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育っていく恋心
24話:老婆の来訪
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城下町の復興が完了した頃、意外な人が私を訪ねてきた。
私がエドワード王子に婚約破棄された日に王宮で出会った、占い師の老婆だ。
あの時は老婆の荷物を持って一緒に階段を登って、そのお礼に占ってもらったっけ。
「久しぶりだねぇ、お嬢さん」
「お婆さん、どうしてここに⁉」
森の奥はアリステアさんが霧で覆い隠しているはずなのに、どうやってこの魔王の城に来たのかしら。
そもそも、私がここに住んでいるなんてこの人は知らないはずなのに。
私は驚きつつも、老婆を部屋へ招き入れた。
「なに、たいした用事じゃないけどね。アタシの占いの結果が当たったかどうか気になってねぇ」
老婆から「指輪を何があっても肌身離さず持っているように」と忠告されたことを思い出した。
言われなくてもそのつもりではあったけども、その通りにしていたおかげで今があるのは事実だ。
「それでどうだい? その指輪は未来を切り開いてくれたかい?」
「えぇ。あの時は絶望して自分が幸せになれるなんて思えませんでしたけども……指輪のおかげで幸せな暮らしを手に入れました」
「そうかい、それはよかった。――おや、これは……」
老婆は私の右手をじっと見つめている。何かおかしなことがあったのだろうか。
「お嬢さん、ずいぶん指輪の力を使ったんだねぇ。いいかい、大事なことだからよくお聞き。この指輪はあと一回しか使えないよ」
「えぇっ⁉あと一回……」
私はおそるおそる老婆にたずねた。
「あと一回使ったらどうなるんですか?」
「指輪は粉々になって消えてしまうだろうね。当然そうなると力は使えなくなるし元に戻す方法は無い。だから最後の一回はよく考えて使うんだよ」
「占いでそんなことまでわかるんですか⁉」
私の問いにお婆さんはフフッと笑って答えた。
「いいや、これは占いじゃない。その指輪を作ったのがアタシだから知ってるのさ」
「作ったって、お婆さん、あなたはいったい……」
「それはご想像にお任せするよ。さて、アタシは帰るとするかねぇ。お嬢さんの幸せを願っているよ」
老婆は私の問いをはぐらかすと、転移魔法を使って光に包まれて消えてしまった。
――指輪があと一回しか使えない。
老婆が言った事が本当かどうかはわからない。
だけど少なくとも私の未来を当てたり、この森の中を通り抜けて魔王の城までやってきた時点で、只者ではないと思う。
「もし、指輪が無くなったら私……」
ふと、以前に大浴場の脱衣所でキールさんが言っていた言葉が頭をよぎった。
“指輪さえ奪ってしまえば、聖女などただの小娘にすぎん”
――そう、私はもともと婚約破棄されて王宮を追われた、ただの小娘でしかないのよね。
たまたま魔王ガルトマーシュを封印できる指輪の力があったから、彼と取引することができて聖女としてここに住めることになっただけだし。
だとしたら、指輪が無くなったら皆は私をどう思うのだろう。
聖女じゃない自分でも皆は受け入れてくれるのだろうか。
そして、ただの小娘になった私でもガルや皆は変わらず接してくれるのだろうか……?
延々とそのことばかり考えていたら、いつの間にかずいぶん時間が経っていたらしい。
コンコンと扉を叩く音で、我に返る。
「シエラ、大丈夫か?」
ドアを開けると、そこには心配そうな表情を浮かべるガルの姿があった。
「見慣れない老婆がシエラを訪ねてきたと、ハッピーから報告があったんで気になって来てみたんだが……」
「えぇ、王宮で会ったお婆さんが私を訪ねてきたの」
「王宮だと? 何もされなかったか?」
王宮と聞いてガルは眉間にしわを寄せた。
条約を結んではいるものの、王国とは友好関係とは言いがたいので油断はできないのだろう。
「大丈夫よ、単に私が元気にしているか気になって訪ねて来ただけ。少しお話ししたら帰っちゃったわ」
「そうか……ならいいんだが」
まさか指輪の力があと一回しか使えないと老婆に言われたなんて、言えるわけがない。
「ねぇ、ガル」
「どうした?」
……もし私が聖女じゃなくなっても、ここに居ていいかしら?
――そう聞きたかったけど、もし私の望む答えが返ってこなかったらと思うと、怖くて結局言えなかった。
「ううん、なんでもない」
別にそんなこと聞かなくても、指輪の力を使わないように気をつければいいだけよね。
そうすれば、ずっとガルや皆と一緒に居られるんだから。
私はそこに確かに有ることを確認するように、鈍く光る指輪を撫でたのだった。
私がエドワード王子に婚約破棄された日に王宮で出会った、占い師の老婆だ。
あの時は老婆の荷物を持って一緒に階段を登って、そのお礼に占ってもらったっけ。
「久しぶりだねぇ、お嬢さん」
「お婆さん、どうしてここに⁉」
森の奥はアリステアさんが霧で覆い隠しているはずなのに、どうやってこの魔王の城に来たのかしら。
そもそも、私がここに住んでいるなんてこの人は知らないはずなのに。
私は驚きつつも、老婆を部屋へ招き入れた。
「なに、たいした用事じゃないけどね。アタシの占いの結果が当たったかどうか気になってねぇ」
老婆から「指輪を何があっても肌身離さず持っているように」と忠告されたことを思い出した。
言われなくてもそのつもりではあったけども、その通りにしていたおかげで今があるのは事実だ。
「それでどうだい? その指輪は未来を切り開いてくれたかい?」
「えぇ。あの時は絶望して自分が幸せになれるなんて思えませんでしたけども……指輪のおかげで幸せな暮らしを手に入れました」
「そうかい、それはよかった。――おや、これは……」
老婆は私の右手をじっと見つめている。何かおかしなことがあったのだろうか。
「お嬢さん、ずいぶん指輪の力を使ったんだねぇ。いいかい、大事なことだからよくお聞き。この指輪はあと一回しか使えないよ」
「えぇっ⁉あと一回……」
私はおそるおそる老婆にたずねた。
「あと一回使ったらどうなるんですか?」
「指輪は粉々になって消えてしまうだろうね。当然そうなると力は使えなくなるし元に戻す方法は無い。だから最後の一回はよく考えて使うんだよ」
「占いでそんなことまでわかるんですか⁉」
私の問いにお婆さんはフフッと笑って答えた。
「いいや、これは占いじゃない。その指輪を作ったのがアタシだから知ってるのさ」
「作ったって、お婆さん、あなたはいったい……」
「それはご想像にお任せするよ。さて、アタシは帰るとするかねぇ。お嬢さんの幸せを願っているよ」
老婆は私の問いをはぐらかすと、転移魔法を使って光に包まれて消えてしまった。
――指輪があと一回しか使えない。
老婆が言った事が本当かどうかはわからない。
だけど少なくとも私の未来を当てたり、この森の中を通り抜けて魔王の城までやってきた時点で、只者ではないと思う。
「もし、指輪が無くなったら私……」
ふと、以前に大浴場の脱衣所でキールさんが言っていた言葉が頭をよぎった。
“指輪さえ奪ってしまえば、聖女などただの小娘にすぎん”
――そう、私はもともと婚約破棄されて王宮を追われた、ただの小娘でしかないのよね。
たまたま魔王ガルトマーシュを封印できる指輪の力があったから、彼と取引することができて聖女としてここに住めることになっただけだし。
だとしたら、指輪が無くなったら皆は私をどう思うのだろう。
聖女じゃない自分でも皆は受け入れてくれるのだろうか。
そして、ただの小娘になった私でもガルや皆は変わらず接してくれるのだろうか……?
延々とそのことばかり考えていたら、いつの間にかずいぶん時間が経っていたらしい。
コンコンと扉を叩く音で、我に返る。
「シエラ、大丈夫か?」
ドアを開けると、そこには心配そうな表情を浮かべるガルの姿があった。
「見慣れない老婆がシエラを訪ねてきたと、ハッピーから報告があったんで気になって来てみたんだが……」
「えぇ、王宮で会ったお婆さんが私を訪ねてきたの」
「王宮だと? 何もされなかったか?」
王宮と聞いてガルは眉間にしわを寄せた。
条約を結んではいるものの、王国とは友好関係とは言いがたいので油断はできないのだろう。
「大丈夫よ、単に私が元気にしているか気になって訪ねて来ただけ。少しお話ししたら帰っちゃったわ」
「そうか……ならいいんだが」
まさか指輪の力があと一回しか使えないと老婆に言われたなんて、言えるわけがない。
「ねぇ、ガル」
「どうした?」
……もし私が聖女じゃなくなっても、ここに居ていいかしら?
――そう聞きたかったけど、もし私の望む答えが返ってこなかったらと思うと、怖くて結局言えなかった。
「ううん、なんでもない」
別にそんなこと聞かなくても、指輪の力を使わないように気をつければいいだけよね。
そうすれば、ずっとガルや皆と一緒に居られるんだから。
私はそこに確かに有ることを確認するように、鈍く光る指輪を撫でたのだった。
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