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9章:宣戦布告

25.謁見の間

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 私達は洗濯された元の服に着替えた後、謁見えっけんの間に案内された。

「この扉の先にアバンティ様はいらっしゃいます。私は中に入ることを許されていないので、ここでお待ちしておりますね」

「イリス、ありがとう」

「どうか……アバンティ様をよろしくお願いいたします」

「あぁ」

 師匠が頷くと、イリスさんは深々と頭を下げた。

「さて……あいつと会うのは久しぶりだな」

 師匠が金色の美しく装飾が施された扉を開けると、その中は綺麗な彫刻や絵画で飾られた広間があった。
 部屋の奥には真っ赤な髪の男性が玉座に座っている。
 その傍には頭からフードをすっぽりと被り顔を布で覆って隠している黒いローブの集団が立っていた。

 玉座の男性は、髪の色は違うけどホワイティ王子やポルタ王子と顔立ちが似ていた。
 でも王子たちと同じ青い瞳は光を失い、どこか濁っているように思える。

「おい、アバンティ! 戦争なんて馬鹿な真似はよせ!」

「……消えろ」

 師匠はアバンティ王子の冷たい声に、困惑しながらもさらに訴えた。

「どうしちまったんだ。俺がわからないのか?」

「“世界最強の魔法使い”ジュリアス・フェンサー……貴様のことは昔からずっと目障りだった」

「えっ……?」

「世界最強の魔法使いの称号は本来は俺が師から継承するはずだった。だが、後継者として選ばれたのは貴様だった」

「それは――」

「魔法の実力は俺の方が勝っていた。なのに、なぜ俺は選ばれなかった⁉」

「………」

 師匠は返す言葉を失ったように、黙って立っている。

「この国だってそうだ。本来は俺が次の王であるはずなのに。父上は国を三つに分けた。だから俺は父上に与えられた領地を一番発展させた。そうすればきっと後継者として認められると、そう信じていたのに――」

 王子の声に憎しみの色が混ざり、だんだん語気が強くなっていく。

「だが父上は、そのままこの国を三人で治めていけと言った。……なぜだ? 俺は一番頑張ったのになぜ俺を認めてくれない⁉」

「だからって、戦争を起こすのは間違ってるだろ! ホワイティやポルタ達のことはお前が守るんじゃなかったのか⁉」

「…………ホワイティ……ポルタ、うぅっ……!」

 王子の青い瞳に一瞬光が戻ったが、彼はうめき声をあげると両手でこめかみを押さえて苦しみ始める。

「おい、大丈夫か?」

 とっさに師匠は王子に近づこうとした。

 しかし、黒いローブの集団が立ちふさがり、全員でこちらに手をかざし何か呪文らしきものを唱えはじめた。

「おい、アバンティ!」

「…………」

 師匠の呼びかけに王子は何も答えない。

 黒いローブの集団がかざした手に黒いもやみたいなものが集まっていく。

「ルーク!」

 師匠が手をかざして叫ぶと彼の手から光り輝くカラスが飛び出して、ローブの集団に体当たりしてブーメランのようにこちらに戻ってきた。
 ルークの攻撃でフードと顔を覆っていた布が切り裂かれて、そこにいる者達の素顔が明らかになる。

 その顔はトカゲだったり、獣のようであったり、角が生えていたり……明らかに人ではない。

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 思わず悲鳴をあげた私に向かって、異形の集団が手をかざして再び呪文を唱えようとしてきた。

「メイ……!」

「えっ、師匠⁉」

 とっさに師匠は私を抱きかかえて、扉を開けて逃走した。

「ジュリアス様! 中でいったい何が……」

 扉の向こうで待っていたイリスが驚く。

「イリス! ここは危険だ、君も一緒に来い!」

「えっ!」

 師匠は私を抱きかかえたまま、彼女の手首を掴んで転送呪文を唱えた。

 私達の体を魔力の渦でできた光が包み、浮き上がるような感覚が一瞬したと思うと、周囲は見たことのある風景に変わっていた。

「ジュリィ! メイちゃん! 無事か⁉」

「ホワイティさん!」

 どうやら、私と師匠は転移魔法でホワイティ領のお城に戻ってきたらしい。

「おや。君は、爺やの――」

「はい、アガレス将軍の娘、イリスでございます!」

 イリスさんはホワイティ王子に騎士らしく敬礼した。

「イリスまで一緒だなんて。いったい何があったんだ、ジュリィ」

「すまん……アバンティを説得できなかった」

 師匠の表情から何かを察したのかホワイティ王子は、静かに問いかけた。

「ジュリィ……兄上は無事なのか?」

「あいつは魔族に操られている。……だが、魔族につけ入る隙を与えてしまった原因は俺にもあったんだ」

「それはどういうこと――」

 さらに深く問おうとした王子の声を遮るように伝令の声が響いた。

「王子! アバンティの騎士団がこちらに向かって進軍しているとの報告です!」

 その声に師匠は険しい顔をして、銀色の杖を握り締めた。
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