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season3
150話:フォラスの望み
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彼がシロの指し示した方に勝手に行こうとするので、ワタクシが慌てて追いかけると、そこには柵で囲まれた簡易的な厩舎があり、大きな美しい白馬が繋がれています。
「おお、良い馬であるな!」
「これはすばらしいですね」
ワタクシはもっとよく見ようと柵の側に近づいたのですが、それがいけなかったのでしょうか。
「ヒヒ~ン!」
急に馬が大きくいなないて暴れだしたのです。
その時、まさか馬を繋いでいる縄がほどけてしまうなんて、誰も予想しませんでした。
自由になった馬は突進して柵を破壊したあげく、くるりと反転して後ろ足でワタクシを蹴ろうとしたのです。
「ムンッ!」
その時、フォラスがワタクシを抱きしめるようにして庇いました。
彼の体越しに衝撃は伝わってきましたが、そのおかげで傷ひとつなく済んだのは言うまでもありません。
「ジェルマン……無事か?」
「は、はい……」
馬はフォラスの背を蹴り上げて満足したらしく、その場でおとなしくなりました。
そして遅れて駆けつけてきたアレクとシロの手によって、馬は再び繋がれたのですが――
「おーい! 大丈夫か⁉ うわっ、おっちゃん、背中やべぇ!」
ワタクシを庇ったせいで、フォラスの背には真っ赤な血がにじんでいたのです。
「フォラス! どうして庇ったりなんかしたんですか⁉ ワタクシは何があっても死なないんですから別にそんなことしなくても――」
「ヌゥ……それでも、親は目の前で我が子が傷つくのを黙って見ていられぬものなのだ」
――その時、ワタクシの脳裏によぎったのは、遠い日の記憶でした。
『研究は進んでいるか人の子よ』
『また来たんですか』
『ヌゥ……今日は薬草学の本を持ってきたぞ』
『おっちゃん! 剣の稽古をつけてくれ』
『ウムッ、任せておけ』
フォラスは自分を呼び出したのが年若い錬金術師であったことに興味を持ったのか、その後もワタクシ達のところへ訪れるようになりました。
――ワタクシ達が、人の理から外れたあの日も。
『……それで、あなたは永遠の命の代わりにワタクシ達兄弟に何を差し出せと?』
『叡智に執着する人の子よ。我は、そなたらの歩む先を親のように見守ることを望んでいる。もし我が子となってくれるのであれば、そなた達、兄弟に永遠の命を与えよう』
フォラス。あなたは、本当にワタクシ達を我が子のように思っていたのですか……
「おっちゃん! 大丈夫か⁉」
「うむ、こんなのプロテインを飲めばすぐ治る!」
「プロテインは万能薬じゃありませんよ」
幸い、背中の傷は表面だけで、骨や内臓には影響が無かったようです。
その後、傷の手当てをしてワタクシ達は境内にある足湯に浸かりました。
「いやぁ、おっちゃんもジェルも無事で良かったよ」
「ヌゥ……人間界もなかなかにスリリングであるな。興味深い。また100年後にでも来たいものだ」
「……100年後と言わず、昔みたいにいつでも来たい時に勝手に来ればいいじゃないですか」
ワタクシがそう言うと、フォラスは目を見開いてこっちを見ました。
「あなたはワタクシのおとうさ……こ、後見人なんですから」
「あっ、ジェルがデレた! 顔が赤いぞ」
「ヌゥ、そうなのか!」
「違います! これは足湯でのぼせただけですっ!」
皆の笑い声を聞きながら、ワタクシは足湯から出て、ひとり背を向け涼むのでした。
「おお、良い馬であるな!」
「これはすばらしいですね」
ワタクシはもっとよく見ようと柵の側に近づいたのですが、それがいけなかったのでしょうか。
「ヒヒ~ン!」
急に馬が大きくいなないて暴れだしたのです。
その時、まさか馬を繋いでいる縄がほどけてしまうなんて、誰も予想しませんでした。
自由になった馬は突進して柵を破壊したあげく、くるりと反転して後ろ足でワタクシを蹴ろうとしたのです。
「ムンッ!」
その時、フォラスがワタクシを抱きしめるようにして庇いました。
彼の体越しに衝撃は伝わってきましたが、そのおかげで傷ひとつなく済んだのは言うまでもありません。
「ジェルマン……無事か?」
「は、はい……」
馬はフォラスの背を蹴り上げて満足したらしく、その場でおとなしくなりました。
そして遅れて駆けつけてきたアレクとシロの手によって、馬は再び繋がれたのですが――
「おーい! 大丈夫か⁉ うわっ、おっちゃん、背中やべぇ!」
ワタクシを庇ったせいで、フォラスの背には真っ赤な血がにじんでいたのです。
「フォラス! どうして庇ったりなんかしたんですか⁉ ワタクシは何があっても死なないんですから別にそんなことしなくても――」
「ヌゥ……それでも、親は目の前で我が子が傷つくのを黙って見ていられぬものなのだ」
――その時、ワタクシの脳裏によぎったのは、遠い日の記憶でした。
『研究は進んでいるか人の子よ』
『また来たんですか』
『ヌゥ……今日は薬草学の本を持ってきたぞ』
『おっちゃん! 剣の稽古をつけてくれ』
『ウムッ、任せておけ』
フォラスは自分を呼び出したのが年若い錬金術師であったことに興味を持ったのか、その後もワタクシ達のところへ訪れるようになりました。
――ワタクシ達が、人の理から外れたあの日も。
『……それで、あなたは永遠の命の代わりにワタクシ達兄弟に何を差し出せと?』
『叡智に執着する人の子よ。我は、そなたらの歩む先を親のように見守ることを望んでいる。もし我が子となってくれるのであれば、そなた達、兄弟に永遠の命を与えよう』
フォラス。あなたは、本当にワタクシ達を我が子のように思っていたのですか……
「おっちゃん! 大丈夫か⁉」
「うむ、こんなのプロテインを飲めばすぐ治る!」
「プロテインは万能薬じゃありませんよ」
幸い、背中の傷は表面だけで、骨や内臓には影響が無かったようです。
その後、傷の手当てをしてワタクシ達は境内にある足湯に浸かりました。
「いやぁ、おっちゃんもジェルも無事で良かったよ」
「ヌゥ……人間界もなかなかにスリリングであるな。興味深い。また100年後にでも来たいものだ」
「……100年後と言わず、昔みたいにいつでも来たい時に勝手に来ればいいじゃないですか」
ワタクシがそう言うと、フォラスは目を見開いてこっちを見ました。
「あなたはワタクシのおとうさ……こ、後見人なんですから」
「あっ、ジェルがデレた! 顔が赤いぞ」
「ヌゥ、そうなのか!」
「違います! これは足湯でのぼせただけですっ!」
皆の笑い声を聞きながら、ワタクシは足湯から出て、ひとり背を向け涼むのでした。
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