上 下
26 / 30
10章:戦いの行方

26.最前線

しおりを挟む
 アバンティ領とホワイティ領の境目にある平原。
 そこにアバンティの騎士団が進軍しているという情報が入った。

「俺が最前線に出て時間を稼ぐ。その間に領民達に避難の指示を出してくれ」

 師匠がそう言って銀色の杖を腰に差し直し、背中を向けて出て行こうとする。

「待ってください、師匠! 私も一緒に行きます!」

「メイはここに居るんだ。さっき見ただろ? 向こうは本気だ」

「でも、師匠は……」

 どうして師匠一人だけ危ないところに行こうとするのだと言いたいのに、上手く言葉にならない。

 もしそれで師匠が死んでしまったりしたら、私は――

「ホワイティ。メイを頼む」

「あぁ」

 ホワイティ王子は、師匠を追いかけようとした私の手を掴む。
 その隙に彼は転送魔法で消えてしまった。

「師匠!」

「――メイちゃん。僕とポルタは皆に指示を出したりするので忙しい。すまないが僕の代わりにこの水晶玉を見ていてくれるかい?」

 ホワイティ王子は部屋に飾ってあった手のひらよりも大きな台座付きの水晶玉をテーブルに置いた。

「これはちょっと特別な水晶でね。これを使えば前線の様子が見られるはずだ。じゃあ、頼んだよ」

 王子は呪文を唱えて水晶玉に手をかざす。

 水晶玉が魔力を帯びて光り輝き、透明だった玉に町外れの平原とそこに集まった騎士団の様子が映し出された。
そしてそれと対峙しているのは――

「師匠……!」

 先ほど出て行った時と何一つ変わらない青紫のマントと銀色の杖。
 でも、置いていかれてしまったことで、すごく隔たりを感じてしまう。

 師匠は騎士団の前に立ちふさがり、杖を振り上げて大声をあげた。

「貴様ら! この世界一の魔法使いジュリアス・フェンサーに剣を向けるということはどういう意味かわかってるんだろうな⁉」

 師匠の体に魔力のオーラが見える。たぶん自身への強化魔法を何重にも張り巡らせているのだろう。
 普通の魔法使いはそんなことできるはずがない。肉体の方が耐えられないからだ。

 以前に彼が授業参観に来た時に、魔法使いとは思えないほど鍛えた体をしていたことを思い出した。
 たぶん、過度の強化魔法にも耐えられるくらい強靭きょうじんな体なんだろう。

 師匠は周囲を威圧するかのように魔力のオーラを見せ付けていた。

「……ぶっ殺される覚悟はできてんのかぁぁぁぁ!!!!」

 師匠の叫びに騎士団に動揺が走った。
 ざわざわと声が聞こえる。

 それでも騎士団の団長と思われる人物が数名を従え、師匠に向かって大きな剣を向けて突撃してきた。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「――ハァッ!」

 師匠は向かってきた騎士に対し、銀色の杖をまるで剣のように持って叩きつけるように応戦する。
 その素早い動きと強烈な打撃で、彼らの剣が一瞬で粉々になった。

「ひぃっ! 化け物かよ!」

 団長と思われる人物が悲鳴をあげる。
 トップの人間がやられると全体の士気が大幅に下がるのは言うまでもない。
 ひとりが剣を捨てて逃げ始めると次々と皆も後に続いて、あっという間に戦線は崩壊した。

「強い……」

 こんなに師匠って強いんだ。
 彼がいれば、このまま終わらせてくれるかもしれない。

 そう思ったが――

 逃げ出した騎士団に代わって、黒いローブの集団を従え、真っ赤な髪と炎のように赤い豪華な鎧をまとったアバンティ王子が現れた。

「ジュリアス。やはり貴様は目障りだな……」

「あくまでもやる気か、アバンティ」

「ジュリアス。俺は大きな力を手に入れたぞ。貴様なんかよりももっと優れた巨大な力だ。見るがいい」

 周囲の黒いローブの異形の集団が呪文を唱え、黒いオーラのようなものがアバンティ王子に収束していく。

「アハハハハハハ!!!! いいぞ……!!!!」

「アバンティ、おまえまさか――」

 王子の頭から角が生え、彼の姿はどんどんドラゴンに似た異形へと姿を変えて巨大化していく。

「我は魔王ゼストダークなり……」

「くそ! 奴ら、アバンティの体に魔王を降ろしやがったのか……」

「目障りな魔法使いめ。ここで朽ち果てるがよい――」

 巨大な魔王の姿となったアバンティ王子は、師匠に向かって口から炎を吐き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...