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season2
136話:匂いのする絵
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芸術の秋、というわけなのかどうかは知りませんけども、アンティークの店「蜃気楼」に絵を売ってほしいという商談がきたのは、残暑が続くある日のことでした。
「それでねぇ、知り合いのギャラリーに飾る絵を調達するように頼まれたのよ。ジェル子ちゃん達のコレクションならきっとすごいのがあるでしょう?」
「ジンの欲しいお品かどうかは判りかねますが、すごいと言えばすごいのはありますねぇ」
「あら~さすがジェル子ちゃん! 頼りになるわ~♪ じゃあ早速見せてくれるかしら?」
ワタクシの返事に、魔人のジンは微笑みました。
彼は口調こそ柔らかいオネェですが、世界を飛び回る優秀な商売人でうちのお得意様です。
「アレク、倉庫からあの絵を持って来てくれませんか」
ワタクシは店の棚にハタキをかけていた兄のアレクサンドルに声をかけました。
「あれか? やめておいた方がいいと思うけどなぁ……」
アレクは渋りながらも、倉庫から厳重にビニール袋で覆われた絵を持ってきました。
「あらぁ、ずいぶん酷い保管の仕方なのねぇ」
「これには事情がありまして。絵に描かれた風景があまりにも臨場感があって、なんと絵から匂いがするのです」
「匂い?」
「えぇ、そのせいで見た人はまるで自分がその場に居るかのような錯覚すら感じるのですよ」
「すごいじゃない! そんな絵があったらきっと話題になるわね。ぜひ売ってちょうだい!」
ジンは目を輝かせながら、電卓を取り出します。
「おいおい、ジンちゃん。絵を見てからにした方がいいぞ」
アレクがそう言いながら、ビニール袋の封を開いた瞬間、店の中に悪臭が立ち込めました。
「キャッ、臭っ! 何よ、この酷い臭い……」
ジンは両手で鼻を覆いながらも絵を覗き込んで、顔をしかめました。
そこには草むらに円形の巨大な茶色いツボが埋まっている絵が描かれています。
「これは伝統的な農業設備を描いた絵でして……肥溜めですね」
「こ、こえだめ……」
「要はウンコとションベンだな」
アレクがハッキリ言った瞬間、ジンは悲鳴をあげました。
「いやぁぁぁぁ! アレクちゃん、今すぐ封をしてちょうだい!」
「やっぱりそうなるよなぁ……」
アレクが眉をひそめて絵を元通りビニールで厳重に何重も封をしているのを見ながら、ワタクシは黙って窓を開けて換気しました。
「ちょっと、なんてものを見せるのよ!」
「だから言ったじゃないですか。“ジンの欲しいお品かどうかは判りかねますが、すごいと言えばすごい”って」
「……それで、他には無いのかしら?」
「そうですねぇ。アレク、あの子の絵を持ってきてくれますか?」
アレクは「大丈夫かなぁ」と言いながら、倉庫から布に覆われた絵を持って来ました。
「これはちょっといわく付きなんですけど」
「あら、見た人に呪いでもかかるのかしら?」
「そういうのでは無いのですが。とりあえずご覧ください」
ワタクシが覆っていた布を取ると、そこには椅子に座っている少女の絵がありました。
「あらぁ、可愛いわねぇ! ステキな絵じゃない。どの辺がいわく付きなのかしら?」
「実はこの絵は夜中に人物が絵から抜け出して歩くんですよ。朝には元に戻ってるんですけどね」
こんないわく付き、売れるわけがないと思って布で覆って倉庫で眠らせていたのですが。
「そうねぇ。じゃあその絵を買おうかしら」
「おい、ジンちゃん! ジェルの言った通り、ホントにその絵の女の子は夜になったら歩くんだぞ! 俺も見たからマジだぞ⁉」
「いいのよぉ~、どうせギャラリーは昼間しか営業してないし。朝には普通の絵に戻ってるなら問題ないわ」
――そういう問題なんでしょうか。
まぁ売れるならこっちも儲かるので助かりますが。
「でもこれだけじゃ、枚数が足りないわねぇ。せめてもう1枚あるといいんだけど」
「あと1枚、ですか……」
ふと、ワタクシはギャラリーに自分の肖像画が飾られている光景を想像しました。
美しいワタクシがモデルなら、きっと素晴らしい芸術作品になるはずです。
「ワタクシの肖像画というのはどうですかね?」
「それは面白そうねぇ。ジェル子ちゃんがモデルならきっと綺麗な絵でしょうし」
「それでねぇ、知り合いのギャラリーに飾る絵を調達するように頼まれたのよ。ジェル子ちゃん達のコレクションならきっとすごいのがあるでしょう?」
「ジンの欲しいお品かどうかは判りかねますが、すごいと言えばすごいのはありますねぇ」
「あら~さすがジェル子ちゃん! 頼りになるわ~♪ じゃあ早速見せてくれるかしら?」
ワタクシの返事に、魔人のジンは微笑みました。
彼は口調こそ柔らかいオネェですが、世界を飛び回る優秀な商売人でうちのお得意様です。
「アレク、倉庫からあの絵を持って来てくれませんか」
ワタクシは店の棚にハタキをかけていた兄のアレクサンドルに声をかけました。
「あれか? やめておいた方がいいと思うけどなぁ……」
アレクは渋りながらも、倉庫から厳重にビニール袋で覆われた絵を持ってきました。
「あらぁ、ずいぶん酷い保管の仕方なのねぇ」
「これには事情がありまして。絵に描かれた風景があまりにも臨場感があって、なんと絵から匂いがするのです」
「匂い?」
「えぇ、そのせいで見た人はまるで自分がその場に居るかのような錯覚すら感じるのですよ」
「すごいじゃない! そんな絵があったらきっと話題になるわね。ぜひ売ってちょうだい!」
ジンは目を輝かせながら、電卓を取り出します。
「おいおい、ジンちゃん。絵を見てからにした方がいいぞ」
アレクがそう言いながら、ビニール袋の封を開いた瞬間、店の中に悪臭が立ち込めました。
「キャッ、臭っ! 何よ、この酷い臭い……」
ジンは両手で鼻を覆いながらも絵を覗き込んで、顔をしかめました。
そこには草むらに円形の巨大な茶色いツボが埋まっている絵が描かれています。
「これは伝統的な農業設備を描いた絵でして……肥溜めですね」
「こ、こえだめ……」
「要はウンコとションベンだな」
アレクがハッキリ言った瞬間、ジンは悲鳴をあげました。
「いやぁぁぁぁ! アレクちゃん、今すぐ封をしてちょうだい!」
「やっぱりそうなるよなぁ……」
アレクが眉をひそめて絵を元通りビニールで厳重に何重も封をしているのを見ながら、ワタクシは黙って窓を開けて換気しました。
「ちょっと、なんてものを見せるのよ!」
「だから言ったじゃないですか。“ジンの欲しいお品かどうかは判りかねますが、すごいと言えばすごい”って」
「……それで、他には無いのかしら?」
「そうですねぇ。アレク、あの子の絵を持ってきてくれますか?」
アレクは「大丈夫かなぁ」と言いながら、倉庫から布に覆われた絵を持って来ました。
「これはちょっといわく付きなんですけど」
「あら、見た人に呪いでもかかるのかしら?」
「そういうのでは無いのですが。とりあえずご覧ください」
ワタクシが覆っていた布を取ると、そこには椅子に座っている少女の絵がありました。
「あらぁ、可愛いわねぇ! ステキな絵じゃない。どの辺がいわく付きなのかしら?」
「実はこの絵は夜中に人物が絵から抜け出して歩くんですよ。朝には元に戻ってるんですけどね」
こんないわく付き、売れるわけがないと思って布で覆って倉庫で眠らせていたのですが。
「そうねぇ。じゃあその絵を買おうかしら」
「おい、ジンちゃん! ジェルの言った通り、ホントにその絵の女の子は夜になったら歩くんだぞ! 俺も見たからマジだぞ⁉」
「いいのよぉ~、どうせギャラリーは昼間しか営業してないし。朝には普通の絵に戻ってるなら問題ないわ」
――そういう問題なんでしょうか。
まぁ売れるならこっちも儲かるので助かりますが。
「でもこれだけじゃ、枚数が足りないわねぇ。せめてもう1枚あるといいんだけど」
「あと1枚、ですか……」
ふと、ワタクシはギャラリーに自分の肖像画が飾られている光景を想像しました。
美しいワタクシがモデルなら、きっと素晴らしい芸術作品になるはずです。
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