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1章:私の師匠は世界一

3.弟子の気持ち

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 あれから一週間が経った。
 その間、私は授業が終わった後に毎日、師匠の家に通っていた。

 スノウホワイト魔法学校のカリキュラムはかなり自由度が高くて、一週間にどの授業を受けるかを個々で決めることができる。

 おかげで師匠のところへ通う時間は十分取れるから、いろいろ教えてもらえるはずだったんだけど。

「このままで本当に、大丈夫なのかなぁ……」

 師匠の家でやったことの大半は庭にある薬草の世話だったり、だらしない彼の代わりに掃除や洗濯をしたりと雑用ばかりだった気がする。

 そんな状況だから、まだ世界一の魔法使いの弟子になったという実感がいまいちわかない。

 おかしいなぁ。落ちこぼれの私だけど実はすごい能力があって、その力をさらに高める為にわざわざ弟子入りしたはずなのに。
 この一週間で高まったのは家事能力だけな気がする。

 「インフィニティ」という謎の能力についても「またその内話すから」と、うやむやにされてしまって結局教えてもらえずにいるし。

 目の前の師匠はそんな弟子の気持ちも知らずに、だらしない表情で大あくびして、頭に手を当てている。

「ふぁぁぁ~。くそ、昨日酒飲むんじゃなかったな。頭いてぇ……」
 
 整った顔をしているから、ちゃんとしていたらきっとカッコイイはずなんだけどなぁ。
 
「――さて。今日は、スノウホワイト魔法学校の初等科に行くから、助手としてメイも付いて来い」

「初等科ですか?」

「あぁ、今日は子ども達に魔法を教えに行く」

 スノウホワイト魔法学校の初等科は、魔法の才能がある子どもを集めた英才教育の場として注目を集めているらしい。

 私が生まれ育った地方には魔法を専門に教えてくれる学校なんてなくて、子どもが魔法を勉強したいなら個別で教えてくれる魔法使いを探すしかなかった。
 
 ――ふと、幼い頃に出会った、魔法使いのお爺さんとその弟子だという少年のことを思い出した。
 
 私の住んでいた村に突然二人はやってきて、村に現れた巨大な魔物を退治してくれたのだ。
 目の前で魔物に襲われそうになった私の元へ、風のような速さで駆け寄って、杖を振りかざした頼もしい魔法使い。

 幼い頃の話なので顔は思いだせないけど、魔物から私を庇うように立っていた少年の小さな背中は、今でもはっきりと思い出せる。

 あの時、私もあの人達みたいな魔法使いになりたいって思ったんだ。

「……おい、メイ。どうした。急にぼーっとして」

「――あ、すみません。えっと、初等科に何しに行くんでしたっけ」

「魔法を教えに行くって言ったろ。あの校長に頼まれててな。特別講師として定期的に教鞭をとってるんだよ」

「へぇ。師匠って実はすごいんですね!」

「実はって。メイは俺のことなんだと思ってるんだ……」

 師匠は呆れた表情をしながらも、正装に着替えて仕度をしている。
 髪を整えてマントを羽織って銀色の杖を腰に差せば、前に校長室で出会った凛々しい世界一の魔法使い「ジュリアス・フェンサー」の姿が出来上がった。

 うん、やっぱりちゃんとしていたら師匠は格好良い。

 ――もしかして、これは最強の彼の魔法を間近で見られるチャンスなのでは。だとしたらすごく勉強になる気がする。

 そうか、だから師匠は私を授業に連れて行ってくれるんだ。
 私は期待に胸を膨らませた。
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