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season3
158話:大宴会
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ワタクシはカメラの前で少々もったいぶった言い回しをしながら、ジンとアレクを部屋に招き入れました。
「これがジェル子ちゃんのお部屋なのねぇ♪ 素敵だわ~!」
そう言いながら、ジンは興味深そうにフラスコや鉱石標本などを撮影していきます。
カメラが小さな薬品棚を映したところで、ワタクシはおもむろにフラスコを手に取ってポーズを作りました。
「錬金術の極意。それは物質の変化にあります。稀代の天才錬金術師であるワタクシは――」
「ジェル子ちゃん、これも錬金術の極意なの?」
ジンのカメラは壁にかけられた地名の入った提灯やキーホルダーを映していました。
「あ、俺が買ってきたやつだ」
「あらまぁ。ジェル子ちゃんったら、アレクちゃんにもらったお土産を大事に飾ってるのねぇ」
「あぁぁぁぁ!!!! 片付けるの忘れてた!!!!」
ワタクシが慌ててお土産を隠そうとすると、ジンはあごヒゲを撫でて考え込みました。
「ちょーっと地味なのよねぇ。もっとこう映える感じのシーンが欲しいわぁ。ジェル子ちゃんお得意の召喚魔術とか撮らせてもらえないかしら?」
「それなら魔法陣を描く必要があるから、リビングで撮影した方がいいんじゃねぇか?」
アレクの提案でワタクシ達はリビングへと移動しました。
――錬金術の極意を見せるつもりが、恥をかいただけに終わってしまうとは。
ここは召喚魔術を見せて一気に名誉挽回したいところです。
「あらぁ、可愛いクマちゃんねぇ!」
ジンはリビングに入るなり、ソファーに座ってアニメを観ていたテディベアーのキリトを抱き上げました。
「誰でありますか⁉」
「あらあらまぁまぁ! おしゃべりもしちゃうの? 可愛いわぁ~!」
「やめるであります! オッサンに抱っこされる趣味は無いであります!」
「んまぁ、お口の悪いクマちゃん! でも可愛いから許しちゃう♪ アタシは魔人のジンちゃんよ~。こう見えてもランプの魔人なのよ。あなた、お名前は?」
ジンがキリトをソファーに降ろすと、彼は仕方無さそうに自己紹介しました。
「小生はキリトであります。この家で居候させてもらってるでありますよ」
「あらぁ、そうなの。アタシはジェル子ちゃん達のお友達なの。あなたともお友達になりたいわぁ♪」
「お友達以上にはならないであります」
「うふふ、私もダーリンが居るからそれは無理ねぇ」
ジンはクスクス笑って、撮影を再開しました。
ワタクシはカメラを意識しながらリビングの床に魔法陣を描き、芝居がかった口調で語りました。
「さぁさぁご覧ください! 今から召喚するのは、なんとワタクシが契約している恐ろしい骸骨《スケルトン》です! 剣の達人なので何でも瞬時に切り裂いてしまうことでしょう!」
頼みましたよ宮本さん……!
しかし、魔法陣から出てきたのは正座してズズーッとお茶を飲んでいる宮本さんの姿でした。
「ジェル殿。何か御用でござるか?」
「あぁぁぁぁ! そんな気はしてました!」
首をかしげる宮本さんを魔界に送り返して、次に何を召喚しようかと考えている間にアレクが「俺も召喚使えるぞ!」とカメラに向かって言い始めました。
「ちょっと、アレク! 主役はワタクシですから! それにアレクは召喚なんてできないでしょう?」
「できるぞ。まぁ見てろ」
アレクはポケットからスマホを取り出して、どこかへ電話し始めました。
「もしもし? 今、時間ある? ――うん。そうなんだよ、今すぐ来たらたぶん面白いと思うぞ」
瞬時に目の前の空間がぐにゃりと歪んで、黒いマントにギラギラパンツ一丁のフォラスの姿が現れました。
彼は見た目こそ変態マッチョですが、ワタクシ達兄弟の後見人であり、魔界でも有力な悪魔の一人です。
「愛し子達よ! この父が来たからには安心であるぞ!」
「あらまぁ、マッチョなおじさま♪ ダンディだわぁ~!」
「ヌゥ……そなたもなかなか立派な大胸筋ではないか!」
フォラスとジンがそんなことを言っている間に、店の方から声がして氏神のシロまでやってきました。
「アレク兄ちゃん! 用事って何? ……勝手に入るよ~。えっ、何この状況⁉」
――こっちが聞きたいです。
「どうだ、お兄ちゃんの召喚魔術は!」
「単に電話で呼んだだけじゃないですか!」
呼び出したはいいけども、どうしたらいいんでしょう。
「アレク兄ちゃん、飲み会でもするの? お酒どこ~?」
シロの言葉にフォラスが反応しました。
「おお、異国の神よ! 酒が好きであるか!」
「お酒ならアタシも用意できるわよ~♪」
ジンが魔法でテーブルの上にビールとワインを出すと、フォラスも同じようにパンツからウイスキーやブランデーを出してテーブルに並べます。
「僕、日本酒がいい!」
シロのリクエストで彼らが日本酒をテーブルに出現させると、シロは満足そうにソファーに座りました。
「今日はお客さんが多いでありますねぇ。小生は未成年でありますから飲み会は遠慮するでありますよ」
人の多さにげんなりしたキリトがリビングを出て行こうとしたのを、シロが抱きかかえました。
「このクマさん面白いね、霊がついてる。よかったら僕が成仏させてあげようか?」
「やめるであります!」
「だったら君も飲もうよ」
「物理的に飲めないでありますよ」
「そっかー、残念」
そうこうするうちに飲み会が始まって、どんちゃん騒ぎとなってしまいました。
「結局、撮影はうやむやになってしまいましたねぇ……」
その日撮影された映像を、適当にジンが編集して映画監督に持って行ったところ「B級ギャグ作品」として監督は大いに楽しんだそうです。
しかし、あまりにも内容がグダグダすぎて、ハリウッドどころか世に出ることもなかったのは言うまでもなかったのでした。
「これがジェル子ちゃんのお部屋なのねぇ♪ 素敵だわ~!」
そう言いながら、ジンは興味深そうにフラスコや鉱石標本などを撮影していきます。
カメラが小さな薬品棚を映したところで、ワタクシはおもむろにフラスコを手に取ってポーズを作りました。
「錬金術の極意。それは物質の変化にあります。稀代の天才錬金術師であるワタクシは――」
「ジェル子ちゃん、これも錬金術の極意なの?」
ジンのカメラは壁にかけられた地名の入った提灯やキーホルダーを映していました。
「あ、俺が買ってきたやつだ」
「あらまぁ。ジェル子ちゃんったら、アレクちゃんにもらったお土産を大事に飾ってるのねぇ」
「あぁぁぁぁ!!!! 片付けるの忘れてた!!!!」
ワタクシが慌ててお土産を隠そうとすると、ジンはあごヒゲを撫でて考え込みました。
「ちょーっと地味なのよねぇ。もっとこう映える感じのシーンが欲しいわぁ。ジェル子ちゃんお得意の召喚魔術とか撮らせてもらえないかしら?」
「それなら魔法陣を描く必要があるから、リビングで撮影した方がいいんじゃねぇか?」
アレクの提案でワタクシ達はリビングへと移動しました。
――錬金術の極意を見せるつもりが、恥をかいただけに終わってしまうとは。
ここは召喚魔術を見せて一気に名誉挽回したいところです。
「あらぁ、可愛いクマちゃんねぇ!」
ジンはリビングに入るなり、ソファーに座ってアニメを観ていたテディベアーのキリトを抱き上げました。
「誰でありますか⁉」
「あらあらまぁまぁ! おしゃべりもしちゃうの? 可愛いわぁ~!」
「やめるであります! オッサンに抱っこされる趣味は無いであります!」
「んまぁ、お口の悪いクマちゃん! でも可愛いから許しちゃう♪ アタシは魔人のジンちゃんよ~。こう見えてもランプの魔人なのよ。あなた、お名前は?」
ジンがキリトをソファーに降ろすと、彼は仕方無さそうに自己紹介しました。
「小生はキリトであります。この家で居候させてもらってるでありますよ」
「あらぁ、そうなの。アタシはジェル子ちゃん達のお友達なの。あなたともお友達になりたいわぁ♪」
「お友達以上にはならないであります」
「うふふ、私もダーリンが居るからそれは無理ねぇ」
ジンはクスクス笑って、撮影を再開しました。
ワタクシはカメラを意識しながらリビングの床に魔法陣を描き、芝居がかった口調で語りました。
「さぁさぁご覧ください! 今から召喚するのは、なんとワタクシが契約している恐ろしい骸骨《スケルトン》です! 剣の達人なので何でも瞬時に切り裂いてしまうことでしょう!」
頼みましたよ宮本さん……!
しかし、魔法陣から出てきたのは正座してズズーッとお茶を飲んでいる宮本さんの姿でした。
「ジェル殿。何か御用でござるか?」
「あぁぁぁぁ! そんな気はしてました!」
首をかしげる宮本さんを魔界に送り返して、次に何を召喚しようかと考えている間にアレクが「俺も召喚使えるぞ!」とカメラに向かって言い始めました。
「ちょっと、アレク! 主役はワタクシですから! それにアレクは召喚なんてできないでしょう?」
「できるぞ。まぁ見てろ」
アレクはポケットからスマホを取り出して、どこかへ電話し始めました。
「もしもし? 今、時間ある? ――うん。そうなんだよ、今すぐ来たらたぶん面白いと思うぞ」
瞬時に目の前の空間がぐにゃりと歪んで、黒いマントにギラギラパンツ一丁のフォラスの姿が現れました。
彼は見た目こそ変態マッチョですが、ワタクシ達兄弟の後見人であり、魔界でも有力な悪魔の一人です。
「愛し子達よ! この父が来たからには安心であるぞ!」
「あらまぁ、マッチョなおじさま♪ ダンディだわぁ~!」
「ヌゥ……そなたもなかなか立派な大胸筋ではないか!」
フォラスとジンがそんなことを言っている間に、店の方から声がして氏神のシロまでやってきました。
「アレク兄ちゃん! 用事って何? ……勝手に入るよ~。えっ、何この状況⁉」
――こっちが聞きたいです。
「どうだ、お兄ちゃんの召喚魔術は!」
「単に電話で呼んだだけじゃないですか!」
呼び出したはいいけども、どうしたらいいんでしょう。
「アレク兄ちゃん、飲み会でもするの? お酒どこ~?」
シロの言葉にフォラスが反応しました。
「おお、異国の神よ! 酒が好きであるか!」
「お酒ならアタシも用意できるわよ~♪」
ジンが魔法でテーブルの上にビールとワインを出すと、フォラスも同じようにパンツからウイスキーやブランデーを出してテーブルに並べます。
「僕、日本酒がいい!」
シロのリクエストで彼らが日本酒をテーブルに出現させると、シロは満足そうにソファーに座りました。
「今日はお客さんが多いでありますねぇ。小生は未成年でありますから飲み会は遠慮するでありますよ」
人の多さにげんなりしたキリトがリビングを出て行こうとしたのを、シロが抱きかかえました。
「このクマさん面白いね、霊がついてる。よかったら僕が成仏させてあげようか?」
「やめるであります!」
「だったら君も飲もうよ」
「物理的に飲めないでありますよ」
「そっかー、残念」
そうこうするうちに飲み会が始まって、どんちゃん騒ぎとなってしまいました。
「結局、撮影はうやむやになってしまいましたねぇ……」
その日撮影された映像を、適当にジンが編集して映画監督に持って行ったところ「B級ギャグ作品」として監督は大いに楽しんだそうです。
しかし、あまりにも内容がグダグダすぎて、ハリウッドどころか世に出ることもなかったのは言うまでもなかったのでした。
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