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2章:千年キノコ
8.シェルとの再会
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師匠がかけてくれた加速の魔法は、少し走りやすくなる程度の力みたいだけど、まったく知らない森の中を走るのに大きな助けになった。
師匠もすぐ隣で杖を光らせて明かりにしながら、森の奥に向かって駆けていく。
すると、ガサガサと草をかきわけるような音をさせながら、後ろから同じように誰かが走ってきた。向こうも二人みたいだ。
「ねぇ、ちょっとあなた達! もしかして悲鳴が聞こえたんですか?」
立ち止まって声のした方に師匠が杖を向けると、真っ赤なローブと金髪が光に照らされた。
その隣には一緒に来たと思われる、黒髪の活発そうな感じの女の子がランタンを持って立っている。
「そうだ! キミ達もか……って、オマエ、あの時の金髪女!」
走ってきたのはギルドで知り合った錬金術師のシェルだ。隣にいる黒髪の女の子は姉のサーシャだと名乗った。
「メイ! それにオッサン!」
「だからオッサンじゃねぇっての!」
師匠が怒鳴ったその時、また奥から悲鳴が聞こえた。
「あっちか!」
「師匠! すぐそこです、急ぎましょう!」
森の奥の少し開けた場所へたどり着くと、大きな狼が複数いた。どうやらここは狼の縄張りらしい。
「師匠、あそこに子どもが!」
狼の視線の先には、恐怖で目を見開いた幼い男の子が月明かりに照らされていた。
「ちっ――」
師匠が舌打ちして前に出て狼に杖を振りかざそうとしたその時、それよりも素早くサーシャとシェルの姉妹が動いた。
「シェル! 援護をお願い!」
「任せてください! 紅蓮の炎、紅き凶弾となりて降り注げ! ファイアーアロー!」
シェルが唱えた魔法は狼だけを正確に狙い、見事に命中させる。
そして飛び出したサーシャは、素早い身のこなしで狼の鼻先を蹴り飛ばし、炎をかいくぐって子どもに近づき抱きかかえた。
「バカ野郎、森の中でそんなデカイ火使うな! 火事になるぞ!」
「ちゃんと命中させたから問題ありません! オッサンこそ危ないから引っ込んでなさい!」
口答えをするシェルに対し、師匠が大声を上げる。
「まだ残ってるぞ、油断するな!」
倒し損ねた狼が、逃げ場を求めて大きな口を開けてこっちへ向かってきた。
「あ……」
逃げなきゃダメなのに足がすくんで動かない。
巨大な狼が鋭い牙を見せ、私に飛び掛ってきて――
「――ルーク!」
師匠が私を庇いながら、そう叫ぶと同時に、鳥の形をした輝く何かが飛び出して私の目の前で狼に体当たりした。
狼は弾かれてギャンと悲鳴を上げて地面に転がる。
「メイ、大丈夫か?」
「あ、はい……ありがとうございます」
狼に体当たりした鳥は、そのまま他の狼達にも突撃して暗闇にキラキラと光の軌跡を描きながらこちらへ戻ってきた。
「へへ、メイちゃん。大丈夫かい?」
「え、えぇ。ありがと……鳥さんがしゃべった⁉」
目の前でキラキラと輝く真っ黒な鳥は、先端に銀色のグラデーションがかかった黒い翼を広げながら自己紹介した。
「俺、ルーク。お嬢ちゃん瞳がとってもキュートだな。なぁなぁ、カラスって好き? よかったら今度俺とデートしない?」
「ルーク……あなたカラスなの? 綺麗な羽ね」
「先っぽが銀色なのがオシャレだろう? よかったら触ってみる?」
「ルーク、無駄話するな!」
「へいへい……んじゃ、メイちゃんまたな~」
ルークと名乗ったカラスは、師匠の声に反応して溶けるように暗闇に消えた。
「あの鳥は、オッサンのペットか何かですか?」
「だからオッサンでは――まぁ、そんな感じだ」
狼たちはすっかり戦意を失い、森のさらに奥の方へと逃げていった。
「……うっかり狼の縄張りに足を踏み入れてしまったのね。でも、もう大丈夫よ」
サーシャが抱きかかえていた小さな男の子に話しかけると、やっと自分が助かったことを理解したのか、彼は激しく泣きだした。
泣きじゃくる男の子を皆で何とかなだめて、何があったのかを聞き出した。
なんでも家族でキノコ採りにきて、親とはぐれて森の中をうろうろしてしまい、気が付けば狼に森の奥へと追い込まれてしまったのだという。
「――なるほど。きっと親も心配して探してるだろうから、とりあえず森の入り口に戻って、この子の親を探すとするか」
「そうですね」
私達は男の子を連れて、入り口の方へと引き返すことにした。
師匠もすぐ隣で杖を光らせて明かりにしながら、森の奥に向かって駆けていく。
すると、ガサガサと草をかきわけるような音をさせながら、後ろから同じように誰かが走ってきた。向こうも二人みたいだ。
「ねぇ、ちょっとあなた達! もしかして悲鳴が聞こえたんですか?」
立ち止まって声のした方に師匠が杖を向けると、真っ赤なローブと金髪が光に照らされた。
その隣には一緒に来たと思われる、黒髪の活発そうな感じの女の子がランタンを持って立っている。
「そうだ! キミ達もか……って、オマエ、あの時の金髪女!」
走ってきたのはギルドで知り合った錬金術師のシェルだ。隣にいる黒髪の女の子は姉のサーシャだと名乗った。
「メイ! それにオッサン!」
「だからオッサンじゃねぇっての!」
師匠が怒鳴ったその時、また奥から悲鳴が聞こえた。
「あっちか!」
「師匠! すぐそこです、急ぎましょう!」
森の奥の少し開けた場所へたどり着くと、大きな狼が複数いた。どうやらここは狼の縄張りらしい。
「師匠、あそこに子どもが!」
狼の視線の先には、恐怖で目を見開いた幼い男の子が月明かりに照らされていた。
「ちっ――」
師匠が舌打ちして前に出て狼に杖を振りかざそうとしたその時、それよりも素早くサーシャとシェルの姉妹が動いた。
「シェル! 援護をお願い!」
「任せてください! 紅蓮の炎、紅き凶弾となりて降り注げ! ファイアーアロー!」
シェルが唱えた魔法は狼だけを正確に狙い、見事に命中させる。
そして飛び出したサーシャは、素早い身のこなしで狼の鼻先を蹴り飛ばし、炎をかいくぐって子どもに近づき抱きかかえた。
「バカ野郎、森の中でそんなデカイ火使うな! 火事になるぞ!」
「ちゃんと命中させたから問題ありません! オッサンこそ危ないから引っ込んでなさい!」
口答えをするシェルに対し、師匠が大声を上げる。
「まだ残ってるぞ、油断するな!」
倒し損ねた狼が、逃げ場を求めて大きな口を開けてこっちへ向かってきた。
「あ……」
逃げなきゃダメなのに足がすくんで動かない。
巨大な狼が鋭い牙を見せ、私に飛び掛ってきて――
「――ルーク!」
師匠が私を庇いながら、そう叫ぶと同時に、鳥の形をした輝く何かが飛び出して私の目の前で狼に体当たりした。
狼は弾かれてギャンと悲鳴を上げて地面に転がる。
「メイ、大丈夫か?」
「あ、はい……ありがとうございます」
狼に体当たりした鳥は、そのまま他の狼達にも突撃して暗闇にキラキラと光の軌跡を描きながらこちらへ戻ってきた。
「へへ、メイちゃん。大丈夫かい?」
「え、えぇ。ありがと……鳥さんがしゃべった⁉」
目の前でキラキラと輝く真っ黒な鳥は、先端に銀色のグラデーションがかかった黒い翼を広げながら自己紹介した。
「俺、ルーク。お嬢ちゃん瞳がとってもキュートだな。なぁなぁ、カラスって好き? よかったら今度俺とデートしない?」
「ルーク……あなたカラスなの? 綺麗な羽ね」
「先っぽが銀色なのがオシャレだろう? よかったら触ってみる?」
「ルーク、無駄話するな!」
「へいへい……んじゃ、メイちゃんまたな~」
ルークと名乗ったカラスは、師匠の声に反応して溶けるように暗闇に消えた。
「あの鳥は、オッサンのペットか何かですか?」
「だからオッサンでは――まぁ、そんな感じだ」
狼たちはすっかり戦意を失い、森のさらに奥の方へと逃げていった。
「……うっかり狼の縄張りに足を踏み入れてしまったのね。でも、もう大丈夫よ」
サーシャが抱きかかえていた小さな男の子に話しかけると、やっと自分が助かったことを理解したのか、彼は激しく泣きだした。
泣きじゃくる男の子を皆で何とかなだめて、何があったのかを聞き出した。
なんでも家族でキノコ採りにきて、親とはぐれて森の中をうろうろしてしまい、気が付けば狼に森の奥へと追い込まれてしまったのだという。
「――なるほど。きっと親も心配して探してるだろうから、とりあえず森の入り口に戻って、この子の親を探すとするか」
「そうですね」
私達は男の子を連れて、入り口の方へと引き返すことにした。
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