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第2章 ハンター
17:ギルドマスターの依頼
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柊也がハンターになってから、3ヶ月が経過した。
***
コルカ山脈の麓、一面に草原が広がる原野を、3人の男女がラ・セリエへと向かっていた。3人は、2日に渡るクエストでかなり疲労していたものの、その足取りはしっかりしたもので、表情も明るく達成感に溢れていた。
「何とか森を抜けられたな。ここまで来れば一安心だ。トウヤ、今回はかなり助かったよ。ありがとう」
先頭を歩く、ハードレザーアーマーとバックラーで身を包んだ男が、振り返って隻腕の男に声をかけた。
「気にするな。パーティを組んでいる以上、当然の事だ。大した事もしてないしな」
「そんな事ないですよ、トウヤさん。あたしとアインだけだったら、あのヘルハウンドは倒せなかったですもん。アインが無事に帰ってこれたのは、トウヤさんのお陰です」
男と並んで歩いていた若い女が歩みを止め、柊也と並ぶと歩きながら礼を言ってきた。
「そうか。それよりアイン。腕の方は大丈夫か?本当に治癒魔法をかけなくて、平気か?」
「ああ、大丈夫だ。この通りバックラーは焼け焦げてしまったが、ミリーの言う通り、問題ない。火傷は確かに負っているが、正直火傷の痛みより銀貨5枚の方が、俺には辛いんだ」
アインと呼ばれた男は、柊也に対し、おちゃらけた雰囲気で軽口を叩いた。
「もう、アインたら。体が全てなんだから、無理しないでよ。あたしだって、流石に貯金よりあんたの体の方を優先するわ」
「わりぃわりぃ、ミリー。でも本当に大丈夫だから、安心してくれ」
「もう…」
ミリーに詰め寄られて両手を上げるアインを見て、柊也は思わず笑みを浮かべる。アインとミリーが、ロザリアの祝福を受けるために貯金をしている事は、周知の事実であった。
「しかし、結果だけ見れば、大きなボーナスになったな。ヘルハウンドって、今いくらだっけ?」
「確か、1頭で銀貨3枚だったと思う。後付けクエストになるから、少し差っ引かれると思うけど」
「それでも、元のクエストとほぼ同額か。万々歳だな」
「だからと言って、また遭遇したいとは思わないけどね。せめてちゃんと人数を揃えないと」
アインとミリーの会話が続く。元々、柊也がこの2人から誘われたのは、フォレストウルフの討伐クエストだった。柊也がこの2人と臨時パーティを組むのは、これが初めてではなく、ここ2ヶ月で7回を数える。クエスト報酬は、10頭で銀貨3枚。一人頭ではなく、1パーティで。これに、倒したウルフから剥いだ毛皮を売った代金が、今回の収益の予定だった。
しかし、ここにヘルハウンドという、思わぬ横槍が入った。ヘルハウンドは、火球のブレスを吐く、人と同じくらいの大きさの狼の魔物で、討伐にはC級ハンター相当の力量が必要と言われていた。柊也、アイン、ミリー達D級ハンターでも人数が揃っていれば倒せなくもないが、今回はいわば奇襲を受けた形となった。
幸い、いち早く気づいた柊也がストーンウォールを唱え、初撃の火球を防いで事なきを得たため、その後はアインがブレスをバックラーで受けた他は大きな損害を受ける事もなく、討伐に成功していた。
蛇足だが、柊也は、臨時パーティを組む時の報酬は人数割で了承しているが、「ロザリアの気まぐれ」の発動は取り返しのつかない場合に限り、しかも銀貨5枚の別料金と、公言している。先ほどのアインの軽口は、ここから来ていた。
「あんなところまで、ヘルハウンドが下りてきているとは思わないものな。ギルドマスターは把握しているのかな?」
「戻ったら、ギルドに報告しないとね」
2人の会話はそれで締めくくられ、3人はラ・セリエへの帰路を急いだ。
***
「はい、フォレストウルフ10頭、確かに。ヘルハウンドも確認いたしました」
ラ・セリエに到着した3人は、そのままハンターギルドに赴き、クエスト完了報告を行う。アインから各々の討伐証明部位を受け取った受付嬢は、しばらく奥に引っ込んだ後、アインに報告内容に相違がない事を告げた。
「それでは、こちらがクエスト報酬となります。フォレストウルフが銀貨3枚。ヘルハウンドは後付けとなりますので、銀貨2枚と大銅貨5枚となります。毛皮の査定は、もうしばらくお待ち下さい」
「ありがとう。ヘルハウンドは一人頭大銅貨8枚と…、1枚余るな。どうするか」
「アイン、ヘルハウンドの分は、俺は大銅貨5枚でいい。残りはミリーと二人で分けてくれ。火傷の見舞金だと思ってくれれば構わない」
「お、本当か?それは助かる。恩に着るぜ、トウヤ」
「トウヤさん、ありがとうございます。もしフォレストウルフの毛皮で余りが出たら、トウヤさんに差し上げますね」
「わかった」
報酬を受け取ったアインは、ミリーに手渡しつつ、受付嬢へと振り向き、話題を変える。
「そう言えば、あのヘルハウンド、七つ岩の所まで下りてきていたぞ。ギルドで把握していたか?」
「え?そんな麓までですか?私は初耳です」
「そうか。後でギルドマスターに報告しておいてくれ」
「畏まりました」
会話が終わった3人は、査定を待つため、フロアの隅にあるテーブルに向かおうとする。すると、背後から再び声がかかった。
「あ、トウヤさん。トウヤさんにギルドマスターからお話があるそうです。後ほどお呼びしますので、査定後もお待ちいただけますか?」
「ギルドマスターが、俺に?」
「ええ」
「何かやったか?おまえ」
「いや、心当たりはないな…」
アインから問いかけられ、柊也は顎に手を当て考え込むも、思い当たる節はない。D級ハンターがギルドマスターに呼び出される事は、そう多くはない。内心で不安を覚える柊也に対し、受付嬢から声がかかった。
「お待たせしました。毛皮の査定が完了しましたので、カウンターまでお越し下さい」
***
毛皮の査定が完了し報酬の分配が終わった後、アイン達と別れた柊也は、15分ほどギルドフロアで待たされていたが、ギルドマスターのローランから呼び出しを受け、執務室へと入室した。応接のソファに座り、ローランと向かい合う。
「待たせてしまって、すまないな。最近の調子はどうだい?」
「おかげさまで順調です。今日も先ほど、アイン達とクエストを完了させて戻ってきたところです」
「そうか。おまえは最近、アインやミリーとよく行動しているようだが、正式にはパーティを組まないのか?」
「まだ当分は、一人で行動するつもりです。アインからも特に誘われていないですしね」
「そりゃそうだな。もしあそこに入ったら、アインが焼きもちを妬くからな」
ローランはそう言うと、豪快な笑い声をあげる。返答に詰まった柊也も、釣られて愛想笑いをした。まあ、気持ちはわかる。ミリーは器量が良い娘だ。アインも他の男がいつも近くにいたら、気になって仕方ないのだろう。もっともミリーがあれだけアインに想いを寄せているのだから、もう少し余裕を持っても良いのに。そう柊也は毒づいた。
「さて、本題に入ろう。実はトウヤ、おまえに指名依頼をしたい」
「え、私にですか?まだD級ですよ?」
「ああ、それも踏まえての事だ。最近、ヘルハウンドが活動的になっているのは知っているか?」
「ええ、実は今回のクエストの途中、七つ岩で鉢合わせしています」
「何っ?そんな所にまで下りてきているのか?それはマズいな。警告を出しておこう」
「お願いします」
報告を受けたローランは、渋面を作るとギルド職員を呼び、いくつか指示を出す。職員が退室した後、改めて柊也の方を向いた。
「話を戻そう。このヘルハウンドの活動だが、どうも奥地により強力な魔物が出現して、それに押し出されているのではないかとの結論に至った。そのため、この強力な魔物の捜索と、可能であれば討伐の隊を、向かわせる事になったのだ」
「クエスト報酬は金貨10枚。これにはヘルハウンド20頭までの討伐料が含まれる。これ以上のヘルハウンド、及び本命の魔物は、追加報酬だ。人数は、本隊だけで10人程度だろう。日数は1週間はかかると見ている」
「ただ、ここで問題が起きてな。支援隊の数が揃わないのだ。それで、おまえに白羽の矢が立ったというわけだ」
「そういう事でしたか…」
ローランの説明を聞き、柊也は納得した。
この世界には、空間魔法は存在しない。またアイテムボックスの類も存在しない。つまり、長期に渡って行動する場合には、水や食料の運搬という問題が発生する。そのため、こういった長期遠征の場合は、クエストを遂行する本隊とは別に支援隊を組むのが、通例であった。
実は、この支援隊に最も重宝されるのは、屈強な力持ちではなく、地と水の魔術師であった。地の魔法の一つに「ライトウェイト」という魔法があり、この魔法を持続させる事で対象物の軽量化を図る事ができた。一方、水魔法については、言うまでもない。「クリエイトウォーター」で飲料水を生み出すことで、水の運搬が不要になる。そのためこの世界では、魔術師が大きな荷物を運ぶのが、至って普通の光景であった。柊也がメイン魔法を決める際、どちらかと言うと攻撃力に劣る地と水を選んだのは、このポーター(運搬人)としての付加価値を付け、後方に身を置きやすくするためでもあった。柊也がこれまで様々なハンター達と臨時パーティを組んできたのも、このポーターとしての能力を評価されての事である。
「おまえは地も水も使える上に、一発限りとは言え治癒もできるからな。隙間を埋めるには、ピッタリなんだ。おまえがD級だって事は、他の者にはしっかりと言い含めておく。だから、戦闘に出る必要はない。また、治癒を使った時は別料金で払うから、その時は申告してくれ」
「わかりました。出発はいつになりますか?」
「3日後だ。悪いがそれまでの間は、他のクエストを受けないでくれ。これは、待機料だ」
そう言ってローランから銀貨1枚を受け取った柊也は、席を立つ。
「それでは3日後の朝、ここで」
「よろしく頼むぞ」
***
コルカ山脈の麓、一面に草原が広がる原野を、3人の男女がラ・セリエへと向かっていた。3人は、2日に渡るクエストでかなり疲労していたものの、その足取りはしっかりしたもので、表情も明るく達成感に溢れていた。
「何とか森を抜けられたな。ここまで来れば一安心だ。トウヤ、今回はかなり助かったよ。ありがとう」
先頭を歩く、ハードレザーアーマーとバックラーで身を包んだ男が、振り返って隻腕の男に声をかけた。
「気にするな。パーティを組んでいる以上、当然の事だ。大した事もしてないしな」
「そんな事ないですよ、トウヤさん。あたしとアインだけだったら、あのヘルハウンドは倒せなかったですもん。アインが無事に帰ってこれたのは、トウヤさんのお陰です」
男と並んで歩いていた若い女が歩みを止め、柊也と並ぶと歩きながら礼を言ってきた。
「そうか。それよりアイン。腕の方は大丈夫か?本当に治癒魔法をかけなくて、平気か?」
「ああ、大丈夫だ。この通りバックラーは焼け焦げてしまったが、ミリーの言う通り、問題ない。火傷は確かに負っているが、正直火傷の痛みより銀貨5枚の方が、俺には辛いんだ」
アインと呼ばれた男は、柊也に対し、おちゃらけた雰囲気で軽口を叩いた。
「もう、アインたら。体が全てなんだから、無理しないでよ。あたしだって、流石に貯金よりあんたの体の方を優先するわ」
「わりぃわりぃ、ミリー。でも本当に大丈夫だから、安心してくれ」
「もう…」
ミリーに詰め寄られて両手を上げるアインを見て、柊也は思わず笑みを浮かべる。アインとミリーが、ロザリアの祝福を受けるために貯金をしている事は、周知の事実であった。
「しかし、結果だけ見れば、大きなボーナスになったな。ヘルハウンドって、今いくらだっけ?」
「確か、1頭で銀貨3枚だったと思う。後付けクエストになるから、少し差っ引かれると思うけど」
「それでも、元のクエストとほぼ同額か。万々歳だな」
「だからと言って、また遭遇したいとは思わないけどね。せめてちゃんと人数を揃えないと」
アインとミリーの会話が続く。元々、柊也がこの2人から誘われたのは、フォレストウルフの討伐クエストだった。柊也がこの2人と臨時パーティを組むのは、これが初めてではなく、ここ2ヶ月で7回を数える。クエスト報酬は、10頭で銀貨3枚。一人頭ではなく、1パーティで。これに、倒したウルフから剥いだ毛皮を売った代金が、今回の収益の予定だった。
しかし、ここにヘルハウンドという、思わぬ横槍が入った。ヘルハウンドは、火球のブレスを吐く、人と同じくらいの大きさの狼の魔物で、討伐にはC級ハンター相当の力量が必要と言われていた。柊也、アイン、ミリー達D級ハンターでも人数が揃っていれば倒せなくもないが、今回はいわば奇襲を受けた形となった。
幸い、いち早く気づいた柊也がストーンウォールを唱え、初撃の火球を防いで事なきを得たため、その後はアインがブレスをバックラーで受けた他は大きな損害を受ける事もなく、討伐に成功していた。
蛇足だが、柊也は、臨時パーティを組む時の報酬は人数割で了承しているが、「ロザリアの気まぐれ」の発動は取り返しのつかない場合に限り、しかも銀貨5枚の別料金と、公言している。先ほどのアインの軽口は、ここから来ていた。
「あんなところまで、ヘルハウンドが下りてきているとは思わないものな。ギルドマスターは把握しているのかな?」
「戻ったら、ギルドに報告しないとね」
2人の会話はそれで締めくくられ、3人はラ・セリエへの帰路を急いだ。
***
「はい、フォレストウルフ10頭、確かに。ヘルハウンドも確認いたしました」
ラ・セリエに到着した3人は、そのままハンターギルドに赴き、クエスト完了報告を行う。アインから各々の討伐証明部位を受け取った受付嬢は、しばらく奥に引っ込んだ後、アインに報告内容に相違がない事を告げた。
「それでは、こちらがクエスト報酬となります。フォレストウルフが銀貨3枚。ヘルハウンドは後付けとなりますので、銀貨2枚と大銅貨5枚となります。毛皮の査定は、もうしばらくお待ち下さい」
「ありがとう。ヘルハウンドは一人頭大銅貨8枚と…、1枚余るな。どうするか」
「アイン、ヘルハウンドの分は、俺は大銅貨5枚でいい。残りはミリーと二人で分けてくれ。火傷の見舞金だと思ってくれれば構わない」
「お、本当か?それは助かる。恩に着るぜ、トウヤ」
「トウヤさん、ありがとうございます。もしフォレストウルフの毛皮で余りが出たら、トウヤさんに差し上げますね」
「わかった」
報酬を受け取ったアインは、ミリーに手渡しつつ、受付嬢へと振り向き、話題を変える。
「そう言えば、あのヘルハウンド、七つ岩の所まで下りてきていたぞ。ギルドで把握していたか?」
「え?そんな麓までですか?私は初耳です」
「そうか。後でギルドマスターに報告しておいてくれ」
「畏まりました」
会話が終わった3人は、査定を待つため、フロアの隅にあるテーブルに向かおうとする。すると、背後から再び声がかかった。
「あ、トウヤさん。トウヤさんにギルドマスターからお話があるそうです。後ほどお呼びしますので、査定後もお待ちいただけますか?」
「ギルドマスターが、俺に?」
「ええ」
「何かやったか?おまえ」
「いや、心当たりはないな…」
アインから問いかけられ、柊也は顎に手を当て考え込むも、思い当たる節はない。D級ハンターがギルドマスターに呼び出される事は、そう多くはない。内心で不安を覚える柊也に対し、受付嬢から声がかかった。
「お待たせしました。毛皮の査定が完了しましたので、カウンターまでお越し下さい」
***
毛皮の査定が完了し報酬の分配が終わった後、アイン達と別れた柊也は、15分ほどギルドフロアで待たされていたが、ギルドマスターのローランから呼び出しを受け、執務室へと入室した。応接のソファに座り、ローランと向かい合う。
「待たせてしまって、すまないな。最近の調子はどうだい?」
「おかげさまで順調です。今日も先ほど、アイン達とクエストを完了させて戻ってきたところです」
「そうか。おまえは最近、アインやミリーとよく行動しているようだが、正式にはパーティを組まないのか?」
「まだ当分は、一人で行動するつもりです。アインからも特に誘われていないですしね」
「そりゃそうだな。もしあそこに入ったら、アインが焼きもちを妬くからな」
ローランはそう言うと、豪快な笑い声をあげる。返答に詰まった柊也も、釣られて愛想笑いをした。まあ、気持ちはわかる。ミリーは器量が良い娘だ。アインも他の男がいつも近くにいたら、気になって仕方ないのだろう。もっともミリーがあれだけアインに想いを寄せているのだから、もう少し余裕を持っても良いのに。そう柊也は毒づいた。
「さて、本題に入ろう。実はトウヤ、おまえに指名依頼をしたい」
「え、私にですか?まだD級ですよ?」
「ああ、それも踏まえての事だ。最近、ヘルハウンドが活動的になっているのは知っているか?」
「ええ、実は今回のクエストの途中、七つ岩で鉢合わせしています」
「何っ?そんな所にまで下りてきているのか?それはマズいな。警告を出しておこう」
「お願いします」
報告を受けたローランは、渋面を作るとギルド職員を呼び、いくつか指示を出す。職員が退室した後、改めて柊也の方を向いた。
「話を戻そう。このヘルハウンドの活動だが、どうも奥地により強力な魔物が出現して、それに押し出されているのではないかとの結論に至った。そのため、この強力な魔物の捜索と、可能であれば討伐の隊を、向かわせる事になったのだ」
「クエスト報酬は金貨10枚。これにはヘルハウンド20頭までの討伐料が含まれる。これ以上のヘルハウンド、及び本命の魔物は、追加報酬だ。人数は、本隊だけで10人程度だろう。日数は1週間はかかると見ている」
「ただ、ここで問題が起きてな。支援隊の数が揃わないのだ。それで、おまえに白羽の矢が立ったというわけだ」
「そういう事でしたか…」
ローランの説明を聞き、柊也は納得した。
この世界には、空間魔法は存在しない。またアイテムボックスの類も存在しない。つまり、長期に渡って行動する場合には、水や食料の運搬という問題が発生する。そのため、こういった長期遠征の場合は、クエストを遂行する本隊とは別に支援隊を組むのが、通例であった。
実は、この支援隊に最も重宝されるのは、屈強な力持ちではなく、地と水の魔術師であった。地の魔法の一つに「ライトウェイト」という魔法があり、この魔法を持続させる事で対象物の軽量化を図る事ができた。一方、水魔法については、言うまでもない。「クリエイトウォーター」で飲料水を生み出すことで、水の運搬が不要になる。そのためこの世界では、魔術師が大きな荷物を運ぶのが、至って普通の光景であった。柊也がメイン魔法を決める際、どちらかと言うと攻撃力に劣る地と水を選んだのは、このポーター(運搬人)としての付加価値を付け、後方に身を置きやすくするためでもあった。柊也がこれまで様々なハンター達と臨時パーティを組んできたのも、このポーターとしての能力を評価されての事である。
「おまえは地も水も使える上に、一発限りとは言え治癒もできるからな。隙間を埋めるには、ピッタリなんだ。おまえがD級だって事は、他の者にはしっかりと言い含めておく。だから、戦闘に出る必要はない。また、治癒を使った時は別料金で払うから、その時は申告してくれ」
「わかりました。出発はいつになりますか?」
「3日後だ。悪いがそれまでの間は、他のクエストを受けないでくれ。これは、待機料だ」
そう言ってローランから銀貨1枚を受け取った柊也は、席を立つ。
「それでは3日後の朝、ここで」
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