25 / 30
9章:宣戦布告
25.謁見の間
しおりを挟む
私達は洗濯された元の服に着替えた後、謁見の間に案内された。
「この扉の先にアバンティ様はいらっしゃいます。私は中に入ることを許されていないので、ここでお待ちしておりますね」
「イリス、ありがとう」
「どうか……アバンティ様をよろしくお願いいたします」
「あぁ」
師匠が頷くと、イリスさんは深々と頭を下げた。
「さて……あいつと会うのは久しぶりだな」
師匠が金色の美しく装飾が施された扉を開けると、その中は綺麗な彫刻や絵画で飾られた広間があった。
部屋の奥には真っ赤な髪の男性が玉座に座っている。
その傍には頭からフードをすっぽりと被り顔を布で覆って隠している黒いローブの集団が立っていた。
玉座の男性は、髪の色は違うけどホワイティ王子やポルタ王子と顔立ちが似ていた。
でも王子たちと同じ青い瞳は光を失い、どこか濁っているように思える。
「おい、アバンティ! 戦争なんて馬鹿な真似はよせ!」
「……消えろ」
師匠はアバンティ王子の冷たい声に、困惑しながらもさらに訴えた。
「どうしちまったんだ。俺がわからないのか?」
「“世界最強の魔法使い”ジュリアス・フェンサー……貴様のことは昔からずっと目障りだった」
「えっ……?」
「世界最強の魔法使いの称号は本来は俺が師から継承するはずだった。だが、後継者として選ばれたのは貴様だった」
「それは――」
「魔法の実力は俺の方が勝っていた。なのに、なぜ俺は選ばれなかった⁉」
「………」
師匠は返す言葉を失ったように、黙って立っている。
「この国だってそうだ。本来は俺が次の王であるはずなのに。父上は国を三つに分けた。だから俺は父上に与えられた領地を一番発展させた。そうすればきっと後継者として認められると、そう信じていたのに――」
王子の声に憎しみの色が混ざり、だんだん語気が強くなっていく。
「だが父上は、そのままこの国を三人で治めていけと言った。……なぜだ? 俺は一番頑張ったのになぜ俺を認めてくれない⁉」
「だからって、戦争を起こすのは間違ってるだろ! ホワイティやポルタ達のことはお前が守るんじゃなかったのか⁉」
「…………ホワイティ……ポルタ、うぅっ……!」
王子の青い瞳に一瞬光が戻ったが、彼はうめき声をあげると両手でこめかみを押さえて苦しみ始める。
「おい、大丈夫か?」
とっさに師匠は王子に近づこうとした。
しかし、黒いローブの集団が立ちふさがり、全員でこちらに手をかざし何か呪文らしきものを唱えはじめた。
「おい、アバンティ!」
「…………」
師匠の呼びかけに王子は何も答えない。
黒いローブの集団がかざした手に黒いもやみたいなものが集まっていく。
「ルーク!」
師匠が手をかざして叫ぶと彼の手から光り輝くカラスが飛び出して、ローブの集団に体当たりしてブーメランのようにこちらに戻ってきた。
ルークの攻撃でフードと顔を覆っていた布が切り裂かれて、そこにいる者達の素顔が明らかになる。
その顔はトカゲだったり、獣のようであったり、角が生えていたり……明らかに人ではない。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず悲鳴をあげた私に向かって、異形の集団が手をかざして再び呪文を唱えようとしてきた。
「メイ……!」
「えっ、師匠⁉」
とっさに師匠は私を抱きかかえて、扉を開けて逃走した。
「ジュリアス様! 中でいったい何が……」
扉の向こうで待っていたイリスが驚く。
「イリス! ここは危険だ、君も一緒に来い!」
「えっ!」
師匠は私を抱きかかえたまま、彼女の手首を掴んで転送呪文を唱えた。
私達の体を魔力の渦でできた光が包み、浮き上がるような感覚が一瞬したと思うと、周囲は見たことのある風景に変わっていた。
「ジュリィ! メイちゃん! 無事か⁉」
「ホワイティさん!」
どうやら、私と師匠は転移魔法でホワイティ領のお城に戻ってきたらしい。
「おや。君は、爺やの――」
「はい、アガレス将軍の娘、イリスでございます!」
イリスさんはホワイティ王子に騎士らしく敬礼した。
「イリスまで一緒だなんて。いったい何があったんだ、ジュリィ」
「すまん……アバンティを説得できなかった」
師匠の表情から何かを察したのかホワイティ王子は、静かに問いかけた。
「ジュリィ……兄上は無事なのか?」
「あいつは魔族に操られている。……だが、魔族につけ入る隙を与えてしまった原因は俺にもあったんだ」
「それはどういうこと――」
さらに深く問おうとした王子の声を遮るように伝令の声が響いた。
「王子! アバンティの騎士団がこちらに向かって進軍しているとの報告です!」
その声に師匠は険しい顔をして、銀色の杖を握り締めた。
「この扉の先にアバンティ様はいらっしゃいます。私は中に入ることを許されていないので、ここでお待ちしておりますね」
「イリス、ありがとう」
「どうか……アバンティ様をよろしくお願いいたします」
「あぁ」
師匠が頷くと、イリスさんは深々と頭を下げた。
「さて……あいつと会うのは久しぶりだな」
師匠が金色の美しく装飾が施された扉を開けると、その中は綺麗な彫刻や絵画で飾られた広間があった。
部屋の奥には真っ赤な髪の男性が玉座に座っている。
その傍には頭からフードをすっぽりと被り顔を布で覆って隠している黒いローブの集団が立っていた。
玉座の男性は、髪の色は違うけどホワイティ王子やポルタ王子と顔立ちが似ていた。
でも王子たちと同じ青い瞳は光を失い、どこか濁っているように思える。
「おい、アバンティ! 戦争なんて馬鹿な真似はよせ!」
「……消えろ」
師匠はアバンティ王子の冷たい声に、困惑しながらもさらに訴えた。
「どうしちまったんだ。俺がわからないのか?」
「“世界最強の魔法使い”ジュリアス・フェンサー……貴様のことは昔からずっと目障りだった」
「えっ……?」
「世界最強の魔法使いの称号は本来は俺が師から継承するはずだった。だが、後継者として選ばれたのは貴様だった」
「それは――」
「魔法の実力は俺の方が勝っていた。なのに、なぜ俺は選ばれなかった⁉」
「………」
師匠は返す言葉を失ったように、黙って立っている。
「この国だってそうだ。本来は俺が次の王であるはずなのに。父上は国を三つに分けた。だから俺は父上に与えられた領地を一番発展させた。そうすればきっと後継者として認められると、そう信じていたのに――」
王子の声に憎しみの色が混ざり、だんだん語気が強くなっていく。
「だが父上は、そのままこの国を三人で治めていけと言った。……なぜだ? 俺は一番頑張ったのになぜ俺を認めてくれない⁉」
「だからって、戦争を起こすのは間違ってるだろ! ホワイティやポルタ達のことはお前が守るんじゃなかったのか⁉」
「…………ホワイティ……ポルタ、うぅっ……!」
王子の青い瞳に一瞬光が戻ったが、彼はうめき声をあげると両手でこめかみを押さえて苦しみ始める。
「おい、大丈夫か?」
とっさに師匠は王子に近づこうとした。
しかし、黒いローブの集団が立ちふさがり、全員でこちらに手をかざし何か呪文らしきものを唱えはじめた。
「おい、アバンティ!」
「…………」
師匠の呼びかけに王子は何も答えない。
黒いローブの集団がかざした手に黒いもやみたいなものが集まっていく。
「ルーク!」
師匠が手をかざして叫ぶと彼の手から光り輝くカラスが飛び出して、ローブの集団に体当たりしてブーメランのようにこちらに戻ってきた。
ルークの攻撃でフードと顔を覆っていた布が切り裂かれて、そこにいる者達の素顔が明らかになる。
その顔はトカゲだったり、獣のようであったり、角が生えていたり……明らかに人ではない。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず悲鳴をあげた私に向かって、異形の集団が手をかざして再び呪文を唱えようとしてきた。
「メイ……!」
「えっ、師匠⁉」
とっさに師匠は私を抱きかかえて、扉を開けて逃走した。
「ジュリアス様! 中でいったい何が……」
扉の向こうで待っていたイリスが驚く。
「イリス! ここは危険だ、君も一緒に来い!」
「えっ!」
師匠は私を抱きかかえたまま、彼女の手首を掴んで転送呪文を唱えた。
私達の体を魔力の渦でできた光が包み、浮き上がるような感覚が一瞬したと思うと、周囲は見たことのある風景に変わっていた。
「ジュリィ! メイちゃん! 無事か⁉」
「ホワイティさん!」
どうやら、私と師匠は転移魔法でホワイティ領のお城に戻ってきたらしい。
「おや。君は、爺やの――」
「はい、アガレス将軍の娘、イリスでございます!」
イリスさんはホワイティ王子に騎士らしく敬礼した。
「イリスまで一緒だなんて。いったい何があったんだ、ジュリィ」
「すまん……アバンティを説得できなかった」
師匠の表情から何かを察したのかホワイティ王子は、静かに問いかけた。
「ジュリィ……兄上は無事なのか?」
「あいつは魔族に操られている。……だが、魔族につけ入る隙を与えてしまった原因は俺にもあったんだ」
「それはどういうこと――」
さらに深く問おうとした王子の声を遮るように伝令の声が響いた。
「王子! アバンティの騎士団がこちらに向かって進軍しているとの報告です!」
その声に師匠は険しい顔をして、銀色の杖を握り締めた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
辺境の村の少年たちが世界を救うまでの長いお話
川上とむ
ファンタジー
戦争孤児として辺境の村で育ったルナとウォルスはある日、謎のペンダントを見つける。その数日後、村は謎の組織に襲撃されてしまう。 彼らは村を訪れていた商人に助けられるも、その正体とは……?
浮遊大陸を舞台に繰り広げられる、王道ファンタジー!
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる