5 / 6
第一章 天魔同盟学園
フェンリエル
しおりを挟む
「う、ん……」
勇磨が目を覚ます。
(ここはーー)
白色の天井、僅かな薬品の匂い、清潔なシーツの感触。窓から差し込む、日光。
(保健室か……学校の)
ぼんやりする意識が、徐々にクリアになってくる。
ーーしかし、リアル過ぎる夢だったなぁ……
「人間、覚醒したか」
勇磨は、聞き覚えのある声に、混乱して、上半身を起こす。
「ね、猫!? しゃべるマンチカン!?」
猫は勇磨のベッドへ登り、顔面を頭突く。
「痛い!」
勇磨は覚えのある痛みで、混乱が少し収まる。
「ゆ、夢じゃなかったのか……」
勇磨の脳裏に、通学中の閃光、会話出来る二足歩行の猫との出会い、羽の生えた一団ーー異形の生物との死闘……様々な場面が浮かび上がってきた。
ーー血の、焦げた、あの血の……
勇磨の鼻腔を、肉を焦がし、濃厚な血液の臭いがふいに襲う。
「くっ」
勇磨は吐き気をもよおし、右手で口をおおった。
「是非もなし、じゃな」
二足歩行の猫は、腕を組み、数度頷いてひとりごちる。
「整理するがよい」
猫は、勇磨が落ち着きを取り戻す頃合いを見計らって言う。
「本当の……現実の、出来事なんだ、よな?」
勇磨は深く息を吸い込み、ため息まじりに呟いた。
「まずは、自己紹介といこうか、の」
猫は、ちょこんと勇磨のベッド脇にある椅子へ座る。
「儂の名は、フェンリエル」
「……」
「……」
「だけ?」
勇磨は思わず、ツッコミを入れる。
「いやいやいやいや! しゃべる猫の名前よりも、むしろしゃべっている謎やら、二足歩行で歩きまわる理由やら、いろんな疑問がありまくりなんですがっ!」
「ほぶっ!!」
猫改め、フェンリエルの右コークスクリューが、勇磨のアゴを、完全に捉えた。勇磨は一瞬、意識が飛んだ。
「……まあ、無知蒙昧な人間の、しかも少年。少しばかり気の毒じゃから、許可する」
勇磨のベッドの上に華麗に舞い降りたフェンリエルは、またもや腕を組み、瞳を閉じ頷いている。
「な、何を許可されたの、俺?」
勇磨の頭の上にクエスチョンマークが現れる。
「アホ勇磨! お前に貸し出した力を行使して、儂を調べよ!」
「あっ……」
勇磨は思い出した。眼前に浮かび上がったディスプレイの映像を。一冊の辞典の存在を。摩訶不思議なちからを。
勇磨の混乱は何時しか収まっていた。自分でも驚く程の、精神の安定感。と、脳裏に浮かぶ言葉を、発音する。
「偉大なる宇宙の理、大老の記録保持者として命ずる。現出せよ、ヒストリア!」
勇磨の両手が黄金色を放ち、中空から本が現れた。
「解析、フェンリエル!」
勇磨の声に反応した辞典が捲れーー
『個体名:フェンリエル、他、エラー。
種族:エラー。現在、猫。種別マンチカン。
属性:知
来歴:閃光以前の記録エラー。閃光後、紫煙の炎を纏い、アース1.地球上へ落下。魂の具現化に伴い、魂の入れ物を取得。本猫?曰く、猫になったのは、儂のせいでは無い。以上』
(この音声……)
勇磨は、フェンリエルの情報を読み上げる、女の子のような声に、違和感を覚えた。
(あの時のーー)
『始まるーーきみはどうする?』
似ていた。日常が崩壊した、閃光が全てを飲み込んだ、あの時にきいた、声に。
「フェンリエル!」
勇磨は、問う。この声は誰なのかと。
「それ最初?! 儂があられもない姿の情報を、さらけ出しておるのにっ! バカ勇磨!」
「マンチ! ごめんなさいっ!」
勇磨は茶目っ気たっぷりにこたえてみた。
「……まあ、判ればよい。てかマンチ呼びするな!」
「てへっ」
「次よんだらヤるからな」
「すんません……」
「ふんっ」
「で、誰なの?」
「知らん」
「???」
「儂も知らんのじゃ。それを受け継いだ頃ーー」
「って、ええっ! 空から落下!? 神さまなの!?」
「神さま言うなっ!」
フェンリエルはぷいっと顔をそらす。
「じゃあ、神さまでは無い、と?」
「当たり前じゃ! あんなポンコツと一緒にするな、アホ勇磨」
「じゃあ、フェンリエルは、何者なの?」
「……」
「……」
「教えない。ヒストリアを深めれば、もしやーー」
「深める?」
「はぁ~」
フェンリエルは勇磨を見つめてからため息を漏らす。
「失礼なマンチだよな」
「仕方ないの。お前では心もとないが、いまの儂ではーー」
コンコン、と、部屋の扉をノックする音がした。
「よろしいかな?」
扉ごしに、声がかかったーー
勇磨が目を覚ます。
(ここはーー)
白色の天井、僅かな薬品の匂い、清潔なシーツの感触。窓から差し込む、日光。
(保健室か……学校の)
ぼんやりする意識が、徐々にクリアになってくる。
ーーしかし、リアル過ぎる夢だったなぁ……
「人間、覚醒したか」
勇磨は、聞き覚えのある声に、混乱して、上半身を起こす。
「ね、猫!? しゃべるマンチカン!?」
猫は勇磨のベッドへ登り、顔面を頭突く。
「痛い!」
勇磨は覚えのある痛みで、混乱が少し収まる。
「ゆ、夢じゃなかったのか……」
勇磨の脳裏に、通学中の閃光、会話出来る二足歩行の猫との出会い、羽の生えた一団ーー異形の生物との死闘……様々な場面が浮かび上がってきた。
ーー血の、焦げた、あの血の……
勇磨の鼻腔を、肉を焦がし、濃厚な血液の臭いがふいに襲う。
「くっ」
勇磨は吐き気をもよおし、右手で口をおおった。
「是非もなし、じゃな」
二足歩行の猫は、腕を組み、数度頷いてひとりごちる。
「整理するがよい」
猫は、勇磨が落ち着きを取り戻す頃合いを見計らって言う。
「本当の……現実の、出来事なんだ、よな?」
勇磨は深く息を吸い込み、ため息まじりに呟いた。
「まずは、自己紹介といこうか、の」
猫は、ちょこんと勇磨のベッド脇にある椅子へ座る。
「儂の名は、フェンリエル」
「……」
「……」
「だけ?」
勇磨は思わず、ツッコミを入れる。
「いやいやいやいや! しゃべる猫の名前よりも、むしろしゃべっている謎やら、二足歩行で歩きまわる理由やら、いろんな疑問がありまくりなんですがっ!」
「ほぶっ!!」
猫改め、フェンリエルの右コークスクリューが、勇磨のアゴを、完全に捉えた。勇磨は一瞬、意識が飛んだ。
「……まあ、無知蒙昧な人間の、しかも少年。少しばかり気の毒じゃから、許可する」
勇磨のベッドの上に華麗に舞い降りたフェンリエルは、またもや腕を組み、瞳を閉じ頷いている。
「な、何を許可されたの、俺?」
勇磨の頭の上にクエスチョンマークが現れる。
「アホ勇磨! お前に貸し出した力を行使して、儂を調べよ!」
「あっ……」
勇磨は思い出した。眼前に浮かび上がったディスプレイの映像を。一冊の辞典の存在を。摩訶不思議なちからを。
勇磨の混乱は何時しか収まっていた。自分でも驚く程の、精神の安定感。と、脳裏に浮かぶ言葉を、発音する。
「偉大なる宇宙の理、大老の記録保持者として命ずる。現出せよ、ヒストリア!」
勇磨の両手が黄金色を放ち、中空から本が現れた。
「解析、フェンリエル!」
勇磨の声に反応した辞典が捲れーー
『個体名:フェンリエル、他、エラー。
種族:エラー。現在、猫。種別マンチカン。
属性:知
来歴:閃光以前の記録エラー。閃光後、紫煙の炎を纏い、アース1.地球上へ落下。魂の具現化に伴い、魂の入れ物を取得。本猫?曰く、猫になったのは、儂のせいでは無い。以上』
(この音声……)
勇磨は、フェンリエルの情報を読み上げる、女の子のような声に、違和感を覚えた。
(あの時のーー)
『始まるーーきみはどうする?』
似ていた。日常が崩壊した、閃光が全てを飲み込んだ、あの時にきいた、声に。
「フェンリエル!」
勇磨は、問う。この声は誰なのかと。
「それ最初?! 儂があられもない姿の情報を、さらけ出しておるのにっ! バカ勇磨!」
「マンチ! ごめんなさいっ!」
勇磨は茶目っ気たっぷりにこたえてみた。
「……まあ、判ればよい。てかマンチ呼びするな!」
「てへっ」
「次よんだらヤるからな」
「すんません……」
「ふんっ」
「で、誰なの?」
「知らん」
「???」
「儂も知らんのじゃ。それを受け継いだ頃ーー」
「って、ええっ! 空から落下!? 神さまなの!?」
「神さま言うなっ!」
フェンリエルはぷいっと顔をそらす。
「じゃあ、神さまでは無い、と?」
「当たり前じゃ! あんなポンコツと一緒にするな、アホ勇磨」
「じゃあ、フェンリエルは、何者なの?」
「……」
「……」
「教えない。ヒストリアを深めれば、もしやーー」
「深める?」
「はぁ~」
フェンリエルは勇磨を見つめてからため息を漏らす。
「失礼なマンチだよな」
「仕方ないの。お前では心もとないが、いまの儂ではーー」
コンコン、と、部屋の扉をノックする音がした。
「よろしいかな?」
扉ごしに、声がかかったーー
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる