126 / 163
season2
127話:人形を救出せよ
しおりを挟む
それは晴れ渡った空にすがすがしさを感じられるある日の出来事でした。
アンティークの店「蜃気楼」に久しぶりに魔人のジンが行商にやって来たのです。
ちょうど一人で店番をしていたワタクシは、せっかくなので店のカウンターに紅茶を用意して彼とティータイムを楽しむことにしました。
「今日はアッサムの良い茶葉が手に入りましたので、ぜひミルクティーでどうぞ」
「――あらぁ良い香りねぇ、ありがと♪ ところでね、ジェル子ちゃん。いきなりなんだけど錬金術で霊を鎮めることってできるかしら~?」
「はぁ? 霊を鎮める……ですか?」
ワタクシがどうしてそんなことを聞くのかたずねると、ジンはとある人形にまつわる話を始めたのです。
「第二次世界大戦中に捕虜になった女の子が持っていたっていう古いお人形があるんだけどね。それが回りまわって、うちの取引先のお屋敷に売られたのよ~」
「なるほど。アンティーク物にはよくあることです」
「それでね、そのお人形はケースに入れてお屋敷に飾られてたんだけど。なぜか夜中になるとケースが勝手に開いちゃうんだって……」
「はぁ、ケースが勝手に開くのは困りますね。毎日閉めるのもめんどくさいですし」
「いやいや、そこは怖がるところよぉ~⁉」
「そうでしたか」
ワタクシはいわく付きの物に慣れているせいか、どうもこういうことは鈍いようで、怖い話を聞くのは向いていないようです。
「きっとお人形に持ち主だった女の子の霊がとりついてるんじゃないかしら。故郷に帰りたがっているのかも。可哀想よねぇ……なんとかしてあげたいわ!」
ジンは頬に手をあて、人形に思いを馳せています。
この魔人はいかつい外見に似合わず、面倒見がよくて優しいのです。
「ねぇ、ジェル子ちゃん。アタシと一緒にそのお屋敷にお人形を引き取りに行ってくれない?」
「え、ワタクシも一緒にですか⁉」
「えぇ。買い取った人がすっかり怖がっていて、無料でいいから引き取って欲しいって言ってるのよ~」
「無料なのはいいですが、わざわざ出向くのは面倒くさいですねぇ」
ワタクシが渋い顔をしながら紅茶を飲むと、ジンは電卓を取り出して独り言のようにつぶやきました。
「そのお人形、値打ち物でね~。上手く霊を祓うなり成仏させるなりして売ればこのくらいのお値段にはなるのよねぇ……」
電卓にはブランド品がたくさん買えるような数字が並んでいます。
「なるほど、とても可哀想な話ですね! ぜひお人形を救出して差し上げましょう!」
「さすがだわぁ、ジェル子ちゃん。アタシ、あなたのそういうところ大好きよ♪」
ジンは上機嫌です。まんまと乗せられた気がしますが、まぁ儲け話ですし別にいいでしょう。
「うふふ。そういえば、今日はアレクちゃんはいないの?」
「観たいアニメがあるからってリビングに引きこもってますよ。彼のアニメ好きにも困ったものです」
兄のアレクサンドルは、店番をさぼってリビングでアニメを観ているのです。
どうせお客さんはめったに来ない店なので別に構わないのですが。
ワタクシが上着を羽織って出かける準備をしていると、店と家を繋ぐドアからアレクがひょっこり顔を出しました。
「あれ? ジェルにジンちゃん? 出かけるのか?」
「えぇ、可哀想なお人形を救出しに行くんですよ」
「お人形……? なんかよくわからないけど、出かけるなら俺も一緒に行きたい!」
「まぁいいですけど……」
彼は幽霊とかそういうのは苦手なんですよね。大丈夫でしょうか。
「あらあら、アレクちゃんも一緒だなんて心強いわねぇ♪ さぁさぁ、行きましょ♪」
店の外に出ると、ジンは魔法の絨毯(じゅうたん)をサッと取り出して広げました。
彼はアラビアンナイトにも登場する有名な魔人で、これは物語にも登場する空飛ぶ絨毯なのです。
「やったぁ! 俺、この絨毯乗ってみたかったんだよ!」
「あらぁ、そうだったの。さぁ、どうぞどうぞ♪」
ワタクシ達が絨毯の上に座ると、ただの装飾された布にしか見えないそれはふわりと宙に浮きました。
「おお、浮いた!」
「さぁ、お人形を助けに行くわよ~! しゅっぱ~つ!」
ジンの合図で絨毯はヒラヒラと生地をなびかせて空を飛び始めます。
「おー、さすが魔法の絨毯! すげぇ速いな!」
「うふふ、見た目以上にハイスペックなのよ~♪」
たしかに大人3人分以上の重量が乗っているとは思えない速さです。
ワタクシ達はあっという間に、いわくつきの人形があるという家に到着しました。
アンティークの店「蜃気楼」に久しぶりに魔人のジンが行商にやって来たのです。
ちょうど一人で店番をしていたワタクシは、せっかくなので店のカウンターに紅茶を用意して彼とティータイムを楽しむことにしました。
「今日はアッサムの良い茶葉が手に入りましたので、ぜひミルクティーでどうぞ」
「――あらぁ良い香りねぇ、ありがと♪ ところでね、ジェル子ちゃん。いきなりなんだけど錬金術で霊を鎮めることってできるかしら~?」
「はぁ? 霊を鎮める……ですか?」
ワタクシがどうしてそんなことを聞くのかたずねると、ジンはとある人形にまつわる話を始めたのです。
「第二次世界大戦中に捕虜になった女の子が持っていたっていう古いお人形があるんだけどね。それが回りまわって、うちの取引先のお屋敷に売られたのよ~」
「なるほど。アンティーク物にはよくあることです」
「それでね、そのお人形はケースに入れてお屋敷に飾られてたんだけど。なぜか夜中になるとケースが勝手に開いちゃうんだって……」
「はぁ、ケースが勝手に開くのは困りますね。毎日閉めるのもめんどくさいですし」
「いやいや、そこは怖がるところよぉ~⁉」
「そうでしたか」
ワタクシはいわく付きの物に慣れているせいか、どうもこういうことは鈍いようで、怖い話を聞くのは向いていないようです。
「きっとお人形に持ち主だった女の子の霊がとりついてるんじゃないかしら。故郷に帰りたがっているのかも。可哀想よねぇ……なんとかしてあげたいわ!」
ジンは頬に手をあて、人形に思いを馳せています。
この魔人はいかつい外見に似合わず、面倒見がよくて優しいのです。
「ねぇ、ジェル子ちゃん。アタシと一緒にそのお屋敷にお人形を引き取りに行ってくれない?」
「え、ワタクシも一緒にですか⁉」
「えぇ。買い取った人がすっかり怖がっていて、無料でいいから引き取って欲しいって言ってるのよ~」
「無料なのはいいですが、わざわざ出向くのは面倒くさいですねぇ」
ワタクシが渋い顔をしながら紅茶を飲むと、ジンは電卓を取り出して独り言のようにつぶやきました。
「そのお人形、値打ち物でね~。上手く霊を祓うなり成仏させるなりして売ればこのくらいのお値段にはなるのよねぇ……」
電卓にはブランド品がたくさん買えるような数字が並んでいます。
「なるほど、とても可哀想な話ですね! ぜひお人形を救出して差し上げましょう!」
「さすがだわぁ、ジェル子ちゃん。アタシ、あなたのそういうところ大好きよ♪」
ジンは上機嫌です。まんまと乗せられた気がしますが、まぁ儲け話ですし別にいいでしょう。
「うふふ。そういえば、今日はアレクちゃんはいないの?」
「観たいアニメがあるからってリビングに引きこもってますよ。彼のアニメ好きにも困ったものです」
兄のアレクサンドルは、店番をさぼってリビングでアニメを観ているのです。
どうせお客さんはめったに来ない店なので別に構わないのですが。
ワタクシが上着を羽織って出かける準備をしていると、店と家を繋ぐドアからアレクがひょっこり顔を出しました。
「あれ? ジェルにジンちゃん? 出かけるのか?」
「えぇ、可哀想なお人形を救出しに行くんですよ」
「お人形……? なんかよくわからないけど、出かけるなら俺も一緒に行きたい!」
「まぁいいですけど……」
彼は幽霊とかそういうのは苦手なんですよね。大丈夫でしょうか。
「あらあら、アレクちゃんも一緒だなんて心強いわねぇ♪ さぁさぁ、行きましょ♪」
店の外に出ると、ジンは魔法の絨毯(じゅうたん)をサッと取り出して広げました。
彼はアラビアンナイトにも登場する有名な魔人で、これは物語にも登場する空飛ぶ絨毯なのです。
「やったぁ! 俺、この絨毯乗ってみたかったんだよ!」
「あらぁ、そうだったの。さぁ、どうぞどうぞ♪」
ワタクシ達が絨毯の上に座ると、ただの装飾された布にしか見えないそれはふわりと宙に浮きました。
「おお、浮いた!」
「さぁ、お人形を助けに行くわよ~! しゅっぱ~つ!」
ジンの合図で絨毯はヒラヒラと生地をなびかせて空を飛び始めます。
「おー、さすが魔法の絨毯! すげぇ速いな!」
「うふふ、見た目以上にハイスペックなのよ~♪」
たしかに大人3人分以上の重量が乗っているとは思えない速さです。
ワタクシ達はあっという間に、いわくつきの人形があるという家に到着しました。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜
古亜
キャラ文芸
たまたま出会ったヤクザをモデルにBL漫画を描いたら、本人に読まれた。
「これ描いたの、お前か?」
呼び出された先でそう問いただされ、怒られるか、あるいは消される……そう思ったのに、事態は斜め上に転がっていった。
腐(オタ)文化に疎いヤクザの組長が、立派に腐っていく話。
内容は完全に思い付き。なんでも許せる方向け。
なお作者は雑食です。誤字脱字、その他誤りがあればこっそり教えていただけると嬉しいです。
全20話くらいの予定です。毎日(1-2日おき)を目標に投稿しますが、ストックが切れたらすみません……
相変わらずヤクザさんものですが、シリアスなシリアルが最後にあるくらいなのでクスッとほっこり?いただければなと思います。
「ほっこり」枠でほっこり・じんわり大賞にエントリーしており、結果はたくさんの作品の中20位でした!応援ありがとうございました!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる