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season3
161話:マッスル草
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それはワタクシが魔界の植物について書かれた本を手に入れたことから始まりました。
「――マッスル草ですか。実に興味深い」
その草を食べた者は筋力が増加し、背が伸びる。
本には船乗りの格好のパイプを咥えた男が、緑色の草らしきものを食した後に力こぶを誇示している挿絵が描かれています。
どうやら、この緑色の草がマッスル草のようです。
「この草があれば、ワタクシの背も伸びるんでしょうか……」
ふと、リビングに立てかけてある鏡の中の自分と目が合い、つい物思いにふけってしまいました。
知性を宿した宝石のような青い瞳に、この世の美をすべて集めたような気品のある国宝級の顔面。実は神が紡いだ黄金の糸なのではないかと思うような美しくしなやかな金髪。触れたら壊れてしまいそうな繊細な体つきに、陶器のように滑らかな肌が自慢の華奢な手足。
絶世の美青年と言っても過言ではないパーフェクトなワタクシですが、理想にはあと少し身長が足りないのです。
できればあと10cmは伸ばしたい。
「なんとかマッスル草を入手したいですねぇ……」
詳細を確かめようと次のページをめくると、残念ながら途中で破れて読めなくなっていました。
もしかすると、詳細を秘匿しておきたい誰かが破いたのかもしれません。
これはますます効能が期待できそうです。
幸い、魔界のとある洞窟に自生していると書かれていましたので場所は特定できました。
「じゃあ、出かけましょうかね」
「出かけるのか?」
「アレク! いつの間に!」
本に夢中で兄のアレクサンドルがリビングに入ってきたことに気が付かなかったようです。
彼が覗き込もうとしたので、ワタクシは慌てて本を閉じました。
彼に「背を伸ばしたいからマッスル草を採りに行く」なんて恥ずかしくて言えるわけがありません。
だからワタクシは嘘をつきました。
「……ちょっと薬草を採りに魔界に行ってきます」
「よし面白そうだから、俺も一緒に行く!」
できれば独りでこっそり行きたかったんですが、見つかってしまった以上は仕方ありません。
こうしてワタクシ達は探検家のように背中にリュックサックを背負って、マッスル草があるという洞窟へとやって来たのです。
光の魔術で足元を照らしながら洞窟内を覗き込むと、誰かが頻繁に出入りしているのかずいぶん歩きやすい雰囲気でした。
だから、その先に仕掛けがあるなんて思いもしなかったのです。
「危ねぇ!」
アレクがワタクシの背負っていたリュックサックをぐいっと引っ張ったので、後ろに尻餅をつきました。
すると、目の前で左右の壁から鋭い槍が突き出て、またすぐ引っ込んだのです。
「ひいっ、なんですかこれ……」
「侵入者対策の罠じゃねぇかな。ほら、この地面の色が変わってる部分を踏むと作動するようになってるみたいだ」
アレクが指し示した地面は、確かにそこだけ不自然に盛り上がっていて色も違っています。
「なるほど……」
罠が仕掛けてあるということは、価値がある物を隠しているに違いありません。
この奥にマッスル草があるということをワタクシは確信しました。
「なぁ、ジェル。本当にただの薬草を採りにきただけなのか? 帰ったほうがいいんじゃねぇか?」
「――何言ってるんですか。ほら、さっさと先に進みますよ!」
「おい、そんなに急ぐと危険だぞ!」
「大丈夫ですよ……あっ!」
急に足元がパカッと割れて地面が無くなる感覚がしました。
落ちる……と思った瞬間、とっさに腕をアレクが掴んでくれたので底には落ちずにすみましたが、ワタクシの体は彼の手に支えられた状態で宙ぶらりんになっています。
「はぁ……助かりました」
「いいか、今からお兄ちゃんが引き上げるから、絶対に下を見るんじゃないぞ!」
――下? 下に何があるというのでしょうか。
ほんのちょっと視線を底に向けてみると、なにやら黒く長いものがたくさん動いているようです。
「なんでしょうねぇ……ひぃっ!」
目をこらして見てみると、うじゃうじゃと大量の蛇がいて、獲物を待ち構えるかのようにこちらに鎌首をもたげているではありませんか。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!! アレク! 早く! 早く引き上げてください!!!!」
「おい、暴れるな!」
見てはいけないと思いつつも、それが何であるか認識するまでじっくり見てしまう己の探究心の深さが恨めしい。
やっとのことで引き上げられたワタクシは、大きく息を吐き出しました。
「あぁ……びっくりしました」
「それはこっちのセリフだ。なぁ、本当のことを言ってくれよ。こんな危険な罠がある洞窟なんて絶対おかしいだろ。この先に何があるんだよ?」
アレクの真剣な表情に観念したワタクシは、ついにマッスル草という背が伸びる不思議な草のことを白状しました。
「……なるほど。その草があれば、俺も180cm超えも夢じゃねぇのかな。いいなぁ、俺も食いたい」
アレクはワタクシよりも10cmも背が高いくせにまだ伸びようというのですか。なんて贅沢な。
しかし、彼が興味をもったおかげで、このまま先へ進むことになったのには助かりました。
「――マッスル草ですか。実に興味深い」
その草を食べた者は筋力が増加し、背が伸びる。
本には船乗りの格好のパイプを咥えた男が、緑色の草らしきものを食した後に力こぶを誇示している挿絵が描かれています。
どうやら、この緑色の草がマッスル草のようです。
「この草があれば、ワタクシの背も伸びるんでしょうか……」
ふと、リビングに立てかけてある鏡の中の自分と目が合い、つい物思いにふけってしまいました。
知性を宿した宝石のような青い瞳に、この世の美をすべて集めたような気品のある国宝級の顔面。実は神が紡いだ黄金の糸なのではないかと思うような美しくしなやかな金髪。触れたら壊れてしまいそうな繊細な体つきに、陶器のように滑らかな肌が自慢の華奢な手足。
絶世の美青年と言っても過言ではないパーフェクトなワタクシですが、理想にはあと少し身長が足りないのです。
できればあと10cmは伸ばしたい。
「なんとかマッスル草を入手したいですねぇ……」
詳細を確かめようと次のページをめくると、残念ながら途中で破れて読めなくなっていました。
もしかすると、詳細を秘匿しておきたい誰かが破いたのかもしれません。
これはますます効能が期待できそうです。
幸い、魔界のとある洞窟に自生していると書かれていましたので場所は特定できました。
「じゃあ、出かけましょうかね」
「出かけるのか?」
「アレク! いつの間に!」
本に夢中で兄のアレクサンドルがリビングに入ってきたことに気が付かなかったようです。
彼が覗き込もうとしたので、ワタクシは慌てて本を閉じました。
彼に「背を伸ばしたいからマッスル草を採りに行く」なんて恥ずかしくて言えるわけがありません。
だからワタクシは嘘をつきました。
「……ちょっと薬草を採りに魔界に行ってきます」
「よし面白そうだから、俺も一緒に行く!」
できれば独りでこっそり行きたかったんですが、見つかってしまった以上は仕方ありません。
こうしてワタクシ達は探検家のように背中にリュックサックを背負って、マッスル草があるという洞窟へとやって来たのです。
光の魔術で足元を照らしながら洞窟内を覗き込むと、誰かが頻繁に出入りしているのかずいぶん歩きやすい雰囲気でした。
だから、その先に仕掛けがあるなんて思いもしなかったのです。
「危ねぇ!」
アレクがワタクシの背負っていたリュックサックをぐいっと引っ張ったので、後ろに尻餅をつきました。
すると、目の前で左右の壁から鋭い槍が突き出て、またすぐ引っ込んだのです。
「ひいっ、なんですかこれ……」
「侵入者対策の罠じゃねぇかな。ほら、この地面の色が変わってる部分を踏むと作動するようになってるみたいだ」
アレクが指し示した地面は、確かにそこだけ不自然に盛り上がっていて色も違っています。
「なるほど……」
罠が仕掛けてあるということは、価値がある物を隠しているに違いありません。
この奥にマッスル草があるということをワタクシは確信しました。
「なぁ、ジェル。本当にただの薬草を採りにきただけなのか? 帰ったほうがいいんじゃねぇか?」
「――何言ってるんですか。ほら、さっさと先に進みますよ!」
「おい、そんなに急ぐと危険だぞ!」
「大丈夫ですよ……あっ!」
急に足元がパカッと割れて地面が無くなる感覚がしました。
落ちる……と思った瞬間、とっさに腕をアレクが掴んでくれたので底には落ちずにすみましたが、ワタクシの体は彼の手に支えられた状態で宙ぶらりんになっています。
「はぁ……助かりました」
「いいか、今からお兄ちゃんが引き上げるから、絶対に下を見るんじゃないぞ!」
――下? 下に何があるというのでしょうか。
ほんのちょっと視線を底に向けてみると、なにやら黒く長いものがたくさん動いているようです。
「なんでしょうねぇ……ひぃっ!」
目をこらして見てみると、うじゃうじゃと大量の蛇がいて、獲物を待ち構えるかのようにこちらに鎌首をもたげているではありませんか。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!! アレク! 早く! 早く引き上げてください!!!!」
「おい、暴れるな!」
見てはいけないと思いつつも、それが何であるか認識するまでじっくり見てしまう己の探究心の深さが恨めしい。
やっとのことで引き上げられたワタクシは、大きく息を吐き出しました。
「あぁ……びっくりしました」
「それはこっちのセリフだ。なぁ、本当のことを言ってくれよ。こんな危険な罠がある洞窟なんて絶対おかしいだろ。この先に何があるんだよ?」
アレクの真剣な表情に観念したワタクシは、ついにマッスル草という背が伸びる不思議な草のことを白状しました。
「……なるほど。その草があれば、俺も180cm超えも夢じゃねぇのかな。いいなぁ、俺も食いたい」
アレクはワタクシよりも10cmも背が高いくせにまだ伸びようというのですか。なんて贅沢な。
しかし、彼が興味をもったおかげで、このまま先へ進むことになったのには助かりました。
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