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season2
131話:河童の妙薬
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青い空。眩しい太陽。そして、大量のスパンコールで輝く兄の股間。
「なぁ、ジェル。やっぱりさぁ、お日様の光を浴びるって大切だよな!」
「……アレク。それはいいですけど、いいかげんその下品なパンツはやめて普通の下着をはいてくださいよ」
ワタクシの視界の端では、兄のアレクサンドルがはいている下品なギラギラパンツがうざいくらいに輝いていました。
急に彼は何を思い立ったのか、我が家の庭にビーチベットを持ちこんでパンツ一丁で日光浴をし始めたのです。
「何言ってんだ。このパンツが俺の普通だし、自分がしたい格好をしてるだけだぞ」
「まったく。どうもアレクとは美的センスが相容れませんねぇ。なんとかあの下品なパンツを我が家から根絶したいものですが……」
彼の下品な半裸姿をなるべく視界に入れたくないワタクシは、早々に自分達の経営するアンティークの店「蜃気楼」に退避することにしました。
「まぁ、せいぜい焼きすぎないようにすることですね。ワタクシ達の肌はあまり日光に強くありませんから」
「大丈夫だって。ちょっとお日様の光を浴びながら横になって南国バカンス気分を味わうだけだから」
「ならいいですけど」
彼の言うこういう時の“大丈夫”ほど信用ならないものは無いのですが、ワタクシはそこまで大変な事になると思っていなかったのです。
――まさか、夕方まで彼が寝てたなんて。
「うぇぇぇぇ~、ジェル~! 痛いよ~! ヒリヒリして何もできねぇ!」
アレクの肌は全身真っ赤になっていました。
今までも多少は日焼けで赤くなることはありましたが、こんなに真っ赤なのを見たのは初めてです。
これはもう火傷と言っても過言ではありません。
「助けてくれ! 痛くて服も着れねぇ!」
「あぁ、どうしましょう! 日焼けに効く薬なんて我が家にはありませんよ! えーっと、えーっと……そうだ! とにかく患部を冷やすことですね!」
冷やす患部は……全身じゃないですか! こんなのどうやって冷やせと⁉
「水、氷、雪。――あっ、そうだ。全身を一気に冷やす方法があります!」
ワタクシは急いで床に召喚の魔法陣を描きました。
「上手く召喚に応じてくれるといいんですけどねぇ。契約してない存在は必ず来てくれるとは限らないので……」
成功率を上げるために精一杯、魔力を注ぎ込みながら呪文を唱えると、魔法陣が光り輝き始めました。
「――我が求めに応じよ、雪女!」
「ゆ、ゆきおんな⁉」
そして魔法陣から現れたのは、昔話でよく見る黒髪に白い着物姿の雪女……ではなく、真っ白な髪の毛に白い着物姿のお婆さんです。
「ふん、何か用かえ?」
お婆さんは見ず知らずの人間に召喚されたのが不満なのか、警戒心をむきだしにしています。
「あれ? 雪女にしては……んんっ、いえ、何でもございません」
思っていたのとずいぶん違うなと思いつつ、軽く咳払いをしてワタクシは雪女と思われるお婆さんに頼みました。
「すみません、雪女さん。大至急、冷却してほしい男がいるんです! できれば自然解凍オッケーだと助かります!」
「おい、ジェル。俺を冷凍食品みたいに言うんじゃねぇよ」
「あれまぁ、そっちのお兄さん。あんたずいぶん良い男だねぇ~!」
雪女は、アレクの方を見ると目を見開いて、急に愛想よくなりました。
「えっ、俺?」
「しかし、その姿はどうしたんだい? 全身真っ赤じゃないかえ」
「日に当たったままうっかり寝ちまったんだ。もうどこもかしこもヒリヒリしてて痛くて痛くて……」
アレクは泣きそうな顔で雪女に訴えました。
「それは可哀想にねぇ。だけど、たとえアタシの力で全身冷やしてもその真っ赤な肌は治らんよ」
「えぇ~、じゃあどうすりゃいいんだ⁉」
雪女は「そうさねぇ……」とつぶやいて、何か思い出そうとするかのように視線を空中に彷徨わせました。
「……あぁそうだ! 河童の妙薬を塗るといい。河童だけが持っている不思議な薬さね。たとえ手を切断してもそれを塗ると元に戻せるくらいすごい薬だよ」
「やべぇな、それ!」
――なるほど。河童の妙薬の話なら文献で読んだことがあります。
人間や馬に悪戯をした河童が、人間にばれて懲らしめられ、詫びの印として薬を渡すというストーリーです。
とてつもなく強力な傷薬ですから、それならアレクの酷い日焼けもたちどころに良くなることでしょう。
「じゃあ、河童を召喚して……いや、それよりも河童の住んでいるところへ行った方が確実ですかね」
ワタクシの言葉に、雪女は軽く眉間にしわを寄せながら答えました。
「それは難しいかもしれんよ。河童たちは、今は魔界に移住して大きな沼で集団生活しとる。人間には行けぬ世界さね」
「大丈夫です、魔界なら何度も行ったことがありますから」
「……強引にアタシを呼び出したり、魔界にも行ったことがあるって。あんたいったい何者だい?」
「ジェルマンという名の、ただの錬金術師ですよ」
こうしてワタクシは、パンツ一丁のアレクを連れて魔界へ出かけたのです。
「なぁ、ジェル。やっぱりさぁ、お日様の光を浴びるって大切だよな!」
「……アレク。それはいいですけど、いいかげんその下品なパンツはやめて普通の下着をはいてくださいよ」
ワタクシの視界の端では、兄のアレクサンドルがはいている下品なギラギラパンツがうざいくらいに輝いていました。
急に彼は何を思い立ったのか、我が家の庭にビーチベットを持ちこんでパンツ一丁で日光浴をし始めたのです。
「何言ってんだ。このパンツが俺の普通だし、自分がしたい格好をしてるだけだぞ」
「まったく。どうもアレクとは美的センスが相容れませんねぇ。なんとかあの下品なパンツを我が家から根絶したいものですが……」
彼の下品な半裸姿をなるべく視界に入れたくないワタクシは、早々に自分達の経営するアンティークの店「蜃気楼」に退避することにしました。
「まぁ、せいぜい焼きすぎないようにすることですね。ワタクシ達の肌はあまり日光に強くありませんから」
「大丈夫だって。ちょっとお日様の光を浴びながら横になって南国バカンス気分を味わうだけだから」
「ならいいですけど」
彼の言うこういう時の“大丈夫”ほど信用ならないものは無いのですが、ワタクシはそこまで大変な事になると思っていなかったのです。
――まさか、夕方まで彼が寝てたなんて。
「うぇぇぇぇ~、ジェル~! 痛いよ~! ヒリヒリして何もできねぇ!」
アレクの肌は全身真っ赤になっていました。
今までも多少は日焼けで赤くなることはありましたが、こんなに真っ赤なのを見たのは初めてです。
これはもう火傷と言っても過言ではありません。
「助けてくれ! 痛くて服も着れねぇ!」
「あぁ、どうしましょう! 日焼けに効く薬なんて我が家にはありませんよ! えーっと、えーっと……そうだ! とにかく患部を冷やすことですね!」
冷やす患部は……全身じゃないですか! こんなのどうやって冷やせと⁉
「水、氷、雪。――あっ、そうだ。全身を一気に冷やす方法があります!」
ワタクシは急いで床に召喚の魔法陣を描きました。
「上手く召喚に応じてくれるといいんですけどねぇ。契約してない存在は必ず来てくれるとは限らないので……」
成功率を上げるために精一杯、魔力を注ぎ込みながら呪文を唱えると、魔法陣が光り輝き始めました。
「――我が求めに応じよ、雪女!」
「ゆ、ゆきおんな⁉」
そして魔法陣から現れたのは、昔話でよく見る黒髪に白い着物姿の雪女……ではなく、真っ白な髪の毛に白い着物姿のお婆さんです。
「ふん、何か用かえ?」
お婆さんは見ず知らずの人間に召喚されたのが不満なのか、警戒心をむきだしにしています。
「あれ? 雪女にしては……んんっ、いえ、何でもございません」
思っていたのとずいぶん違うなと思いつつ、軽く咳払いをしてワタクシは雪女と思われるお婆さんに頼みました。
「すみません、雪女さん。大至急、冷却してほしい男がいるんです! できれば自然解凍オッケーだと助かります!」
「おい、ジェル。俺を冷凍食品みたいに言うんじゃねぇよ」
「あれまぁ、そっちのお兄さん。あんたずいぶん良い男だねぇ~!」
雪女は、アレクの方を見ると目を見開いて、急に愛想よくなりました。
「えっ、俺?」
「しかし、その姿はどうしたんだい? 全身真っ赤じゃないかえ」
「日に当たったままうっかり寝ちまったんだ。もうどこもかしこもヒリヒリしてて痛くて痛くて……」
アレクは泣きそうな顔で雪女に訴えました。
「それは可哀想にねぇ。だけど、たとえアタシの力で全身冷やしてもその真っ赤な肌は治らんよ」
「えぇ~、じゃあどうすりゃいいんだ⁉」
雪女は「そうさねぇ……」とつぶやいて、何か思い出そうとするかのように視線を空中に彷徨わせました。
「……あぁそうだ! 河童の妙薬を塗るといい。河童だけが持っている不思議な薬さね。たとえ手を切断してもそれを塗ると元に戻せるくらいすごい薬だよ」
「やべぇな、それ!」
――なるほど。河童の妙薬の話なら文献で読んだことがあります。
人間や馬に悪戯をした河童が、人間にばれて懲らしめられ、詫びの印として薬を渡すというストーリーです。
とてつもなく強力な傷薬ですから、それならアレクの酷い日焼けもたちどころに良くなることでしょう。
「じゃあ、河童を召喚して……いや、それよりも河童の住んでいるところへ行った方が確実ですかね」
ワタクシの言葉に、雪女は軽く眉間にしわを寄せながら答えました。
「それは難しいかもしれんよ。河童たちは、今は魔界に移住して大きな沼で集団生活しとる。人間には行けぬ世界さね」
「大丈夫です、魔界なら何度も行ったことがありますから」
「……強引にアタシを呼び出したり、魔界にも行ったことがあるって。あんたいったい何者だい?」
「ジェルマンという名の、ただの錬金術師ですよ」
こうしてワタクシは、パンツ一丁のアレクを連れて魔界へ出かけたのです。
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