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第一章 天魔同盟学園
フェンリエル
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「う、ん……」
勇磨が目を覚ます。
(ここはーー)
白色の天井、僅かな薬品の匂い、清潔なシーツの感触。窓から差し込む、日光。
(保健室か……学校の)
ぼんやりする意識が、徐々にクリアになってくる。
ーーしかし、リアル過ぎる夢だったなぁ……
「人間、覚醒したか」
勇磨は、聞き覚えのある声に、混乱して、上半身を起こす。
「ね、猫!? しゃべるマンチカン!?」
猫は勇磨のベッドへ登り、顔面を頭突く。
「痛い!」
勇磨は覚えのある痛みで、混乱が少し収まる。
「ゆ、夢じゃなかったのか……」
勇磨の脳裏に、通学中の閃光、会話出来る二足歩行の猫との出会い、羽の生えた一団ーー異形の生物との死闘……様々な場面が浮かび上がってきた。
ーー血の、焦げた、あの血の……
勇磨の鼻腔を、肉を焦がし、濃厚な血液の臭いがふいに襲う。
「くっ」
勇磨は吐き気をもよおし、右手で口をおおった。
「是非もなし、じゃな」
二足歩行の猫は、腕を組み、数度頷いてひとりごちる。
「整理するがよい」
猫は、勇磨が落ち着きを取り戻す頃合いを見計らって言う。
「本当の……現実の、出来事なんだ、よな?」
勇磨は深く息を吸い込み、ため息まじりに呟いた。
「まずは、自己紹介といこうか、の」
猫は、ちょこんと勇磨のベッド脇にある椅子へ座る。
「儂の名は、フェンリエル」
「……」
「……」
「だけ?」
勇磨は思わず、ツッコミを入れる。
「いやいやいやいや! しゃべる猫の名前よりも、むしろしゃべっている謎やら、二足歩行で歩きまわる理由やら、いろんな疑問がありまくりなんですがっ!」
「ほぶっ!!」
猫改め、フェンリエルの右コークスクリューが、勇磨のアゴを、完全に捉えた。勇磨は一瞬、意識が飛んだ。
「……まあ、無知蒙昧な人間の、しかも少年。少しばかり気の毒じゃから、許可する」
勇磨のベッドの上に華麗に舞い降りたフェンリエルは、またもや腕を組み、瞳を閉じ頷いている。
「な、何を許可されたの、俺?」
勇磨の頭の上にクエスチョンマークが現れる。
「アホ勇磨! お前に貸し出した力を行使して、儂を調べよ!」
「あっ……」
勇磨は思い出した。眼前に浮かび上がったディスプレイの映像を。一冊の辞典の存在を。摩訶不思議なちからを。
勇磨の混乱は何時しか収まっていた。自分でも驚く程の、精神の安定感。と、脳裏に浮かぶ言葉を、発音する。
「偉大なる宇宙の理、大老の記録保持者として命ずる。現出せよ、ヒストリア!」
勇磨の両手が黄金色を放ち、中空から本が現れた。
「解析、フェンリエル!」
勇磨の声に反応した辞典が捲れーー
『個体名:フェンリエル、他、エラー。
種族:エラー。現在、猫。種別マンチカン。
属性:知
来歴:閃光以前の記録エラー。閃光後、紫煙の炎を纏い、アース1.地球上へ落下。魂の具現化に伴い、魂の入れ物を取得。本猫?曰く、猫になったのは、儂のせいでは無い。以上』
(この音声……)
勇磨は、フェンリエルの情報を読み上げる、女の子のような声に、違和感を覚えた。
(あの時のーー)
『始まるーーきみはどうする?』
似ていた。日常が崩壊した、閃光が全てを飲み込んだ、あの時にきいた、声に。
「フェンリエル!」
勇磨は、問う。この声は誰なのかと。
「それ最初?! 儂があられもない姿の情報を、さらけ出しておるのにっ! バカ勇磨!」
「マンチ! ごめんなさいっ!」
勇磨は茶目っ気たっぷりにこたえてみた。
「……まあ、判ればよい。てかマンチ呼びするな!」
「てへっ」
「次よんだらヤるからな」
「すんません……」
「ふんっ」
「で、誰なの?」
「知らん」
「???」
「儂も知らんのじゃ。それを受け継いだ頃ーー」
「って、ええっ! 空から落下!? 神さまなの!?」
「神さま言うなっ!」
フェンリエルはぷいっと顔をそらす。
「じゃあ、神さまでは無い、と?」
「当たり前じゃ! あんなポンコツと一緒にするな、アホ勇磨」
「じゃあ、フェンリエルは、何者なの?」
「……」
「……」
「教えない。ヒストリアを深めれば、もしやーー」
「深める?」
「はぁ~」
フェンリエルは勇磨を見つめてからため息を漏らす。
「失礼なマンチだよな」
「仕方ないの。お前では心もとないが、いまの儂ではーー」
コンコン、と、部屋の扉をノックする音がした。
「よろしいかな?」
扉ごしに、声がかかったーー
勇磨が目を覚ます。
(ここはーー)
白色の天井、僅かな薬品の匂い、清潔なシーツの感触。窓から差し込む、日光。
(保健室か……学校の)
ぼんやりする意識が、徐々にクリアになってくる。
ーーしかし、リアル過ぎる夢だったなぁ……
「人間、覚醒したか」
勇磨は、聞き覚えのある声に、混乱して、上半身を起こす。
「ね、猫!? しゃべるマンチカン!?」
猫は勇磨のベッドへ登り、顔面を頭突く。
「痛い!」
勇磨は覚えのある痛みで、混乱が少し収まる。
「ゆ、夢じゃなかったのか……」
勇磨の脳裏に、通学中の閃光、会話出来る二足歩行の猫との出会い、羽の生えた一団ーー異形の生物との死闘……様々な場面が浮かび上がってきた。
ーー血の、焦げた、あの血の……
勇磨の鼻腔を、肉を焦がし、濃厚な血液の臭いがふいに襲う。
「くっ」
勇磨は吐き気をもよおし、右手で口をおおった。
「是非もなし、じゃな」
二足歩行の猫は、腕を組み、数度頷いてひとりごちる。
「整理するがよい」
猫は、勇磨が落ち着きを取り戻す頃合いを見計らって言う。
「本当の……現実の、出来事なんだ、よな?」
勇磨は深く息を吸い込み、ため息まじりに呟いた。
「まずは、自己紹介といこうか、の」
猫は、ちょこんと勇磨のベッド脇にある椅子へ座る。
「儂の名は、フェンリエル」
「……」
「……」
「だけ?」
勇磨は思わず、ツッコミを入れる。
「いやいやいやいや! しゃべる猫の名前よりも、むしろしゃべっている謎やら、二足歩行で歩きまわる理由やら、いろんな疑問がありまくりなんですがっ!」
「ほぶっ!!」
猫改め、フェンリエルの右コークスクリューが、勇磨のアゴを、完全に捉えた。勇磨は一瞬、意識が飛んだ。
「……まあ、無知蒙昧な人間の、しかも少年。少しばかり気の毒じゃから、許可する」
勇磨のベッドの上に華麗に舞い降りたフェンリエルは、またもや腕を組み、瞳を閉じ頷いている。
「な、何を許可されたの、俺?」
勇磨の頭の上にクエスチョンマークが現れる。
「アホ勇磨! お前に貸し出した力を行使して、儂を調べよ!」
「あっ……」
勇磨は思い出した。眼前に浮かび上がったディスプレイの映像を。一冊の辞典の存在を。摩訶不思議なちからを。
勇磨の混乱は何時しか収まっていた。自分でも驚く程の、精神の安定感。と、脳裏に浮かぶ言葉を、発音する。
「偉大なる宇宙の理、大老の記録保持者として命ずる。現出せよ、ヒストリア!」
勇磨の両手が黄金色を放ち、中空から本が現れた。
「解析、フェンリエル!」
勇磨の声に反応した辞典が捲れーー
『個体名:フェンリエル、他、エラー。
種族:エラー。現在、猫。種別マンチカン。
属性:知
来歴:閃光以前の記録エラー。閃光後、紫煙の炎を纏い、アース1.地球上へ落下。魂の具現化に伴い、魂の入れ物を取得。本猫?曰く、猫になったのは、儂のせいでは無い。以上』
(この音声……)
勇磨は、フェンリエルの情報を読み上げる、女の子のような声に、違和感を覚えた。
(あの時のーー)
『始まるーーきみはどうする?』
似ていた。日常が崩壊した、閃光が全てを飲み込んだ、あの時にきいた、声に。
「フェンリエル!」
勇磨は、問う。この声は誰なのかと。
「それ最初?! 儂があられもない姿の情報を、さらけ出しておるのにっ! バカ勇磨!」
「マンチ! ごめんなさいっ!」
勇磨は茶目っ気たっぷりにこたえてみた。
「……まあ、判ればよい。てかマンチ呼びするな!」
「てへっ」
「次よんだらヤるからな」
「すんません……」
「ふんっ」
「で、誰なの?」
「知らん」
「???」
「儂も知らんのじゃ。それを受け継いだ頃ーー」
「って、ええっ! 空から落下!? 神さまなの!?」
「神さま言うなっ!」
フェンリエルはぷいっと顔をそらす。
「じゃあ、神さまでは無い、と?」
「当たり前じゃ! あんなポンコツと一緒にするな、アホ勇磨」
「じゃあ、フェンリエルは、何者なの?」
「……」
「……」
「教えない。ヒストリアを深めれば、もしやーー」
「深める?」
「はぁ~」
フェンリエルは勇磨を見つめてからため息を漏らす。
「失礼なマンチだよな」
「仕方ないの。お前では心もとないが、いまの儂ではーー」
コンコン、と、部屋の扉をノックする音がした。
「よろしいかな?」
扉ごしに、声がかかったーー
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