時よりリヒャルトとともに学び、鍛錬に励み、リヒャルトとの間に友誼と忠義を培っていた。
学業を終えたバルトルトは騎士になると同時にヴェルツブルグを離れ、主に地方中枢の守備隊の指揮官を歴任する。そのため、リヒャルトと会うのは年に数えるほどだったが、リヒャルトに対し頻繁に手紙を送り、任務地の報告と自身の忠誠を表していた。そのためバルトルトは、クリストフからリヒャルト一派と目されていた。
だからこそリヒャルトは大草原で降伏した後、自身の運命をバルトルトに託したのである。リヒャルトとバルトルトはこれまで一度も任務を共にした事はなく、北伐から西誅に至る軍事行動が初めてであった。しかしリヒャルトにとっては、今回の様な自分の制御が利かない事態を託すには、バルトルトをおいて他にいなかった。
そしてバルトルトは、リヒャルトの期待に見事に応える。リヒャルトから西誅軍の残兵19,000を託されたバルトルトは、サンタ・デ・ロマハに戻るとドミニクに取り入り、リヒャルトの悪口を並べ、ドミニクを油断させる。そして、ドミニクに本国へ帰還する事の危険性を並べて召還を拒否するように誘導し、兵をサンタ・デ・ロマハに留まらせた。さらにドミニクにセント=ヌーヴェル新王を強請るように唆し、撒き上げた金銭で兵を懐柔する。そうして自分の指揮下にある19,000名の兵を掌握したまま、密かにドミニク指揮下の兵18,000のうち、エーデルシュタイン軍10,000の取り込みを進めたのである。その間ドミニクは、バルトルトの進言に乗り、エーデルシュタイン及びカラディナ本国からの召還命令に対する防波堤と、セント=ヌーヴェル新王の強請に終始する。
ロザリアの第5月、リヒャルトから待望の情報を受け取ったバルトルトは、行動に移す。リヒャルトの解放がロザリアの第6月1日である事を知ったバルトルトは、第5月の下旬に偽の任務を作り、500名程の兵を率いてサンタ・デ・ロマハを出立する。そして第6月1日、指定された場所でコネロのエルフ300名に護衛されたリヒャルト一行と再会したのである。
コネロのエルフ達と別れたリヒャルト達とバルトルトは、第6月15日の「解放日」に向け、最終協議を行う。ドミニク一派を速やかに取り除いて全軍を掌握するために、ドミニクを釣り出し、その場で斬る事で一致した。解放日当日はリヒャルト自身が餌となってドミニクを誘き出し、バルトルト率いる兵が、ドミニクを逃がさない網を張る。
そして「解放日」当日、リヒャルト達の策は思い描いた通りに働き、ドミニク・ミュレーは捕らえられ、大草原の露と消えた。
5日後、3,000の兵を率いてサンタ・デ・ロマハへと到着したリヒャルト達は、駐留軍の完全掌握に取り掛かった。
「カラディナの兵士達よ!サンタ・デ・ロマハ駐留軍司令ドミニク・ミュレーは、地位を悪用し、盟友であるセント=ヌーヴェルに対して征服者として振る舞い、新王を強請って私利私欲を満たした!そしてそれが露見するや否や、リヒャルト殿下を陥れ、罪を被せようと画策したのだ!よって私、ダニエル・ラチエールは、カラディナ軍司令として彼が重大な軍規違反を犯した事を咎め、軍規に則り斬首の刑とした!」
ダニエルは目の前に居並ぶカラディナの兵士に対し、壇上で声を張り上げ、ドミニクの罪を並び上げる。突然の事に、兵士達は不安そうな面持ちでお互いの顔を見合わせる。そんな兵士達の耳に、ダニエルの演説が続く。
「諸君!この件は、全てドミニク・ミュレーの一存で行われた企みであり、君達に罪はない。この件について君達に対し、一切の罪を問わない事を、このダニエル・ラチエール並びにリヒャルト殿下の名において、約束しよう!君達は、ロザリア様の威光を受け、悪辣なガリエルの企みを挫き、罠にかかったセント=ヌーヴェルとエルフを救い出した、英雄である!我々はこれから、西誅軍の盟主であるリヒャルト殿下をエーデルシュタインに送り届けた後、故国カラディナへと凱旋する!諸君!君達は英雄である!君達が、中原に平和を齎したのだ!胸を張って、盟友エーデルシュタインとともに、故国カラディナへと戻ろうではないか!」
「「「おおおおおおおっ!」」」
「「「万歳!カラディナ共和国、万歳!エーデルシュタイン王国、万歳!」」」
ダニエルの演説が終わるとともに、ダニエルの後ろに控える3,000の兵士達が諸手を上げ、万歳を唱和する。その熱気に中てられ、カラディナの駐留軍達にも次第に万歳の唱和が広がっていく。
「「「万歳!万歳!万歳!」」」
こうしてダニエルがカラディナ軍の掌握を進める間、リヒャルト達はセント=ヌーヴェル新王に参内していた。
「新王よ、私が不在の間、留守を預かるドミニク・ミュレーが貴国を蔑ろにして暴虐を働いた事を、お詫び申し上げる。そのドミニクは、すでにカラディナ軍規により誅され、断頭台の露と消えた。新王には、このドミニクの首をお納めいただきたい。私が戻ったからには軍規を正し、今後貴国に暴虐な振る舞いをしない事を、約束しよう。新王よ、エーデルシュタインとカラディナは、あなたの信頼に足る盟友だ。安心してくれたまえ」
「あ、ああ。ありがとう、リヒャルト殿」
新王がギュンターから差し出された、ドミニクの首の入った壺をおっかなびっくり受け取ると、リヒャルトは愛想よく笑顔を浮かべ、新王に手を差し伸べる。ドミニクは兵の引き留めと懐柔をするために新王から大量の金銭をせしめたわけだが、その支払いがドミニクの首一つで済むのだから、愛想が良くなるのも当然である。そしてドミニクは、カラディナ軍規に則って上官であるダニエルによって誅されている。見事に筋が通っており、何処にも非難する要素がない。
こうしてリヒャルトは、ロザリアの第6月の末、ギュンター、バルトルト、ダニエルの協力の下、西誅軍37,000の掌握に成功する。リヒャルトはその中からカラディナの兵士3,000を割いて引き続きサンタ・デ・ロマハの治安維持を指示すると、抑留生活を共にしたカラディナの幕僚を指揮官に任命した。後背を固めたリヒャルトはガリエルの第1月初頭、残りの34,000を率いて、サンタ・デ・ロマハを進発する。
この時すでに本国において王太子の座を剥奪されていたリヒャルトの、起死回生を託した戦いが始まろうとしていた。
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