名犬アレク

白井銀歌

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6.カンモウキ

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最近おうちの中に、俺の毛がいっぱい落ちているようになった。

体をブルブルするといっぱい落ちる。

よくわからないんだけど「カンモウキ」というやつらしい。

ご主人が「カンモウキだから仕方無い」って言ってたからな。

だから今の俺はカンモウキなんだ。


ご主人が「アレク、こっちにおいで」って呼んでる。

おう、おやつくれるのか?

だったらジャーキーがいいな。

それとも遊んでくれるのか?

だったら俺ボールで遊びたい。

大好きなご主人の匂いをクンクンしながら近づくと、ご主人は俺の
嫌いな物を出してきた。

俺知ってる。これ「ブラシ」って言うんだ。

ご主人はブラシを使って俺の毛づくろいをする。

でも俺、このブラシ嫌い。

ご主人の手で、なでてもらうほうが絶対いい。

わんわん!

わんわん!

俺は逃げ出した。

おうちの中を逃げまわる俺。

ご主人はブラシを持ったまま俺を追いかける。

嫌だ、嫌だ。それよりなでなでして欲しい。

俺が走るたびに床の毛がふわりと舞い上がる。

ご主人はくしゃみをした。

気をとられた俺はテーブルにぶつかる。

ごちん。キャン!

そのせいでテーブルの上にあったご主人の飲み物が落っこちてきて、甘くて苦い匂いが床に広がった。

「こら、アレク!」

くぅぅぅん。

ご主人は「割れなくてよかった~」と言いながら、床を布でふいている。

綺麗に元通りになった床に、ご主人はぺたりと座った。

俺はそろそろと近づく。

これでもうあの嫌なブラシのことは忘れただろ。

さぁ、俺を抱っこして撫でてくれ。

できればおやつもくれ。

そう思ったんだけど、ご主人はちゃんと覚えてた。

俺を抱っこして、テーブルの上にあったブラシを手に取った。

くそ、ギュッと抱っこされてて逃げられないぞ。

ガシガシ

ガシガシ

肌に硬いブラシが当たるのは何度やられても好きになれない。

ガシガシ

ガシガシ

俺はいっぱい毛づくろいされてしまった。

「ほら、見てごらん。こんなにいっぱいアレクの毛が取れたよ」

そう言ってご主人がブラシについた俺の毛を見せる。

さらには、毛を丸めてまんまるの玉を作って喜んでいた。

ご主人は楽しそうだけど、俺はちっともおもしろくないぞ。

「すっきりしたでしょ?」と言われながら俺は撫でられる。

くぅーん。

やっぱりブラシよりもご主人の手の方がいい。

くそ、次は絶対に捕まらないからな。

俺を撫でる手を止めて、ご主人は立ち上がって何かを探している。

ガサガサ。

ガサガサ。

俺の大好きなおやつの匂いがしてきた。

尻尾を振ってご主人に飛びつくと「待て!」と言われる。

きゅぅ~ん。

俺は賢いからな。待てもちゃんとできるぞ。

「ちゃんとブラシ我慢できたから、おやつあげようね」

きゅぅ~ん。よだれがでてきた。早く。早く。

「よし!」という合図と共に、目の前のおやつに飛びついた。

これは俺の大好きなジャーキーだ。

口の中いっぱいにジャーキーの匂いが広がる。

ブラシは嫌いだけどおやつは大好きだ。

次はブラシ無しでおやつをくれ。

抱っことなでなでも忘れずにな。

いいな、ご主人。絶対だぞ。
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