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借金
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自分は走って学校へ向かった。
数学の宿題をするためだ。
2、3人程しかいない教室のドアを開け、時計の方を見てみると、まだ時間に余裕があった。
「何とか間に合いそうだな」
朝のホームルームまであと20分。
自分はチャイムが鳴るちょうど5分前に、全て終わらせることが出来た。
そしてそのタイミングでAが登校してきて、自分の席へ来て何をするのかと思えば、開口一番にこう言った。
「咲太、宿題終わったか?」
「うん、なんとか」
「でかした、それ見せてくんね?」
やっぱりか。
ある程度予想はできていたが、いざ言われると素直に頭を縦に振るのは自分のプライドが許さなかった。
「いくら出せる?」
安易な考えではあるが、物事を要求してくる相手にその対価として金銭を要求するのは妥当なことだろう。
「二百で」
そう言って渋々Aはピースサインを自分に向けた。
「却下」
えーっと腑抜けた声と顔をするA。
「じゃあ五百で」
「採用」
「がめついやつめ」
「経済的と言え」
Aは返事も無しに自分が差し出したノートを奪い去って席へと戻っていった。
Aは朝のホームルームの時間、先生の話なんて全く聞き耳を持たず、ただ一心不乱にシャーペンを動かしていた。
結局ノートが自分の手元に帰ってきたのは1時間目の数学が始まる直前だった。
そのあとしっかり五百円徴収した。
その日は特段変わったことも無く、いつもと、いや、昨日と変わらず学校は終わり、Aと一緒に帰るのかと思ったが、家の方向が違うのか、その日はAとは一緒に帰らなかった。
古びたアパートのドアをを開け、中へと入る。
昨日とほとんど遜色なく、特にすることもなかったので、ただぼーっとしていた。いつの間にか外は暗くなり始め、お腹がなった時、ちょうど母が帰ってきた。
「おかえり」
返事はなかった。
昨日の母親からは考えられないほど負のオーラをその身にまとっていた。
「何かあったの?」
やはり返事は無い。
ここでひとつ気づいたことがある。
妹の姿が見当たらない。
今日は父が迎えに行く日なのだろうか。
しかし、その期待はすぐ裏切られた。
母の後ろに父の姿が見えたからだ。
「咲太、そこ座って」
大事な話があるから、と母は続けた。
言われるがままに座布団が敷かれた畳の上に腰を下ろした。
父は黙ったままだ。
父と母は自分の前に並ぶように座った。
先に口を開いたのは母だった。
「働きなさい」
「え?」
口調と表情からして、冗談では無いことはひと目でわかった。
それよりも気になったことは、
「学校は?」
自分的にはそれだけ保証されていれば、働くか働かないかなんてことはどうでもよかった。少しこの状況を予想していたからでもある。
「やめなさい」
「そんな…」
冷酷と自分の目を見つめる母にそれ以上口が開かなかった。
「本当にすまない!!」
地面に着く勢いで急に頭を下げたのは父だった。
「すまない咲太、こうなったのは全部俺のせいだ、責めるなら俺を責めてくれ!」
謝罪に圧倒されながらも、自分はまずこうなってしまった経緯を知りたかった。
「なにがあったの……?」
そう聞くと父は渋々起きた事柄を話し始めた。
「実は…父さんの会社の事業に失敗してな…」
「それで…?」
「借金が…できてしまってだな…」
「いくらあるの…?」
「二千万…」
その大きな数字の前に、自分は唖然とした。
母もただ、ハンカチで溢れんばかりの涙を拭っているだけだった。
「それで…佳奈はだな…」
続けて父は口を開く。そして恐らく佳奈というのは妹のことだろう。
「もう…うちでは育てきれないって…母さんと話したんだ」
母は何も言わず、再び涙を流していた。
「だから…さっき…養子に出してきた…」
「そんな…あんまりじゃないか…」
気づけば怒りにも近い悲しみの感情が自分の中で渦巻いていた。
「お金が無くたって、生活保護でも受けるなり最低限の生活を送る方法はあるはずだ!それに自分も、母さんが言った通り学校やめて働くから、どうしてそんな結論になるんだ!」
「俺だってな!」
バァンと机を叩く音と共に父の怒号が部屋に響き渡る。
「俺だって、望んでこうしたわけじゃない。何度も母さんと話し合いを重ねて、それがこの結果に至ったんだ。どうかわかってくれ、咲太」
頼む、と続ける父の目には、母と同じく涙が浮かんでいた。
その後、父と母から色んな話を聞いた。
主に生活保護が受け入れられなかったことと、いつか自分たちの生活が安定したら、佳奈に会いに行くということ。
それだけを約束して、自分は次の日から学校に行かなくなった。
数学の宿題をするためだ。
2、3人程しかいない教室のドアを開け、時計の方を見てみると、まだ時間に余裕があった。
「何とか間に合いそうだな」
朝のホームルームまであと20分。
自分はチャイムが鳴るちょうど5分前に、全て終わらせることが出来た。
そしてそのタイミングでAが登校してきて、自分の席へ来て何をするのかと思えば、開口一番にこう言った。
「咲太、宿題終わったか?」
「うん、なんとか」
「でかした、それ見せてくんね?」
やっぱりか。
ある程度予想はできていたが、いざ言われると素直に頭を縦に振るのは自分のプライドが許さなかった。
「いくら出せる?」
安易な考えではあるが、物事を要求してくる相手にその対価として金銭を要求するのは妥当なことだろう。
「二百で」
そう言って渋々Aはピースサインを自分に向けた。
「却下」
えーっと腑抜けた声と顔をするA。
「じゃあ五百で」
「採用」
「がめついやつめ」
「経済的と言え」
Aは返事も無しに自分が差し出したノートを奪い去って席へと戻っていった。
Aは朝のホームルームの時間、先生の話なんて全く聞き耳を持たず、ただ一心不乱にシャーペンを動かしていた。
結局ノートが自分の手元に帰ってきたのは1時間目の数学が始まる直前だった。
そのあとしっかり五百円徴収した。
その日は特段変わったことも無く、いつもと、いや、昨日と変わらず学校は終わり、Aと一緒に帰るのかと思ったが、家の方向が違うのか、その日はAとは一緒に帰らなかった。
古びたアパートのドアをを開け、中へと入る。
昨日とほとんど遜色なく、特にすることもなかったので、ただぼーっとしていた。いつの間にか外は暗くなり始め、お腹がなった時、ちょうど母が帰ってきた。
「おかえり」
返事はなかった。
昨日の母親からは考えられないほど負のオーラをその身にまとっていた。
「何かあったの?」
やはり返事は無い。
ここでひとつ気づいたことがある。
妹の姿が見当たらない。
今日は父が迎えに行く日なのだろうか。
しかし、その期待はすぐ裏切られた。
母の後ろに父の姿が見えたからだ。
「咲太、そこ座って」
大事な話があるから、と母は続けた。
言われるがままに座布団が敷かれた畳の上に腰を下ろした。
父は黙ったままだ。
父と母は自分の前に並ぶように座った。
先に口を開いたのは母だった。
「働きなさい」
「え?」
口調と表情からして、冗談では無いことはひと目でわかった。
それよりも気になったことは、
「学校は?」
自分的にはそれだけ保証されていれば、働くか働かないかなんてことはどうでもよかった。少しこの状況を予想していたからでもある。
「やめなさい」
「そんな…」
冷酷と自分の目を見つめる母にそれ以上口が開かなかった。
「本当にすまない!!」
地面に着く勢いで急に頭を下げたのは父だった。
「すまない咲太、こうなったのは全部俺のせいだ、責めるなら俺を責めてくれ!」
謝罪に圧倒されながらも、自分はまずこうなってしまった経緯を知りたかった。
「なにがあったの……?」
そう聞くと父は渋々起きた事柄を話し始めた。
「実は…父さんの会社の事業に失敗してな…」
「それで…?」
「借金が…できてしまってだな…」
「いくらあるの…?」
「二千万…」
その大きな数字の前に、自分は唖然とした。
母もただ、ハンカチで溢れんばかりの涙を拭っているだけだった。
「それで…佳奈はだな…」
続けて父は口を開く。そして恐らく佳奈というのは妹のことだろう。
「もう…うちでは育てきれないって…母さんと話したんだ」
母は何も言わず、再び涙を流していた。
「だから…さっき…養子に出してきた…」
「そんな…あんまりじゃないか…」
気づけば怒りにも近い悲しみの感情が自分の中で渦巻いていた。
「お金が無くたって、生活保護でも受けるなり最低限の生活を送る方法はあるはずだ!それに自分も、母さんが言った通り学校やめて働くから、どうしてそんな結論になるんだ!」
「俺だってな!」
バァンと机を叩く音と共に父の怒号が部屋に響き渡る。
「俺だって、望んでこうしたわけじゃない。何度も母さんと話し合いを重ねて、それがこの結果に至ったんだ。どうかわかってくれ、咲太」
頼む、と続ける父の目には、母と同じく涙が浮かんでいた。
その後、父と母から色んな話を聞いた。
主に生活保護が受け入れられなかったことと、いつか自分たちの生活が安定したら、佳奈に会いに行くということ。
それだけを約束して、自分は次の日から学校に行かなくなった。
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