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season2
128話:霊VSオタク
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ジンの取引先のひとつだというその家は、なかなか立派なお屋敷で、出迎えた屋敷の主も裕福そうな人物です。
「おお! あなた方が霊能力者の方ですか! ジンさん、ありがとう!」
「どういたしまして♪ 彼らに任せておけば安心よ!」
ジンはどうやらワタクシ達のことを勝手に「霊能力者」と紹介したようです。確かにその方がなにかと都合は良さそうですけども。
「人形はこちらの部屋にあります。家族も皆すっかり怖がって困っているんですよ。ではよろしくお願いいたします」
屋敷の主は人形のある部屋を案内した後、そそくさと戻って行きました。
「なぁ、ジェル。俺達が“霊能力者”ってどういうことだ? ……もしかしてオバケか? オバケがでるのか⁉」
「アレク、静かにしなさい」
「いやだ~! お兄ちゃんジャパニーズホラーは嫌だっていつも言ってるのに! 俺帰るぅ~!!!!」
「アレクちゃん、落ち着いて。ただのお人形だから」
涙目で引き返そうとするアレクをなだめながら、ワタクシ達は部屋のドアを開けました。
そこには毛布で覆われ、ロープでグルグル巻きにされた何かがぽつんと置かれています。
「これは……いかにも、いわくつきという感じですねぇ」
「ひぃっ、オバケか⁉ オバケが中にいるのか⁉ そのロープ、ほどいちゃダメなヤツだよな⁉」
「アレク、ちょっと黙っててもらえますか」
ワタクシはロープをほどき、毛布をどかしてみました。
するとそこには、ガラスケースに入ったドレス姿の可愛い西洋人形があったのです。
「あらぁ、可愛いわねぇ♪」
「ほう、これは確かに値打ちものですねぇ……どれどれ」
ワタクシが状態をチェックしようとケースから出してドレスの裾をめくった瞬間、人形が震えはじめました。
そして野太い男の声で――
『いやぁぁぁー! なにするでありますかー!』
「え……?」
『ハレンチですぞ! セクハラでありますぞ!』
「うわっ……!」
思わずびっくりして人形を毛布の上に落っことしてしまいました。
今、あきらかに男性の声で、ハレンチだのセクハラだの場違いな単語が聞こえたのですが。
「ジン、この人形には第二次世界大戦中に捕虜になった少女の霊がついているんじゃなかったんですか?」
「てっきりそうだと思ったんだけど……違うみたいね。あなた、だぁれ?」
「しょっ、小生はこの世に未練があって留まっているであります。本名は恥ずかしいからハンドルネームで失礼。そうですな……キリト、と呼んで欲しいであります!」
「はぁ……」
これはどう見ても少女の霊では無さそうです。
とりあえずキリトと名乗る人形を拾って、毛布の上に座らせて詳しい事情を聞くことにしました。
「それで先ほど“この世に未練がある”とおっしゃいましたが、どんな未練なんでしょうか?」
「……魔法少女エクセレントサニー」
「は?」
「魔法少女エクセレントサニーちゃんの続きが観たいのであります! それを観るまでは成仏できないのであります!!!!」
人形は大声でよくわからない単語を叫びました。
「えくせれんとさにーちゃん……? なんですかね……?」
「さぁねぇ……?」
ワタクシ達には何のことかさっぱりわかりません。
しかし人形は、それを観るまでは成仏しないと頑なに言い張るのです。
「困りましたねぇ……」
これでは成仏させるのも難しいかと思われたのですが。
すると、ずっとジンの背中に隠れながらこっちの様子をうかがっていたアレクが、急に人形に近づいて語りかけたのです。
「なぁなぁ、サニーちゃん何話まで観た?」
「9話までであります。毎週楽しみにしてたのに、小生は交通事故に遭って死んでしまい、気が付いたらこの人形の中にいたんであります」
「9話か。わかる、わかるぞ……サニーちゃんが覚醒(かくせい)して新しいコスチュームになった話だよな。あれは感動したよな~!」
アレクは人形に向かって大きく頷いています。
「おお、同志よ! 小生も涙無しには観られなかったでありますよ! でもこの人形から出られなくて、続きを観ることもできず……」
「安心しろキリト。それなら録画してある! 俺の家で一緒に観よう!」
「おお、貴方が神か!」
アレクと人形が意気投合しているのを、ワタクシ達はただ眺めることしかできませんでした。
「よくわからないですけど、アレクのおかげで上手くいきそうですね」
「そうねぇ……」
こうしてワタクシ達は、無事に人形を譲り受けて自宅へと持ち帰ることができたのです。
それから2週間後――
「アレク氏! やっぱりサニーちゃんは尊いですなぁ!」
「だよな! でた~必殺技! サニーフラッシュ! いぇぇぇぇい!」
リビングで人形と一緒にソファーに座ってアニメを観ながら盛り上がるアレクを横目で見ながら、ワタクシは紅茶を飲んでため息をつきました。
「はぁ。このアニメも次週で最終回……これでやっと人形が手に入りますね。まったく、めんどくさいことになったものです」
しかしワタクシは、そのアニメが人気作品で続編がすぐ始まることや「続編も観たい」と人形が駄々をこねることなど、その時は知りもしなかったのでした。
「おお! あなた方が霊能力者の方ですか! ジンさん、ありがとう!」
「どういたしまして♪ 彼らに任せておけば安心よ!」
ジンはどうやらワタクシ達のことを勝手に「霊能力者」と紹介したようです。確かにその方がなにかと都合は良さそうですけども。
「人形はこちらの部屋にあります。家族も皆すっかり怖がって困っているんですよ。ではよろしくお願いいたします」
屋敷の主は人形のある部屋を案内した後、そそくさと戻って行きました。
「なぁ、ジェル。俺達が“霊能力者”ってどういうことだ? ……もしかしてオバケか? オバケがでるのか⁉」
「アレク、静かにしなさい」
「いやだ~! お兄ちゃんジャパニーズホラーは嫌だっていつも言ってるのに! 俺帰るぅ~!!!!」
「アレクちゃん、落ち着いて。ただのお人形だから」
涙目で引き返そうとするアレクをなだめながら、ワタクシ達は部屋のドアを開けました。
そこには毛布で覆われ、ロープでグルグル巻きにされた何かがぽつんと置かれています。
「これは……いかにも、いわくつきという感じですねぇ」
「ひぃっ、オバケか⁉ オバケが中にいるのか⁉ そのロープ、ほどいちゃダメなヤツだよな⁉」
「アレク、ちょっと黙っててもらえますか」
ワタクシはロープをほどき、毛布をどかしてみました。
するとそこには、ガラスケースに入ったドレス姿の可愛い西洋人形があったのです。
「あらぁ、可愛いわねぇ♪」
「ほう、これは確かに値打ちものですねぇ……どれどれ」
ワタクシが状態をチェックしようとケースから出してドレスの裾をめくった瞬間、人形が震えはじめました。
そして野太い男の声で――
『いやぁぁぁー! なにするでありますかー!』
「え……?」
『ハレンチですぞ! セクハラでありますぞ!』
「うわっ……!」
思わずびっくりして人形を毛布の上に落っことしてしまいました。
今、あきらかに男性の声で、ハレンチだのセクハラだの場違いな単語が聞こえたのですが。
「ジン、この人形には第二次世界大戦中に捕虜になった少女の霊がついているんじゃなかったんですか?」
「てっきりそうだと思ったんだけど……違うみたいね。あなた、だぁれ?」
「しょっ、小生はこの世に未練があって留まっているであります。本名は恥ずかしいからハンドルネームで失礼。そうですな……キリト、と呼んで欲しいであります!」
「はぁ……」
これはどう見ても少女の霊では無さそうです。
とりあえずキリトと名乗る人形を拾って、毛布の上に座らせて詳しい事情を聞くことにしました。
「それで先ほど“この世に未練がある”とおっしゃいましたが、どんな未練なんでしょうか?」
「……魔法少女エクセレントサニー」
「は?」
「魔法少女エクセレントサニーちゃんの続きが観たいのであります! それを観るまでは成仏できないのであります!!!!」
人形は大声でよくわからない単語を叫びました。
「えくせれんとさにーちゃん……? なんですかね……?」
「さぁねぇ……?」
ワタクシ達には何のことかさっぱりわかりません。
しかし人形は、それを観るまでは成仏しないと頑なに言い張るのです。
「困りましたねぇ……」
これでは成仏させるのも難しいかと思われたのですが。
すると、ずっとジンの背中に隠れながらこっちの様子をうかがっていたアレクが、急に人形に近づいて語りかけたのです。
「なぁなぁ、サニーちゃん何話まで観た?」
「9話までであります。毎週楽しみにしてたのに、小生は交通事故に遭って死んでしまい、気が付いたらこの人形の中にいたんであります」
「9話か。わかる、わかるぞ……サニーちゃんが覚醒(かくせい)して新しいコスチュームになった話だよな。あれは感動したよな~!」
アレクは人形に向かって大きく頷いています。
「おお、同志よ! 小生も涙無しには観られなかったでありますよ! でもこの人形から出られなくて、続きを観ることもできず……」
「安心しろキリト。それなら録画してある! 俺の家で一緒に観よう!」
「おお、貴方が神か!」
アレクと人形が意気投合しているのを、ワタクシ達はただ眺めることしかできませんでした。
「よくわからないですけど、アレクのおかげで上手くいきそうですね」
「そうねぇ……」
こうしてワタクシ達は、無事に人形を譲り受けて自宅へと持ち帰ることができたのです。
それから2週間後――
「アレク氏! やっぱりサニーちゃんは尊いですなぁ!」
「だよな! でた~必殺技! サニーフラッシュ! いぇぇぇぇい!」
リビングで人形と一緒にソファーに座ってアニメを観ながら盛り上がるアレクを横目で見ながら、ワタクシは紅茶を飲んでため息をつきました。
「はぁ。このアニメも次週で最終回……これでやっと人形が手に入りますね。まったく、めんどくさいことになったものです」
しかしワタクシは、そのアニメが人気作品で続編がすぐ始まることや「続編も観たい」と人形が駄々をこねることなど、その時は知りもしなかったのでした。
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