それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

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season3

146話:キリト転生

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 その日、ワタクシはとても上機嫌でした。
 なにせ兄のアレクサンドルが店番をサボっているのも気にならないくらいでしたから。

「はい、アレク。バレンタインチョコですよ」

 ワタクシは、リビングでゴロゴロしている彼にチョコレートを手渡しました。
 彼の為に特別に用意した高級品です。

「お、おう……ありがとう、ジェル。なんかすげぇでっかくて豪華な箱だな」

 彼は目をまん丸にして、美しく装飾された箱とワタクシの顔を交互に見比べています。

「えぇ、アレクのおかげで臨時収入がありましたんでね。そのお礼も兼ねてなので、気にせず受け取ってください」

「えっ、臨時収入って?」

「あの人形のことですよ」

 以前に魔人のジンから除霊を依頼された、アンティークの人形。
 その人形にはなぜかキリトと名乗るアニメオタクの幽霊が憑依していて、除霊は困難かと思われたのですが。
 幽霊がアレクと意気投合した結果、アニメを観せることで成仏する運びとなったのでした。

 ……ただし、そのアニメが最終回を迎えるまで成仏しなかったので、かなり辛抱しないといけなかったんですが。

「キリトが憑依していた人形をオークションに出してみたら、思った以上に高値で売れたんです」

「あれ売れちゃったのか。まぁ、もうキリトも成仏してただの人形になっちまったしなぁ……」

 アレクは遠くを見るような目をしました。
 彼は毎週、キリトと二人で「魔法少女エクセレントサニー」というアニメを熱心に観ていましたから、一緒にアニメで盛り上がる仲間を失って寂しいのでしょう。

 でもワタクシにとっては「騒音を撒き散らすオタク人形」でしかなかったので、それが成仏した上に高値で売れたのは万々歳でした。

「それで、ジェルは機嫌が良いのか」

「実はそれだけじゃないんですよ……これを見てください!」

 ワタクシは大きな箱を持ってきて、リビングのテーブルに置きました。

「なんだ、この箱?」

「テディベアです。キリトを売ったお金で買ったんですよ」

 箱を開封すると、そこには青いケープを着たクリーム色の可愛いクマのぬいぐるみが座っています。

「あぁ、このふわふわの毛並み……そしてこの愛らしいまんまるの黒い瞳。なんて可愛いんでしょう!」

「ジェルがふわふわの動物好きなのは知ってたけど、ついにぬいぐるみに手を出しちまったのか……」

「いえ、投資目的です。これは10体しか生産されていない限定品でしてね。後々プレミアがついて高値になるのは確定ですから、極力触らずに厳重に保管する予定です」

「そういうことか。いつものジェルで、お兄ちゃん安心したよ」

 このテディベアでさらに大儲けできるかと思うと、オタク人形のアニメ鑑賞会を我慢したかいがあったというものです。

「そういえばさ、キリトの好きなアニメ。また新シリーズ始まるんだよな。たしか今日から……」

 アレクがそう言った瞬間、テディベアがキラキラと輝き始めて、まぶしい光に包まれ、ワタクシは反射的に目を閉じました。

 そして、目を開けた瞬間――

「おおっ! アレク氏、ジェル氏! お久しぶりであります! サニーちゃんの新作でありますか⁉」

 目の前のテディベアが動いて、聞き覚えのある声で話し始めたではありませんか。



「キリト⁉ キリトなのか⁉」

「小生(しょうせい)はキリトであります! おや、新しいボディはフワフワですな!」

「いやぁぁぁぁぁ!!!! ワタクシのテディがウザいオタクに汚染されたぁぁぁぁ!!!!」

「さぁアレク氏! 一緒にサニーちゃんを観るでありますよ!」

 彼は成仏したはずだったのに、どうしてまたこんなことに……

 その日から、キリトが憑依したテディベアとアレクのアニメ鑑賞会が始まりました。

「アレク氏! 新シリーズのサニーちゃんはちょっと大人っぽいですな!」

「作画監督が新しい人になったから心配だったけど、これもありだよな……おっ、サニーフラッシュ! いえぇぇぇい!」

「いえぇぇぇい! サニーフラッシュ!」

 テディベア姿のキリトはアレクと一緒に、ソファの上で跳ねたり転がりまわったりと大騒ぎしています。

「あぁ、ワタクシのテディが汚れる……毛がモサモサに劣化していく……」

 厳重に保管して高値で売りさばく予定だったのに。キリト許すまじ。
 ……かくなる上は、強制的に除霊するしかありません。
 
 ワタクシはアレクがおやつを買いに外に出かけた隙に、ソファーに座っているキリトの背後にこっそり近づきました。

「キリト……覚悟してください!」
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