上 下
21 / 28
王国へ

21話:メアリーとの再会

しおりを挟む
「ガル様、聖女殿。お見事でございました」

「うむ」

 キールさんがうやうやしく私達に声をかけると、ガルは軽くうなずいて静かに応えた。

 ――これで平和になるのかしら。
 まぁ、でも仮に王国軍がまだ戦う気だったとしても、ガルがいる限り大丈夫そうだ。
 彼があんなに強いなんて知らなかった。
 でも、そんな彼でも、私の指輪には勝てないのよね……もしかして聖女って結構、責任重大なのでは。

 私の思いを知ってか知らずか、指輪はただ鈍い光を放つのだった。

 大臣から条約文の書類を受け取ってガルとキールさんが内容を確認していると、扉をノックする音がした。

「失礼します。お茶をお持ちいたしました」

 緊張した声で女性がティーセットの乗ったワゴンを押して入ってくる。
 広間の惨状は皆に伝わっているはずなのに、こんな状況下でもお茶を用意するのね。

 ちなみに先ほど私に股間を蹴られて白目をむいてしまった王子は、衛兵たちが回収していったのでこの場に残っているのは私達と大臣と国王だけだ。

 その時、ワゴンを押していた女性が急に大声をあげた。

「シエラ様……! シエラ様ではありませんか!」

「メアリー⁉」

「やはりシエラ様ですのね!」

 メアリーは私の元へ駆け寄ろうとした。
 しかしその時、ガルが吹き飛ばした屋根の残骸がミシッと音を立てて崩れ落ちてきた。

「キャァァァァッ!」

 視界に一瞬白い何かが映った気がして、ぶわっと風圧が顔にかかる。

「危ないところでしたね、お嬢さん」

 キールさんがメアリーを抱きかかえて立っていた。
 先ほど視界に映ったのはおそらく彼の白い翼だったのだろう。

「お怪我は?」

「ありません……ありがとうございます」

「キールさん! ありがとう!」

「いえ。別にたいしたことではありませんよ」

 私も礼を言うと、キールさんは涼しい顔でメアリーを降ろしてまるで何事も無かったかのように再び書類の確認作業に戻った。

「さすがだな、キール」

「あの程度どうということはございません。それにガル様もお気づきになられたでしょうに……」

「キールが動くのが見えたのでな。それなら大丈夫だと思った」

「さ、さようでございますか」

 私たちにお礼を言われた時とはうって変わって、口元がゆるんで照れくさそうな顔をしている。
 やはり主君に褒められるのはうれしいのだろう。

 残骸が落ちた音を聞きつけて衛兵たちが再びやってきたので、国王は目の前の残骸を片付けるように命じた。

 その様子を横目で見ながら、メアリーは私に小声でたずねてきた。

「それにしても、シエラ様はどうしてあの方々と一緒にいらっしゃるのですか? あの凛々しい殿方は魔王……ですわよね?」

「えぇ、そうなのよ」

「ご実家にお戻りになるとお聞きしておりましたのに、魔王と行動を共にしているなんて。いったい何があったのですか?」

「えっ、それはちょっと――あっちで話しましょう」

 さすがにガルや国王の前で説明するのは、いろいろと気まずい。
 私は彼女を広間の外に連れて行き、王子に暗殺されかけたことや森で魔王に出会って魔物たちと暮らすようになったことを話した。

「……それは恐ろしい目に遭われたのですね」

「えぇ、王子が私を口封じに殺すつもりだったと知った時は絶望したわ」

「でも今のシエラ様は、王宮にいらっしゃる時よりもお顔が活き活きとしていらっしゃいますわ。きっと良いご縁でしたのね」

「えぇ。ガルも優しいし、魔物たちも皆優しくてとても良くしてくれるの。だから王国軍が森に火を放ったことが許せなくて――」

 王国が今までにガルたちにしてきた仕打ちを話すと、メアリーは衝撃を受けたようだった。
 彼女は、私の婚約破棄の騒動を知っている。
 だから王家に対してもともと不信感はもっていたのだろう。
 そこへ今回のいきさつを聞いたメアリーは、居ても立ってもいられないという表情で私に訴えた。

「……なんと酷いことをするのでしょう。そんな恐ろしい企てをする王家にお仕えすることに、私はつくづく嫌気がさしました! シエラ様、どうかガルトマーシュ様のお城に私も連れて行ってくださいませんか?」

「まぁ! メアリーも一緒に来てくれるの?」

「えぇ。再び侍女としてお仕えさせてくださいませ!」

 広間に戻ってガルにメアリーの希望を伝えると、彼は目を丸くしつつも承諾してくれた。

「魔王の城で暮らしたいなんて、変わったことを言う女はシエラだけだと思ったんだが……俺たちはかまわないぞ」

「ありがとうございます、ガルトマーシュ様!」

「ガルでいい。配下の者たちも皆、ガル様と呼ぶからな」

「あら、うふふ。シエラ様のお話通り、本当に気さくなお人柄ですのね。よろしくお願いいたします。魔王様のお城での生活、楽しみですわ……」

 そう言いながらメアリーは、さりげなくキールさんの方を見て、目を潤ませている。
 キールさんはガルとはまた違うタイプの美形だ。
 そこに加えて、先ほど命を救われたばかりとなれば、そういう反応になるのもわからなくは無い。

 私はメアリーの耳元でこっそりささやく。

「……もしかして、キールさんが目当てかしら?」

「ち、ちがいますっ! 私はずっとシエラ様のことを案じておりました!」

「ふふ、冗談よ。よろしくね、メアリー」

 魔王の城での暮らしがさらに楽しくなりそうな予感に、私は自然と頬がゆるむのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】異世界の記憶を思い出した幼馴染で自称(大)聖女の姉が「魔王退治に行く!」と言い出しました。

野良豆らっこ
ファンタジー
彼女が家にやってきたのは、僕が5歳のころでした。 ゴブリン退治を依頼した冒険者のパーティが、道中で襲われた馬車を発見。その生き残りだったそうです。 彼女が覚えているのは自分の名前だけ。 家名もわからない。 事件のショックでそれまでの記憶を失っていたのです。 「大きな街のギルドにも報告しておく」 という話だったのですが、その後は音沙汰なし。 しかも「そのうち迎えに来るだろう」と思われていたので、家名がないまま。 今ではすっかり村の一員です。 そんなある日のこと。 15歳を迎えた彼女は、成人の儀式で『聖女』のクラスに選ばれてしまいました。 それどころか、 「トール、私、前世の記憶を思い出したわ! 魔王を倒す使命を帯びて、この世界に降臨? 異世界転生したのよっ!!」 うん、姉さん早くどうにかしないと。 転生した聖女のくせにダメな子の姉を、転生者じゃないけど一生懸命な弟がツッコミとサポートしまくる物語です お姉ちゃん子に育ってしまった弟は、姉のためなら魔王も倒せ……る?

処理中です...