140 / 163
season2
141話:看板がある理由
しおりを挟む
先に進むと、また紅葉の木の根元に看板が立っていました。
『鞍馬山に配属希望です』
『鞍馬山は現在、新規募集をしておりません』
「配属希望って、会社か何かか?」
「ですかねぇ?」
そんなことを言いながら山道を歩いて行きますと、次の看板がありました。
『下駄の鼻緒が擦れて足が痛いです』
『履く前に下駄の鼻緒をよく揉み解してから履きましょう。絆創膏を支給しますので活用してください』
「これって全部、誰かの質問と回答なんだな」
「はぁ、はぁ……そうですね。ところで……少し休憩しませんか」
「なんだ、もうバテたのか。ジェルは体力無いなぁ」
看板に気をとられて気付いていませんでしたが、振り返って見てみるとなかなかに急な山道なのです。
「どうりで、息が切れるはずですよ……」
しかし、この看板たちは何なのでしょう。
わざわざ誰も来ない山奥で、いちいちこんなQ&Aを書き連ねる意味が本当にわかりません。
ワタクシ達は持参した水分をとり、呼吸を整えながら看板の内容を振り返りました。
とりあえずわかったのは「鼻が伸びなくて悩み、鞍馬山に配属希望の下駄を履く何者かが居て、それをサポートする存在がある」ということです。
「お兄ちゃん、さっぱりわかんねぇんだけど」
「とりあえず看板は他にもありそうですし、行ってみましょうか」
こうしてワタクシ達は看板に導かれるまま、山頂へと続くと思われる道を登り続けたのです。
「おや、道が分かれてますよ」
一方は急な山道で、もう一方は比較的なだらかなように見えます。
「どっちに進めばいいんだ?」
「できれば、あまりキツくないルートだとありがたいのですが」
どちらに行くか相談した結果、ワタクシの体力に合わせてなだらかな道を行くことにしました。
もちろんその先にも看板はあります。
『隠れ蓑(みの)が盗まれたり燃やされたりしないか不安です』
『盗難に関しては、随時調査いたします。現在、難燃性の物を開発中です』
「長い鼻、鞍馬山、下駄、隠れ蓑……なるほど、わかったかもしれません」
「えっ、マジか」
「残念ながら、埋蔵金の暗号では無さそうですが。その代わり珍しい方に出会えるかもしれませんね」
「そうなのか。あっ、あっちにも看板があるぞ!」
アレクが指差した山頂には白い看板らしきものが見えました。
「くっ……坂が急でとてもつらい……」
「ほら、お兄ちゃんの手掴んでいいから、頑張れ」
ワタクシはアレクに手を引っ張ってもらいながら最後の力を振り絞って、山頂へ到達しました。
視界が開けて、汗をかいた首筋に風が吹き抜けます。
「ハァ、ハァ……疲れた…………」
「ジェル、よく頑張ったな。ふぃ~、風が気持ち良い~」
「最後の看板は――」
『トミ子さん、栄作さん、洋平さん今日もお疲れ様でした。師匠に花丸スタンプをもらって帰りましょう』
「トミ子、栄作、洋平⁉」
「あの下の看板にあった名前ですね。しかし師匠に花丸スタンプとは……」
どういうことか考え込んでいると、バサバサと大きな鳥が羽ばたくような音がして、びゅぅぅぅと風が吹きぬけました。
「ふむ、見慣れない人間であるな」
その声に振り返ると、下駄を履き山伏の姿をした、真っ赤な顔に長い鼻の男性が立っていました。
その姿は山に住むという天狗に違いありません。
「あなたは、天狗さまでいらっしゃいますね」
ワタクシの問いに、男性は手にしている錫杖をガシャンと鳴らしてうなずきました。
「いかにも。この天狗の修行場に、見慣れない人間がやって来たので様子を見に来たのだ」
「天狗の修行場?」
聞けば、ここは見習い天狗たちが修行の為に登り下りしている山なんだそうです。
「なるほど。一番最初に見た看板は、その見習い天狗たちの名前だったんですねぇ」
「なぁ、天狗さん。だったら他の看板は何の為なんだ?」
「ご意見箱に寄せられた見習い達の意見に対する、上位の天狗達の回答だ。一人前に育つまで手厚く支援するのが上位の役目なのでな」
「要はスーパーとかに貼ってある「お客様の声」みたいなもんか」
「アレク、そのたとえはどうかと思いますが」
「他の道にも看板はあるので、もし興味があれば見て行くと良い。ではさらばだ――」
天狗はそう言い残して消えました。
それからアレクが“他の看板も見に行きたい”と言い出したのですが、ワタクシはもう体力の限界で、これ以上確認する気にはなりませんでした。
「謎の看板の正体は天狗の仕業だった、なんて誰も信じないでしょうねぇ」
ワタクシは苦笑いしながら、家に帰る為の魔法陣を描き始めたのでした。
『鞍馬山に配属希望です』
『鞍馬山は現在、新規募集をしておりません』
「配属希望って、会社か何かか?」
「ですかねぇ?」
そんなことを言いながら山道を歩いて行きますと、次の看板がありました。
『下駄の鼻緒が擦れて足が痛いです』
『履く前に下駄の鼻緒をよく揉み解してから履きましょう。絆創膏を支給しますので活用してください』
「これって全部、誰かの質問と回答なんだな」
「はぁ、はぁ……そうですね。ところで……少し休憩しませんか」
「なんだ、もうバテたのか。ジェルは体力無いなぁ」
看板に気をとられて気付いていませんでしたが、振り返って見てみるとなかなかに急な山道なのです。
「どうりで、息が切れるはずですよ……」
しかし、この看板たちは何なのでしょう。
わざわざ誰も来ない山奥で、いちいちこんなQ&Aを書き連ねる意味が本当にわかりません。
ワタクシ達は持参した水分をとり、呼吸を整えながら看板の内容を振り返りました。
とりあえずわかったのは「鼻が伸びなくて悩み、鞍馬山に配属希望の下駄を履く何者かが居て、それをサポートする存在がある」ということです。
「お兄ちゃん、さっぱりわかんねぇんだけど」
「とりあえず看板は他にもありそうですし、行ってみましょうか」
こうしてワタクシ達は看板に導かれるまま、山頂へと続くと思われる道を登り続けたのです。
「おや、道が分かれてますよ」
一方は急な山道で、もう一方は比較的なだらかなように見えます。
「どっちに進めばいいんだ?」
「できれば、あまりキツくないルートだとありがたいのですが」
どちらに行くか相談した結果、ワタクシの体力に合わせてなだらかな道を行くことにしました。
もちろんその先にも看板はあります。
『隠れ蓑(みの)が盗まれたり燃やされたりしないか不安です』
『盗難に関しては、随時調査いたします。現在、難燃性の物を開発中です』
「長い鼻、鞍馬山、下駄、隠れ蓑……なるほど、わかったかもしれません」
「えっ、マジか」
「残念ながら、埋蔵金の暗号では無さそうですが。その代わり珍しい方に出会えるかもしれませんね」
「そうなのか。あっ、あっちにも看板があるぞ!」
アレクが指差した山頂には白い看板らしきものが見えました。
「くっ……坂が急でとてもつらい……」
「ほら、お兄ちゃんの手掴んでいいから、頑張れ」
ワタクシはアレクに手を引っ張ってもらいながら最後の力を振り絞って、山頂へ到達しました。
視界が開けて、汗をかいた首筋に風が吹き抜けます。
「ハァ、ハァ……疲れた…………」
「ジェル、よく頑張ったな。ふぃ~、風が気持ち良い~」
「最後の看板は――」
『トミ子さん、栄作さん、洋平さん今日もお疲れ様でした。師匠に花丸スタンプをもらって帰りましょう』
「トミ子、栄作、洋平⁉」
「あの下の看板にあった名前ですね。しかし師匠に花丸スタンプとは……」
どういうことか考え込んでいると、バサバサと大きな鳥が羽ばたくような音がして、びゅぅぅぅと風が吹きぬけました。
「ふむ、見慣れない人間であるな」
その声に振り返ると、下駄を履き山伏の姿をした、真っ赤な顔に長い鼻の男性が立っていました。
その姿は山に住むという天狗に違いありません。
「あなたは、天狗さまでいらっしゃいますね」
ワタクシの問いに、男性は手にしている錫杖をガシャンと鳴らしてうなずきました。
「いかにも。この天狗の修行場に、見慣れない人間がやって来たので様子を見に来たのだ」
「天狗の修行場?」
聞けば、ここは見習い天狗たちが修行の為に登り下りしている山なんだそうです。
「なるほど。一番最初に見た看板は、その見習い天狗たちの名前だったんですねぇ」
「なぁ、天狗さん。だったら他の看板は何の為なんだ?」
「ご意見箱に寄せられた見習い達の意見に対する、上位の天狗達の回答だ。一人前に育つまで手厚く支援するのが上位の役目なのでな」
「要はスーパーとかに貼ってある「お客様の声」みたいなもんか」
「アレク、そのたとえはどうかと思いますが」
「他の道にも看板はあるので、もし興味があれば見て行くと良い。ではさらばだ――」
天狗はそう言い残して消えました。
それからアレクが“他の看板も見に行きたい”と言い出したのですが、ワタクシはもう体力の限界で、これ以上確認する気にはなりませんでした。
「謎の看板の正体は天狗の仕業だった、なんて誰も信じないでしょうねぇ」
ワタクシは苦笑いしながら、家に帰る為の魔法陣を描き始めたのでした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
梅子ばあちゃんのゆったりカフェヘようこそ!(東京都下の高尾の片隅で)
なかじまあゆこ
キャラ文芸
『梅子ばあちゃんのカフェへようこそ!』は梅子おばあちゃんの作る美味しい料理で賑わっています。そんなカフェに就職活動に失敗した孫のるり子が住み込みで働くことになって……。
おばあちゃんの家には変わり者の親戚が住んでいてるり子は戸惑いますが、そのうち馴れてきて溶け込んでいきます。
カフェとるり子と個性的な南橋一家の日常と時々ご当地物語です。
どうぞよろしくお願いします(^-^)/
エブリスタでも書いています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる