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プロローグ

覚悟

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「タウエルっ!」
 リリエラは、突進する男性に叫ぶ。
「うかつだ!」

「恩寵具現! 来たれ、天の短槍!」
 男性、タウエルは、リリエラの声を無視して、アルゴリオに向かい、駆けながら、言葉を紡いだ。
 タウエルの呼び掛けに応じたのか、彼の右手が太陽光の色を発すると、2メートルくらいの槍が、彼の手に握られている。

 タウエルは気合いをかけならが、槍をひと突き。
 アルゴリオの左の胸板を貫くーーはずであった。

 アルゴリオは、槍の穂先を寸前でかわす。
 タウエルの槍がアルゴリオを襲う。アルゴリオが避けるーー

 およそ、3秒。十手の打ち込みを、タウエルは繰り出したが、アルゴリオに、致命傷を与えることは出来なかった。

「今のうちに、サバイバー反応の確認を!」
 タウエルは一団に叫ぶ。

「確認! 木陰に人間と動物反応あり!」
 一団のメンバーひとりが緑色のサングラスに映る、勇磨と猫の姿を捉えた。と、

「ふん!」
 アルゴリオが右腕を掲げた。

「!?」
 一団のメンバー2名が、言葉にならない奇声を発し、炎に焼かれ、崩れ落ちる。

「くそーっ!!」
 リリエラの碧眼に、闘争が浮かぶ。


「バレた!? おい、人間! 今から言う言葉を唱えよ!」
 勇磨の頭で暴れる猫。猫の爪に悶え苦しむ勇磨は、
「痛みと混乱で、もう色々ダメですっ!」
 目の前の惨状から、トンズラしようと、踵をかえそうとしたが、猫が勇磨の頭に噛みついた。

「バカもの! 逃げるなっ! 逃げられると思うな! バカ!」
「死ぬだろっ!確実に、死ぬ!」
「唱えよ! 大老の記録を! ヒストリアと!」
「えっ?? 大老の記録!」
「そこじゃない! ヒストリアじゃ! アホ!」
「ひ、ヒストリアー!!」

 勇磨の両手が黄金色に光り輝くと、中空より、一冊の本が現れた。

「上出来じゃ! 人間! そなたの名を!」
「水空勇磨」
「よし、きた!」

 勇磨は相変わらず訳が分からず混乱していたが、流れに身を任せた。

「今回はついておる! 相手の名前が知れておる。アルゴリオと言え!」
「アルゴリオ」
 勇磨の言葉に、辞典のような本が反応し、勝手にページが捲れーー勇磨の目前に、テレビ画面のようなものが浮かび上がり、文字が表示された。

『個人名:アルゴリオ
 種族:悪魔
 悪魔族階級:子爵
 属性:通常炎
 来歴:地獄の第4階層より現出した、悪魔族の高位種。悪魔王のひとり、バアルとの決闘に敗れ、彼の者の軍門に下るーー以下、大老の記録保持者の能力不足により、エラー。エラー』

「……」
「よしっ! 次は人間の名を!」
「水空勇磨」

『個人名:水空勇磨
 種族:???
 属性:水? その他エラー。エラー。
 情報取得不可能。エラー。エラー。』

「……」
「よ、良くないっ! これだけじゃと!?」
 猫が暴れる。爪が食い込む。
「痛いっ! 何かよくわからないけど、どうするんだよっ!」
 勇磨は猫を引き剥がそうと、その場で足踏み。と、
「ゆ、勇磨とやら! アレが見えるか?」
 猫が指し示す地面に、水溜まりがあった。
「???」
 いぶかしむ勇磨を無視して、猫が続ける。
「手を水にっ! はようせぬか!」
 勇磨は猫の爪の痛みに耐えながら、水溜まりの前でしゃがみ、手を浸ける。
「唱えよ。生命の息吹、我が前に!」
「生命の息吹、我が前に!」

 水溜まりから、水柱が立ち上がった。
「呼び掛けに応じた。我が名は蛟(ミズチ)」
 2メートル程の、蛇のようなモノが、勇磨たちの眼前に、姿を現す。ミズチと名乗るそれは、身体が液状ーー水に似た物質で構成されていた。

「サバイバーとは、貴様らか?」

 ふいに、勇磨たちの背後から、怒声を含む声色が聞こえる。

「!?」
 勇磨は声のする方へ振り返り、恐怖した。

「あ、アルゴリオ……」
 猫が唸りながら、アルゴリオの後方を見やると、リリエラとタウエルが、地面に倒れている。

「やるしかないぞ、人間。覚悟を決めろ」
 猫は、震える勇磨に、呟いたーー
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