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10章:戦いの行方
26.最前線
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アバンティ領とホワイティ領の境目にある平原。
そこにアバンティの騎士団が進軍しているという情報が入った。
「俺が最前線に出て時間を稼ぐ。その間に領民達に避難の指示を出してくれ」
師匠がそう言って銀色の杖を腰に差し直し、背中を向けて出て行こうとする。
「待ってください、師匠! 私も一緒に行きます!」
「メイはここに居るんだ。さっき見ただろ? 向こうは本気だ」
「でも、師匠は……」
どうして師匠一人だけ危ないところに行こうとするのだと言いたいのに、上手く言葉にならない。
もしそれで師匠が死んでしまったりしたら、私は――
「ホワイティ。メイを頼む」
「あぁ」
ホワイティ王子は、師匠を追いかけようとした私の手を掴む。
その隙に彼は転送魔法で消えてしまった。
「師匠!」
「――メイちゃん。僕とポルタは皆に指示を出したりするので忙しい。すまないが僕の代わりにこの水晶玉を見ていてくれるかい?」
ホワイティ王子は部屋に飾ってあった手のひらよりも大きな台座付きの水晶玉をテーブルに置いた。
「これはちょっと特別な水晶でね。これを使えば前線の様子が見られるはずだ。じゃあ、頼んだよ」
王子は呪文を唱えて水晶玉に手をかざす。
水晶玉が魔力を帯びて光り輝き、透明だった玉に町外れの平原とそこに集まった騎士団の様子が映し出された。
そしてそれと対峙しているのは――
「師匠……!」
先ほど出て行った時と何一つ変わらない青紫のマントと銀色の杖。
でも、置いていかれてしまったことで、すごく隔たりを感じてしまう。
師匠は騎士団の前に立ちふさがり、杖を振り上げて大声をあげた。
「貴様ら! この世界一の魔法使いジュリアス・フェンサーに剣を向けるということはどういう意味かわかってるんだろうな⁉」
師匠の体に魔力のオーラが見える。たぶん自身への強化魔法を何重にも張り巡らせているのだろう。
普通の魔法使いはそんなことできるはずがない。肉体の方が耐えられないからだ。
以前に彼が授業参観に来た時に、魔法使いとは思えないほど鍛えた体をしていたことを思い出した。
たぶん、過度の強化魔法にも耐えられるくらい強靭な体なんだろう。
師匠は周囲を威圧するかのように魔力のオーラを見せ付けていた。
「……ぶっ殺される覚悟はできてんのかぁぁぁぁ!!!!」
師匠の叫びに騎士団に動揺が走った。
ざわざわと声が聞こえる。
それでも騎士団の団長と思われる人物が数名を従え、師匠に向かって大きな剣を向けて突撃してきた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「――ハァッ!」
師匠は向かってきた騎士に対し、銀色の杖をまるで剣のように持って叩きつけるように応戦する。
その素早い動きと強烈な打撃で、彼らの剣が一瞬で粉々になった。
「ひぃっ! 化け物かよ!」
団長と思われる人物が悲鳴をあげる。
トップの人間がやられると全体の士気が大幅に下がるのは言うまでもない。
ひとりが剣を捨てて逃げ始めると次々と皆も後に続いて、あっという間に戦線は崩壊した。
「強い……」
こんなに師匠って強いんだ。
彼がいれば、このまま終わらせてくれるかもしれない。
そう思ったが――
逃げ出した騎士団に代わって、黒いローブの集団を従え、真っ赤な髪と炎のように赤い豪華な鎧をまとったアバンティ王子が現れた。
「ジュリアス。やはり貴様は目障りだな……」
「あくまでもやる気か、アバンティ」
「ジュリアス。俺は大きな力を手に入れたぞ。貴様なんかよりももっと優れた巨大な力だ。見るがいい」
周囲の黒いローブの異形の集団が呪文を唱え、黒いオーラのようなものがアバンティ王子に収束していく。
「アハハハハハハ!!!! いいぞ……!!!!」
「アバンティ、おまえまさか――」
王子の頭から角が生え、彼の姿はどんどんドラゴンに似た異形へと姿を変えて巨大化していく。
「我は魔王ゼストダークなり……」
「くそ! 奴ら、アバンティの体に魔王を降ろしやがったのか……」
「目障りな魔法使いめ。ここで朽ち果てるがよい――」
巨大な魔王の姿となったアバンティ王子は、師匠に向かって口から炎を吐き出した。
そこにアバンティの騎士団が進軍しているという情報が入った。
「俺が最前線に出て時間を稼ぐ。その間に領民達に避難の指示を出してくれ」
師匠がそう言って銀色の杖を腰に差し直し、背中を向けて出て行こうとする。
「待ってください、師匠! 私も一緒に行きます!」
「メイはここに居るんだ。さっき見ただろ? 向こうは本気だ」
「でも、師匠は……」
どうして師匠一人だけ危ないところに行こうとするのだと言いたいのに、上手く言葉にならない。
もしそれで師匠が死んでしまったりしたら、私は――
「ホワイティ。メイを頼む」
「あぁ」
ホワイティ王子は、師匠を追いかけようとした私の手を掴む。
その隙に彼は転送魔法で消えてしまった。
「師匠!」
「――メイちゃん。僕とポルタは皆に指示を出したりするので忙しい。すまないが僕の代わりにこの水晶玉を見ていてくれるかい?」
ホワイティ王子は部屋に飾ってあった手のひらよりも大きな台座付きの水晶玉をテーブルに置いた。
「これはちょっと特別な水晶でね。これを使えば前線の様子が見られるはずだ。じゃあ、頼んだよ」
王子は呪文を唱えて水晶玉に手をかざす。
水晶玉が魔力を帯びて光り輝き、透明だった玉に町外れの平原とそこに集まった騎士団の様子が映し出された。
そしてそれと対峙しているのは――
「師匠……!」
先ほど出て行った時と何一つ変わらない青紫のマントと銀色の杖。
でも、置いていかれてしまったことで、すごく隔たりを感じてしまう。
師匠は騎士団の前に立ちふさがり、杖を振り上げて大声をあげた。
「貴様ら! この世界一の魔法使いジュリアス・フェンサーに剣を向けるということはどういう意味かわかってるんだろうな⁉」
師匠の体に魔力のオーラが見える。たぶん自身への強化魔法を何重にも張り巡らせているのだろう。
普通の魔法使いはそんなことできるはずがない。肉体の方が耐えられないからだ。
以前に彼が授業参観に来た時に、魔法使いとは思えないほど鍛えた体をしていたことを思い出した。
たぶん、過度の強化魔法にも耐えられるくらい強靭な体なんだろう。
師匠は周囲を威圧するかのように魔力のオーラを見せ付けていた。
「……ぶっ殺される覚悟はできてんのかぁぁぁぁ!!!!」
師匠の叫びに騎士団に動揺が走った。
ざわざわと声が聞こえる。
それでも騎士団の団長と思われる人物が数名を従え、師匠に向かって大きな剣を向けて突撃してきた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「――ハァッ!」
師匠は向かってきた騎士に対し、銀色の杖をまるで剣のように持って叩きつけるように応戦する。
その素早い動きと強烈な打撃で、彼らの剣が一瞬で粉々になった。
「ひぃっ! 化け物かよ!」
団長と思われる人物が悲鳴をあげる。
トップの人間がやられると全体の士気が大幅に下がるのは言うまでもない。
ひとりが剣を捨てて逃げ始めると次々と皆も後に続いて、あっという間に戦線は崩壊した。
「強い……」
こんなに師匠って強いんだ。
彼がいれば、このまま終わらせてくれるかもしれない。
そう思ったが――
逃げ出した騎士団に代わって、黒いローブの集団を従え、真っ赤な髪と炎のように赤い豪華な鎧をまとったアバンティ王子が現れた。
「ジュリアス。やはり貴様は目障りだな……」
「あくまでもやる気か、アバンティ」
「ジュリアス。俺は大きな力を手に入れたぞ。貴様なんかよりももっと優れた巨大な力だ。見るがいい」
周囲の黒いローブの異形の集団が呪文を唱え、黒いオーラのようなものがアバンティ王子に収束していく。
「アハハハハハハ!!!! いいぞ……!!!!」
「アバンティ、おまえまさか――」
王子の頭から角が生え、彼の姿はどんどんドラゴンに似た異形へと姿を変えて巨大化していく。
「我は魔王ゼストダークなり……」
「くそ! 奴ら、アバンティの体に魔王を降ろしやがったのか……」
「目障りな魔法使いめ。ここで朽ち果てるがよい――」
巨大な魔王の姿となったアバンティ王子は、師匠に向かって口から炎を吐き出した。
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