145 / 163
season3
146話:キリト転生
しおりを挟む
その日、ワタクシはとても上機嫌でした。
なにせ兄のアレクサンドルが店番をサボっているのも気にならないくらいでしたから。
「はい、アレク。バレンタインチョコですよ」
ワタクシは、リビングでゴロゴロしている彼にチョコレートを手渡しました。
彼の為に特別に用意した高級品です。
「お、おう……ありがとう、ジェル。なんかすげぇでっかくて豪華な箱だな」
彼は目をまん丸にして、美しく装飾された箱とワタクシの顔を交互に見比べています。
「えぇ、アレクのおかげで臨時収入がありましたんでね。そのお礼も兼ねてなので、気にせず受け取ってください」
「えっ、臨時収入って?」
「あの人形のことですよ」
以前に魔人のジンから除霊を依頼された、アンティークの人形。
その人形にはなぜかキリトと名乗るアニメオタクの幽霊が憑依していて、除霊は困難かと思われたのですが。
幽霊がアレクと意気投合した結果、アニメを観せることで成仏する運びとなったのでした。
……ただし、そのアニメが最終回を迎えるまで成仏しなかったので、かなり辛抱しないといけなかったんですが。
「キリトが憑依していた人形をオークションに出してみたら、思った以上に高値で売れたんです」
「あれ売れちゃったのか。まぁ、もうキリトも成仏してただの人形になっちまったしなぁ……」
アレクは遠くを見るような目をしました。
彼は毎週、キリトと二人で「魔法少女エクセレントサニー」というアニメを熱心に観ていましたから、一緒にアニメで盛り上がる仲間を失って寂しいのでしょう。
でもワタクシにとっては「騒音を撒き散らすオタク人形」でしかなかったので、それが成仏した上に高値で売れたのは万々歳でした。
「それで、ジェルは機嫌が良いのか」
「実はそれだけじゃないんですよ……これを見てください!」
ワタクシは大きな箱を持ってきて、リビングのテーブルに置きました。
「なんだ、この箱?」
「テディベアです。キリトを売ったお金で買ったんですよ」
箱を開封すると、そこには青いケープを着たクリーム色の可愛いクマのぬいぐるみが座っています。
「あぁ、このふわふわの毛並み……そしてこの愛らしいまんまるの黒い瞳。なんて可愛いんでしょう!」
「ジェルがふわふわの動物好きなのは知ってたけど、ついにぬいぐるみに手を出しちまったのか……」
「いえ、投資目的です。これは10体しか生産されていない限定品でしてね。後々プレミアがついて高値になるのは確定ですから、極力触らずに厳重に保管する予定です」
「そういうことか。いつものジェルで、お兄ちゃん安心したよ」
このテディベアでさらに大儲けできるかと思うと、オタク人形のアニメ鑑賞会を我慢したかいがあったというものです。
「そういえばさ、キリトの好きなアニメ。また新シリーズ始まるんだよな。たしか今日から……」
アレクがそう言った瞬間、テディベアがキラキラと輝き始めて、まぶしい光に包まれ、ワタクシは反射的に目を閉じました。
そして、目を開けた瞬間――
「おおっ! アレク氏、ジェル氏! お久しぶりであります! サニーちゃんの新作でありますか⁉」
目の前のテディベアが動いて、聞き覚えのある声で話し始めたではありませんか。
「キリト⁉ キリトなのか⁉」
「小生(しょうせい)はキリトであります! おや、新しいボディはフワフワですな!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!! ワタクシのテディがウザいオタクに汚染されたぁぁぁぁ!!!!」
「さぁアレク氏! 一緒にサニーちゃんを観るでありますよ!」
彼は成仏したはずだったのに、どうしてまたこんなことに……
その日から、キリトが憑依したテディベアとアレクのアニメ鑑賞会が始まりました。
「アレク氏! 新シリーズのサニーちゃんはちょっと大人っぽいですな!」
「作画監督が新しい人になったから心配だったけど、これもありだよな……おっ、サニーフラッシュ! いえぇぇぇい!」
「いえぇぇぇい! サニーフラッシュ!」
テディベア姿のキリトはアレクと一緒に、ソファの上で跳ねたり転がりまわったりと大騒ぎしています。
「あぁ、ワタクシのテディが汚れる……毛がモサモサに劣化していく……」
厳重に保管して高値で売りさばく予定だったのに。キリト許すまじ。
……かくなる上は、強制的に除霊するしかありません。
ワタクシはアレクがおやつを買いに外に出かけた隙に、ソファーに座っているキリトの背後にこっそり近づきました。
「キリト……覚悟してください!」
なにせ兄のアレクサンドルが店番をサボっているのも気にならないくらいでしたから。
「はい、アレク。バレンタインチョコですよ」
ワタクシは、リビングでゴロゴロしている彼にチョコレートを手渡しました。
彼の為に特別に用意した高級品です。
「お、おう……ありがとう、ジェル。なんかすげぇでっかくて豪華な箱だな」
彼は目をまん丸にして、美しく装飾された箱とワタクシの顔を交互に見比べています。
「えぇ、アレクのおかげで臨時収入がありましたんでね。そのお礼も兼ねてなので、気にせず受け取ってください」
「えっ、臨時収入って?」
「あの人形のことですよ」
以前に魔人のジンから除霊を依頼された、アンティークの人形。
その人形にはなぜかキリトと名乗るアニメオタクの幽霊が憑依していて、除霊は困難かと思われたのですが。
幽霊がアレクと意気投合した結果、アニメを観せることで成仏する運びとなったのでした。
……ただし、そのアニメが最終回を迎えるまで成仏しなかったので、かなり辛抱しないといけなかったんですが。
「キリトが憑依していた人形をオークションに出してみたら、思った以上に高値で売れたんです」
「あれ売れちゃったのか。まぁ、もうキリトも成仏してただの人形になっちまったしなぁ……」
アレクは遠くを見るような目をしました。
彼は毎週、キリトと二人で「魔法少女エクセレントサニー」というアニメを熱心に観ていましたから、一緒にアニメで盛り上がる仲間を失って寂しいのでしょう。
でもワタクシにとっては「騒音を撒き散らすオタク人形」でしかなかったので、それが成仏した上に高値で売れたのは万々歳でした。
「それで、ジェルは機嫌が良いのか」
「実はそれだけじゃないんですよ……これを見てください!」
ワタクシは大きな箱を持ってきて、リビングのテーブルに置きました。
「なんだ、この箱?」
「テディベアです。キリトを売ったお金で買ったんですよ」
箱を開封すると、そこには青いケープを着たクリーム色の可愛いクマのぬいぐるみが座っています。
「あぁ、このふわふわの毛並み……そしてこの愛らしいまんまるの黒い瞳。なんて可愛いんでしょう!」
「ジェルがふわふわの動物好きなのは知ってたけど、ついにぬいぐるみに手を出しちまったのか……」
「いえ、投資目的です。これは10体しか生産されていない限定品でしてね。後々プレミアがついて高値になるのは確定ですから、極力触らずに厳重に保管する予定です」
「そういうことか。いつものジェルで、お兄ちゃん安心したよ」
このテディベアでさらに大儲けできるかと思うと、オタク人形のアニメ鑑賞会を我慢したかいがあったというものです。
「そういえばさ、キリトの好きなアニメ。また新シリーズ始まるんだよな。たしか今日から……」
アレクがそう言った瞬間、テディベアがキラキラと輝き始めて、まぶしい光に包まれ、ワタクシは反射的に目を閉じました。
そして、目を開けた瞬間――
「おおっ! アレク氏、ジェル氏! お久しぶりであります! サニーちゃんの新作でありますか⁉」
目の前のテディベアが動いて、聞き覚えのある声で話し始めたではありませんか。
「キリト⁉ キリトなのか⁉」
「小生(しょうせい)はキリトであります! おや、新しいボディはフワフワですな!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!! ワタクシのテディがウザいオタクに汚染されたぁぁぁぁ!!!!」
「さぁアレク氏! 一緒にサニーちゃんを観るでありますよ!」
彼は成仏したはずだったのに、どうしてまたこんなことに……
その日から、キリトが憑依したテディベアとアレクのアニメ鑑賞会が始まりました。
「アレク氏! 新シリーズのサニーちゃんはちょっと大人っぽいですな!」
「作画監督が新しい人になったから心配だったけど、これもありだよな……おっ、サニーフラッシュ! いえぇぇぇい!」
「いえぇぇぇい! サニーフラッシュ!」
テディベア姿のキリトはアレクと一緒に、ソファの上で跳ねたり転がりまわったりと大騒ぎしています。
「あぁ、ワタクシのテディが汚れる……毛がモサモサに劣化していく……」
厳重に保管して高値で売りさばく予定だったのに。キリト許すまじ。
……かくなる上は、強制的に除霊するしかありません。
ワタクシはアレクがおやつを買いに外に出かけた隙に、ソファーに座っているキリトの背後にこっそり近づきました。
「キリト……覚悟してください!」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜
古亜
キャラ文芸
たまたま出会ったヤクザをモデルにBL漫画を描いたら、本人に読まれた。
「これ描いたの、お前か?」
呼び出された先でそう問いただされ、怒られるか、あるいは消される……そう思ったのに、事態は斜め上に転がっていった。
腐(オタ)文化に疎いヤクザの組長が、立派に腐っていく話。
内容は完全に思い付き。なんでも許せる方向け。
なお作者は雑食です。誤字脱字、その他誤りがあればこっそり教えていただけると嬉しいです。
全20話くらいの予定です。毎日(1-2日おき)を目標に投稿しますが、ストックが切れたらすみません……
相変わらずヤクザさんものですが、シリアスなシリアルが最後にあるくらいなのでクスッとほっこり?いただければなと思います。
「ほっこり」枠でほっこり・じんわり大賞にエントリーしており、結果はたくさんの作品の中20位でした!応援ありがとうございました!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる